保育室内の遊びの素材と道具2011/09/03

保育室の遊具や教具を選ぶには、①子どもの発達と遊びに関する知識、②その遊びに用いる市販の玩具や教具、その他の素材や道具に関する知識、の二つが必要。そして、目の前の子どもたちの姿を把握することが大切です。

環境構成技術の向上には、他の保育園や幼稚園を見学に行くことが最も効果的だと思いますが、他の園に「私、〇〇幼稚園の〇〇と言いますが、園を見学させていただけないでしょうか」なんて、個人ではなかなか、ね。

そこで、保育園や幼稚園の玩具や素材が掲載されている本を、いくつか御紹介しますね。
保育の本には、「子どもを遊んでくれるおもちゃ」が掲載されている本と、「子ども自身が遊ぶおもちゃ」が掲載されている本がありますので、購入の際には注意して選んで下さい。
せっかく先生方が時間を使って手作りをしても、手や体を使い込むことができないおもちゃや、子どもが想像力や思考力をつかって遊びを生みだせるおもちゃではないと、子どもはすぐに飽きてしまいますので。


渡辺幸子「乳児の遊びと遊具」明治図書出版
乳児の遊びと遊具
発達が著しい012歳児クラス。子どもの発達と関心に沿って玩具が説明されています。


相良敦子「お母さんの敏感期~モンテッソーリ教育は子を育てる・親を育てる」ネスコ出版
モンテッソーリは、自分で遊びを作りだせない子どもでも遊べる「操作遊び」の教具が豊富です。今は文庫版か中古しかないようです。モンテッソーリの教具は高くて手がでませんが、この本には、「操作遊び」の手作りバージョンが満載。授業でも活用しています。内容は、3歳未満児クラスでも3歳以上児クラスでも使えます。


月刊クーヨン増刊 モンテッソーリの子育て 2010年03月号(雑誌)
モンテッソーリ教具は、おもちゃではなく、子どもの手の大きさにあった「本物」を用います。本物を扱う喜びは、大人が想像以上かもしれません。生活の教具は、3歳以上児クラスではとくに参考になります。



ファンタジーの世界を大切にしたシュタイナーの考え方に基づくおもちゃが数多く掲載されている本は上記のクーヨンシリーズの他には、あまりないため、輸入おもちゃの販売会社、「おもちゃ箱」のホームページをながめてみてください。
「おもちゃ箱」ホームページ


島田教明・辻井正「21世紀の保育モデル~オランダ・北欧幼児教育に学ぶ」オクターブ
オランダのピラミッドメソッド(テーマのある保育)を取り入れた幼稚園の保育環境が豊富な写真で紹介されています。


東間掬子「pripri0・1・2歳児の手作り遊具」世界文化社
ダンボール等を使った大型遊具の作り方が詳しく掲載されています。
しかし残念ながら、玩具の写真が表紙同様とてもにぎやか。写真をそのまま真似して作ると、視覚刺激が多く、子どもが落ち着かない保育室となってしまいます。作成するときには、大きな面積を占める遊具は色を抑え、子どもが見立てにくくなる色や模様、飾りは排して作成するように留意しましょう。



保育室に置かれているものには、その先生の「子ども観」と「専門性」が現れます。
保育室のおもちゃや飾りを、「かわいい~」といった自分の主観や、孫を喜ばせようとする祖父母のように、「子どもが好きだから」という理由では選ばないのが専門職。「保育の専門知識」という根拠に基づいて環境を選択することがプロの技の見せ所です。う~ん、プロの道は厳しいっ。

保育の質を確保する自治体の独自基準2011/09/06

小宮山洋子氏が厚生労働大臣に就任。着実な保育の質の確保に向けての取り組みが期待できそうです。

各自治体でも、地方主権に向け質の確保が進められています。
さきに紹介した「遊育」 では、「都道府県等の保育所認可基準と条例化の動き」の特集が組まれていました。
特集には、保育所の独自基準を設けている自治体が詳細に紹介されています。

千葉県は、県として指針を設置。国に上乗せした基準設置を行っているのだとか。
「保育所の設置認可の基準等に関する指針」

横浜市では、保育士配置基準は、「1歳児4人につき一人以上、2歳児5人につき一人以上、3歳児15人につき一人以上、4歳以上児24人につき一人以上とする」とし、「保育所保育指針」に示された保育ができる保育士数を、市が確保しています。
「横浜市民間保育所設置認可等要綱」(18ページに掲載)

