牛乳パックでかみつき・ひっかきが減る!?2011/11/08

今月の保育雑誌のお勧め記事は、何と言っても、『エデュカーレ』の「トーマが行く!」
トーマさんとは、元公立保育士、東間鞠子先生のことです。
東間先生は、保育室内や園庭に素材を加えて遊びを変化させる、遊び環境のアドバイザーとして有名ですね。

今月のエデュカーレでは、19名の1歳児クラスに、牛乳パックのおもちゃを20個⇒40個⇒60個と増やし、屋内で運動が充足できる環境をつくることで、かみつきやひっかきがみるみる減ったという実践が掲載されています。
(おもしろ~い!)

1,2歳児クラスの子どもは運動の敏感期であり、粗大な動きを最も必要としています。運動は、食事や睡眠・排泄と同じく、一次的欲求(生理的な基本的欲求)ですから、毎日不可欠なもの。不足すれば情緒は不安定になります。
しかし、園のさまざまな事情により、戸外に連れ出すことができない場合もありますよね。
私も、冬の間は避難訓練以外は保育室外へ出ない1,2歳児クラスを経験したことがありますが、そ~れはそれは大変でした。

集団が大きくなり、屋内の時間が増えるほど、保育者には環境構成の技術が必要。牛乳パックは、高さも変えられ重くでき1,2歳児の動きを引き出す環境としてぴったりですね。屋内が増えるこれからの季節、うまく活用したい保育のヒントをいただきました。

記事を読んで、つくりたくなった学生の皆さん、重い牛乳パック積木の見本は保育実習室にあります。
                  『エデュカーレ』は、布橋図書館で閲覧できます。

深まる秋の保育室の飾り2011/11/10

「エコの時代だし、毎月残業して色画用紙で壁面を製作することを、一度やめてみませんか?」という呼びかけに、現場の先生方からも、養成校の先生方からも賛同がよせられています。

同時に、「保育室には、どんな飾りをすればよいのですか?」という質問も増えました。季節感にあふれ、子どもたちの感性を育み、そこにいる大人も心地よい、そんな飾りであればあった方がよいですよね。

そこで、裾野市立御宿台保育園で、保育室の写真を撮影させていただきました。とても手の込んだ手作りの素敵な飾りが各クラスにあり、造形表現の授業で学生たちに見せるために写真をたくさん撮らせていただいたのですが、すぐに真似ができそうな簡単な飾りのみを、許可を得て紹介いたします。


                   子どもたちの折り紙を木の枝に。(裾野市立御宿台保育園)

                  野菜を置くだけで実りの秋のイメージが。子どもがさわれるのもいいですね(同園)
                 

                  ハロウイン?(同園)

                    かぼちゃの反対側は、こんな感じ。思わずにっこり。(同園)

                   秋の色合いで統一。(同園)

実りの秋は、どんぐり、栗、木の実、木のつるなど、そこに置くだけで素敵な飾りになるものがいっぱいです。う~ん、飾りをいろいろ作りたくなりますね。

裾野市は公立幼稚園も、季節の自然な飾りにあふれていました。富士の裾野に広がる美しい裾野市。富士山が近いため、さまざまな雲が生まれる様子を見ることができるのだそうです。美しい土地で育った先生方のセンスはとてもナチュラルでした。お世話になった先生方、ありがとうございました。

専門家は現場にいる2011/11/11

今年は、卒論で音楽を研究している学生が二人います。
文献をどんなに調べてもわからないことがたまり、インタビューへ行くことになりました。

合唱指導を専門とする先生から、「幼稚園ならこの先生」と推薦を受け、海の星鷺の宮幼稚園へ。
インタビューに答えてくださったのは、主任の小池益美先生です。

鷺の宮幼稚園の子どもたちのきれいな歌声、その秘密の一端を伺いました。内容は卒論に収録されます。


複式呼吸の指導法を学ぶ学生たち
           小池先生は、インタビュー終了後、学生たちに特別レッスンをして下さいました。

先生と記念撮影
             最後に記念撮影。こんな指導ができるようになりたいとあこがれをもった時間でした。


私は横で撮影係をしながら、先生の声の安定感と美しさに感動していました。
保育園時代、「話す言葉は歌うように」と指導を受けながら、こういう話し方や歌い方を獲得できないままでした。
このような聞き取りやすい安定感のある声で講義しないといけないな・・・としばし反省。

実は、小池先生は、実話をもとにした絵本も出しておられます。
「読み終わると、こころがほっこりします」とはゼミ生Sさんの弁。感動物語です。


専門家は現場にいる、知は現場にある、と実感した時間でした。

小池先生、 前田園長先生、ご多忙のなかであたたかくお迎えくださり学生に励ましをおくってくださったことを心より感謝申し上げます。ありがとうございました。

「2歳まではテレビを消してみませんか」がDVDに2011/11/18

明日は学園祭。私は土曜日は1号館1階のひろばに、日曜日は4号館4階の教室で上映会係をしています。学園祭に来られたらよって下さいね。

NPO「子どもとメディア」が制作した「2歳まではテレビを消してみませんか」。やっとDVDバージョンができました。
よかった~。懇談会などで使用できるように20分程度の内容にまとめられています。家島厚先生が症例を説明する部分もあります。