京都市は、1歳児5人に一人、3歳児15人に一人、4歳児20人に一人、5歳児25人に一人として、私立保育所に補助を行っているそうです。

国の保育所の保育士配置基準は、子ども1、2歳児6人に対して保育士一人、3歳児20人に一人、4,5歳児30人に一人です。どんなに優れた保育士であっても、この最低基準で「保育所保育指針」に示された保育内容を実施することは不可能といえます。35人に教員一人が基準の幼稚園も同様です。
30人の3歳児を一人の保育者が、一人ひとりの気持ちをうけとめつつ適切な援助をする・・・なんて人間技ではありません。日本の幼児教育の構造の質は先進国とはほど遠い観があります。

今でも厳しい配置基準ですが、認定こども園の基準では、短時間保育児は、3歳でも35人に一人となります。短時間保育児と長時間保育児が混在するクラスでは、預かり保育で子どもは残っていても、人的配置基準は保育所よりも低くなってしまうのです。また、幼稚園では、預かり保育の時間は、教員の規定がありません。実際に幼稚園では、無資格者が預かり保育の時間に子どもを保育しており、文部科学省の調査では、無資格者の割合は私立よりも公立の方が多いというデータが出ています。
一体化によって、一定時間のみが「教育」で、その時間以外の時間は「託児」、という感覚が広がることは大いに問題です。また「教師の指示により子どもが行う活動」が「教育」で、それ以外は「自由遊び」という誤解が拡がることも、危惧されます。

オムツをつけている3歳児が増え、家庭で食事や睡眠、排泄などの基本的生活習慣を獲得できずに園での支援が必要なお子さんが増加しています。「遊び」が教育という「幼稚園教育要領」の考え方では、基本的生活習慣の獲得を支援することは困難であり、遊び・食事・休息等、一日の生活全体を通して「教育と養護」を一体で行う「保育所保育指針」を保育内容の最低基準にする必要があります。

しかし、保育内容の質は「保育所保育指針」にあわせ、構造の質は、幼稚園と保育所の中間というのでは、今以上に規定された保育内容を実施することが難しくなります。一体化により、保育の質が下がることになっては、子どもの育ちにとってはマイナスですから、まずは構造の質の確保が必要。

「最初の1ドルは後の7ドルを節約する」。幼児教育で心身ともに健やかで聡明な人間を育てることは、問題発生に対応する税金を節約することにつながります。将来の税収も医療費も、人格の土台をつくる幼児教育の質にかかっているといっても過言ではありません。子ども第一主義の浜松市、子育て支援全国一を目指す静岡県にも大いに期待したいと思います。


                  美しい自然を残す心があるまち 浜松  (写真は浜名湖)

持続可能な多文化社会をめざして2011/09/14

送っていただいた研修会の感想で「紹介された参考資料を読みます」と、うれしい言葉をいただきました。

最近研修会で紹介しているESD(Educational Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)は、次の本でくわしく読むことができます。

未来をつくる教育ESD

五島敦子・関口知子「未来をつくる教育 ESD 持続可能な多文化社会をめざして」明石書店
(これも明石書店、いい仕事してますね~)

ESDの基底にある価値として、次のようなものが紹介されています。
●社会・経済的正義の尊重
●将来世代の人権の尊重
●地球のエコ・システムを含めた生物多様性へのケア
●文化の多様性の尊重
●寛容と非暴力の文化の尊重

また、持続可能な開発に不可欠な概念としてケア(ケアリング)が挙げられ、次の3つのケアを教育で大切にすることが紹介されています。
●自身へのケア
●相互のケア
●環境へのケア


今、わたしたちの価値を根底から揺さぶるような大きな悲しみが日本中を覆い、それはこれから長い間続こうとしています。この時に、消費主義や快楽主義の価値観を変えられないとすれば、これからも変えることは難しいかもしれません。成熟したわたしたちに脱皮できるのは、今だろうと思います。

ちいちいぱっぱ、かわいらしいこと、強い色刺激や音刺激、かん高い声・・・子どもを「幼稚なもの」におとしめ、喜ばせたり楽しませる幼児教育を、子ども自身が力を獲得するほんものの幼児教育に変えていきたい。次の世代は、もう消費や快楽では生きられません。
生涯の基礎を培う乳幼児期の教育では、上記の価値を、内容と方法として展開し、消費主義から子どもたちを守りたいですね。

園庭の環境構成のヒント2011/09/18

今回は、園長先生のために、園庭の環境構成のヒントとなるカタログの紹介です。
アネビーさんのカタログには、川和保育園をはじめ幼稚園・保育園の園庭の写真や考え方が紹介され、ながめるだけでも勉強になります。

園庭物語カタログ

このカタログは、定価千円ですが、アネビーさんのホームページでもカタログの内容を見ることができました。


アネビーホームページ


環境が変わると、子どもがそこで経験できることが変わります。
地域から、自然と子どもの文化が消えようとしている今、幼稚園と保育園は、子どもたちにとって最後のオアシスといえます。子どもの文化という水をコンコンと湧きたたせ、地域へ広げる幼稚園と保育園、バンザイ!!

保育の質を高めるマネジメント(矢藤誠慈郎先生)2011/09/21

今、マネジメントで読んでいる本は「Hot Pepper ミラクルストーリー」と、「ひとつ上のチーム」。元気がでる組織づくりのヒントがいっぱいです。

マネジメントといえば、今年1月号の建帛社だより「つくし」掲載されていた「保育の質を高めるマネジメント」。これもおもしろかったですね~。矢藤先生らしい実に鋭い視点から、保育組織のリーダーについて書かれていました。

矢藤誠慈郎先生の「保育の質を高めるマネジメント」・・・建帛社のホームページで読めます。
矢藤誠慈郎先生のコラム


矢藤先生のご専門は教育経営学。リーダーの資質等についても研究しておられます。
このコラムでは、リーダーの役割として、ナレッジマネジメントを解説し、保育組織のリーダーシップの基盤として、「相手の思いや知に思いを馳せ、耳を傾け、目を凝らす『受信力』」と「ファシリテーターとしての役割を果たすこと」を挙げておられます。園内のナレッジマネジメント・・・同僚性を高め、園内に学びの文化を涵養し保育の質を高める継続的な仕組みとなりますね。またこれは、一人ひとりの保育者に専門職としての自覚を促し、保育者としての誇りにもつながる、とても大切な視点だと思います。

矢藤先生は、今年度研修の研究も行っていらっしゃるそうです。これまたおもしろい内容になりそうですね。
矢藤先生、報告書、楽しみにしていま~す!



池になった大学の駐車場。みなさん、台風大丈夫でしたか。

専門職と非専門職の行為2011/09/26

今日から後期の授業です。天気は雨だけど、キラキラと輝く学生たちの姿で教室内は快晴です。学生の真剣なまなざしにふれるとき、私はいつも大学の教員になってよかったと思います。

メールで「自分ひとりでも、保育を変えることはできますか」という質問をいただきました。私は、「はい、できます」と答えたいと思います。

保育を変えたいけれど、(他の先生方と違うことをすることはいけないのではないか)、(他の先生から嫌われるのではないか)と、いう不安を感じるかもしれません。
でも、「保育を変えることができますか?」という問いには、「私は子どもたちのために良い保育をしたい」という意志が含まれているように感じます。「子ども」を基準として行動している人は、きっと時間をかけて、変えることができると思います。



望月彰・谷口泰史編『子どもの権利と家庭支援』三学出版,
2005対人援助職の行為として次のような内容が紹介されています。(【 】内は高山が補足 一部を掲載)

・・・・「専門職」と「非専門職」の行為の違い・・・・

【意思決定と行為】
専門職・・・・・第一に、正式な教育と訓練の過程を通じて学ばれた知識体系に基づいて決められている
非専門職・・・第一に、個人的な意見と好み、あるいは所属機関の規則や決まりに基づいて決められている

【意思決定】
専門職・・・・・客観的であり、その状況の中の事実に基づいて意思決定する
非専門職・・・個人的な視点と都合に基づく主観的なルールによって意思決定する

【関心】
専門職・・・・・利用者の福祉とニーズが第一の関心事である。援助者は職務上の対人関係を自分の個人的なニーズ充足に使おうとはしない
非専門職・・・援助者の福祉とニーズが第一の関心事である。援助者は利用者と関係を結ぶことによって、援助者自身の個人的ニーズを満たそうとする

【利用者との関係】
専門職・・・・・利用者との関係は、目的が明確であり、目標達成指向であり、時間制限的である
非専門職・・・利用者との間の関係のあり方に方針が欠如しており、友人関係との区別がつかない

【情報共有】
専門職・・・・・新しい知識と情報を獲得し、それを同僚と共有することは援助者の義務と責任であると考えている
非専門職・・・新しい知識を獲得したりそれを同僚に教えることは自分の仕事ではないと考えている


専門職は、個人的な好みや感情ではなく、専門知識という根拠に基づいてその行為を選択すること。そのため保育環境や教育内容は保育目標や保育の原理との整合性が必要であること。・・・一度、このことをわかってしまったら、もう主観による保育には戻ることはできません。同僚も、きっと良い保育をしたい、良い保育者になりたいと思っているはず。まずは情報共有からはじめてみてはいかがでしょうか。

保育者はどこかに「子どものためスイッチ」があります。このスイッチを押すと体の奥底からパワーが湧いてきて、 自分には無理と思っていたことも軽々とやれてしまうのです(笑)。自分と同僚のスイッチを押してみて下さいね。