地域子育て支援が法律に位置づけられ、子育てを社会で応援する体制が少しずつ整ってきました。
しかし、「子育て支援センター」や「子育て支援ひろば」が、どんなに充実しても、保護者が、子どもの子守りをテレビベビーシッターさんにお任せになっている場合、子育て支援の場へ出かける必要性は生じません。支援の場をつくるとともに、映像メディアで長時間子守をすることの危険性と、自然と多様な人のなかで子どもを育てる必要性を知らせることで、『弧育て』は防止することができます。検診や祖父母への啓発を通して、支援センターやひろばを利用する保護者を増やしたいものです。

「NPO子どもとメディア」は、小児科医、保健師、保育士や教員、NPO、メディア関係者、研究者などが集まり、子どもとメディアに関する調査研究・啓発活動を行っています。保護者に配るチラシなどもホームページからダウンロードできます。

静岡県の私立幼稚園では、組織的にアウトメディアデーに取組むとの情報も。何が問題とされているのか、学生さんは保護者に説明できるようにしっかり勉強しておきましょうね。少なくとも、専門家という立場にある保育者は、「自分も見ていたから大丈夫ですよ」なんていう根拠のない主観的な発言は控える必要があります。

上記DVDは、発行物のページから問い合わせてみてください。

予算が少なくてもできる環境の工夫2011/11/20

「うちは公立で予算が少ないから環境を充実させることが難しい」という先生方の嘆きの声を各地でよく耳にします。

しかし、予算の多少にかかわらず先生方の工夫で環境の充実を図っている園もあります。 今日は、子どもの生活の必要に応じて、先生方が手作りで工夫をした備品(テーブル・間仕切り・棚など)をご紹介します。
            先生が牛乳パックで手作りしたテーブル。この回りには真剣な顔で遊ぶ子どもたちがいました。
                    (裾野市立御宿台保育園)


                 大きな間仕切りも牛乳パックで作成。カバーは柔らかい布で別途作成。すごい根気!
                       (裾野市立御宿台保育園)


                 衝突によるけがをさけることもでき、舞台や遊具にも使用できます。
                    (裾野市立御宿台保育園)


                 0歳児クラスの遊びの空間を区切っています。(裾野市立御宿台保育園)
                    

             これまた大きい0歳児クラスの仕切りとトンネル。重いため倒れる心配がありません。
                         (裾野市立御宿台保育園)


                 0歳児クラス。手作りの仕切りで作った食事のコーナー。
                 左奥の枠は、一人でじっくり遊びたい子どもの活動を保障するために作成・・・なるほど。
                  (裾野市立御宿台保育園)

                  ダンボールで作った棚。とても使いこまれています。(裾野市立御宿台保育園)
                    

                 組み合わせでさまざまな使い方ができる遊具を準備。(三鷹駅前保育園)


                 多様な使い方ができる遊びの素材を準備。(三鷹駅前保育園)
 

 保育室にある手作りの品々からは、先生方の子どもたちへの愛情が伝わってきます。手間ひまを惜しまないその姿勢、すばらしいですね。 ちなみに裾野市も三鷹市も保育に力を注ぎ予算による備品も充実しています。

なぜキャラクターが保育に必要なのか2011/11/27

「園から帰ってくると、子どもの手にアンパンマンが書かれているんです。子どもがうれしそうにしているから、一応『よかったね』と言いますけど、ほんとは先生に、『手に書かないで下さい』と言いたい」
「園の行事で、ウルトラマン音頭を踊るわが子を見て情けなくて涙が出ました」
「うちのクラスには、ディズニー絵本と昔話のアニメ絵本しかありません。参観に行くと腹が立って仕方ありません」
「なぜ先生たちってあんなにアンパンマンが好きなんですか?」

・・・・厳しいけれど、これは以前子育て支援をしていたときに保護者から直接聞いた声なんです・・・。


保護者は、「幼稚園や保育園の先生は専門家」と期待を抱いています。熱心な保護者ほど、保育の内容が「素人っぽく」感じてしまったときの失望感は大きいようです。でも、保護者は、先生には遠慮をして何も言いません。

テレビ番組やDVDになってしまったキャラクターは、子どもが想像をつけくわえる余地が少ないもの。キャラクターは、どの子どもも同じ声、同じ話し方、同じ行動を想像します。幼児はとても想像力が豊かですが、それでもさすがに
ウルトラマンやアンパンマンを赤ちゃんに見立ててごっこ遊びをする子どもはいません。シンプルな大型遊具の場合には、子どもたちの想像によってお家になったり船や消防自動車になったりと変化します。しかしキャラクターがついていると、とたんに子どもたちは想像力を発揮しにくくなります。
映像の再現行為は、類推や人とのかかわりが育っていない子どもにもできます。一方、ままごとや絵本のごっこ遊びは、子どもによって想像する内容が異なり、イメージのすりあわせが必要になります。「こういうことにしよう」と話し合ったり、意見のぶつかり合いでけんかが生じることもあります。
遊びのなかでさまざまな能力を獲得する幼児期には、完成されていて子どもを楽しませるタイプのおもちゃではなく、子どもが想像力や思考力を発揮することで遊びが生まれるような、シンプルな素材と題材を選ぶ必要があります。



子どもを楽しませてくれるタイプの文化は家庭で十二分に与えられています。保育者は、消費文化を園には持ち込まず、市場から子どもを守り、子ども自身がつくりだす遊びを優先したいですね。
キャラクター玩具やキャラクター絵本は、相談室や一時保育で、うまく活用してみましょう。

保育の専門職の場合、専門知識という根拠に基づいて、玩具や絵本の選択を行います。
以前、研究である園へインタビューに伺った際、先生方に「なぜこの人形ですか」、「なぜこの玩具はこの高さですか」とお尋ねすると、「それは・・・」と、そのクラスの子どもたちの発達段階とその玩具の特性とを合わせて、選択の根拠を説明されるのが実に見事でした。家庭では、玩具や絵本を「子どもが喜ぶこと」を基準にすることも多いと思いますが、園は家庭のモデルでもありますので、保育の原理に基づいた選択を行い、それをわかりやすく保護者にも説明できるとよいですね。





原賀隆一さんよりいただいた色紙
             草は子どもが想像力を発揮できるシンプルな素材。絵は原賀隆一「ふるさと子供グラフティ」
         

保育者のバーンアウト2011/11/30

尾木まり先生が監訳された本が出版されました。

保育者のバーンアウト
     ジェフ・A・ジョンソン著「保育者のストレス軽減とバーンアウト防止のためのガイドブック」
      尾木まり監訳、猿渡知子・菅井洋子・高辻千恵・野澤祥子・水枝谷奈央訳 福村出版



筆者は、自分も妻も、バーンアウトした経験から保育者のストレス軽減やバーンアウト防止の研究・啓発活動を行っています。保育のエピソード、家庭でのトラブル・・・国が違っても、保育者のストレスって実に似ているなあと納得。

ちょっと長くなるけど引用します。

「いずれにせよ、私たちには皆少なくとも一つの共通点があります。それは保育者であるということです。それは職場においてだけではありません。私たちのほとんどは、習慣的に他の人のケアをしています。共感し、愛情を注ぎ、思いやりをもって養育しています。そして、私たちはケアを必要としているどんな人にも『できません』と言うことができません。子どもの保育だけではく、子どもたちの家族、自分たちの家族、近所の人々、宗教的な集まりや市民グループ、知らない人、迷子の犬、そして巣から落ちてしまったひなの世話もします。それが私たちの姿です」
「多くの時間とエネルギー、そして自分たち自身のとても多くのものを他人に与えてしまうため、自分自身の欲求を無視する傾向があります」
「あなたが行くところはどこにでも、保育する子どもたちとのかかわりがついてきます」「休暇中でさえ、あなたは、子どもにみせるために光る石や、まつぼっくり、はがきを持ち帰りたいと思ってしまいます」

筆者は、バーンアウトの一番の要因は、「自分よりも他の人のケアに (多分はるかに多く) 時間とエネルギーを使う習慣」 だといいます。また、仕事に対して良いフィードバックを受けることが少ないこと、社会的な評価の低さと低待遇、仕事量が多いこと、過度の身体的負担などを挙げます。
保育という職務の大変さを理解してもらえるうれしさと、保育者へのあたたかいメッセージの数々に、涙ぐんだり、励まされたりしながら読み進めると次第に元気がわいてきます。後半は、ストレスを軽減するためのヒントが満載です。


この本を読みながら思い出すのは、私自身もう保育を続けるのは無理だと思った日々のこと。日中の子どもの保育で心も体も遣い尽くした後に、お迎えに来られた保護者の話を心をこめて聴き、ぼろぼろになって自宅の玄関で倒れこむ毎日を送っていました。まじめにカウンセリングなどの本を読み、保育に加えて保護者の心理支援までやろうとしていました。私の過労状態に周りの人が気づき「仕事を辞めなさい」と強硬に勧められ救われました。
在職中は、子どもと保護者の気持ちをうけとめきれない自分の非力を責めてばかりでしたが、退職して冷静になってみてから、「過酷な保育体制のなかで乳幼児の保育を行うことだけでも過重労働であるのに、加えて保護者のカウンセリングもなんて無理!」、「保育士は心理の専門職ではない」と、やっと怒りを感じることができました。(保育の条件が揃っていて10人の3歳以上児に3人の保育者がいる園ではできるのかもしれません)
子育て支援を経て保育の専門性を生かした無理のない保護者支援の方法にたどりついたところです。

著者はストレス防止という切り口から保育者を支援しています。私は専門性の確立による誇りと社会的地位の向上という切り口から、保育者をエンパワーすることをめざしています。
国は違っても、保育者の仕事を理解し力づける人がここにもいるといううれしさで胸がいっぱい。
尾木先生、翻訳者の先生方、ありがとうございます。


まだストレスよりも不安のほうが大きいであろう学生の皆さんには「新人保育者物語さくら」を、お勧めします。
研究室からこの本を借りていった人、返して~~。