指導案の指導に悩んだ夏2013/09/07

全国保育士養成協議会でお会いした皆様、ありがとうございました。
                   高松駅にて。

頭の中が保育者養成でいっぱいになった今日は、大学での指導案指導の話を書きます。
前期は保育課程、教育課程を教える科目を担当しました。
目標に、「保育の原理に沿った指導案を立てることができる」と書いたので、評価もそれで行わなければなりません。
そのため、この夏は100名近くの指導案をじっくり読むという大変にありがたいお仕事にひたりました。長く座ると腰が痛くなるのに、こんな目標を立てるんじゃなかった・・・と深く反省。他にも100名の記述試験を、ルーブリック評価するというおそろしい作業が・・・。しかし、大変なことは、たいてい自分にとっては価値があることで、授業改善のヒントがいくつも見つかりました。

指導案は、3歳児20名を対象としたもの。
指導案の評価項目は、学生自身が作る時間をとりました。
評価は保育の原理に沿っているかであるため、以下のような評価項目となります。

・地域や家庭の実態をふまえているか(これは、授業では評価しません)
・子どもの姿から計画を立てているか(子どもの姿とねらい・活動内容の整合性がとれているか)
・保育の目標と整合性のとれたねらいを立てているか
・保育の目標と整合性のとれた内容を選択しているか
・遊びを通した学びの活動になっているか
・子どもの発達段階に合った内容であるか
・主体性を尊重し、環境構成を行っているか
・応答性や相互的なかかわりを重視しているか
・個別性への配慮が含まれているか
・五感や身体を通した直接経験を重視しているか
「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」を逸脱した活動内容や、そこに示された保育者の役割や配慮事項とは異なる指導方法を入れている場合には、マイナスになります。

評価をしてみると、身体を動かす、感覚をフルに使う活動を中心にしている学生が多い。幼児期は直接体験で学ぶ時期。お~身体や五感を通した活動を重視するポイントをよく押さえているじゃないか~と自己満足。経験の原理を深く理解した学生は、野菜を使った表現活動でも、さわり、においをかぐから始まります。素晴らしい。

指導案で、課題が残ったのは、発達に合わせた活動の想定です。
発達の理解は、机上では難しい。しかしどんなに難しくても、保育を行う上では理解しなくてはなりません。ごくわずかですが、三歳児クラスの指導案に、立体物の工作、ルールのある集団遊び、グループに分かれた競争のある活動の想定がありました。三歳児は唯我独尊、自由人。競争心がなく、みんないっしょがうれしい段階です。今を生きる三歳児は、過去をふりかえって反省をしたり見通しをもって作戦を練ったりしません。もし、負けてくやしがる三歳児や、チームで力を合わせる三歳児がいたら、発達がよすぎてちょっと怖い。
このような子どもの発達過程は、各領域の視点から体系的に活動とリンクして捉えるとわかりやすいのですが、これは研究者の仕事としてまだまだ不十分、どのテキストにも載っているという段階に至っていません。

写真一枚でも、身体や表情の真似をしてみると、子どもの発達をより深く理解できます。(*授業やブログ等で使用する写真は許可をいただいたものを使用しています)


教育課程を教える授業の最も大きな課題は、遊びを通した教育を行う乳幼児期に、授業の形態と同じような時間の区切られた指導案を使うことで、保育の本質を誤解させているのではないか、ということ。遊びを通した教育では、活動が継続的で総合的なため、週案や月カリの作成が最も重要ですが、実習のためには日案、部分実習指導案を優先して教えなくてはなりません。ここがとても悩みどころです。

質的研究を学び合う会2013/09/12


大学の後期授業開始まであと10日ほどになりました。黒目川では大学生たちが夏の終わりを楽しむ姿を見かけます。川沿いにはキバナコスモスが満開。地域の皆さんのおかげで花畑を観賞させていただけてありがたいことです。






さて、保育実践の研究方法といえばアクション・リサーチが知られていますが、それ以外にも保育実践を研究するさまざまな方法があります。今は質的研究を理解している人はまだ少数派ですが、質的研究を使いこなす保育研究者が増えれば保育実践の理論化が進むだろうと思います。

そこで、保育における質的研究を学び合う会(保質研)のご案内です。研究会の代表は、お茶の水女子大学大学院院生の井上眞理子先生。まずは、西條剛央先生の著作をテキストに「研究とは何か」という基本中の基本から一緒に学んでいきます。原理を理解することで保育実践の研究方法の開発にもつながると考えています。対象は保育実践の研究を行っている人で実践者・研究者を問いません。

 

◎主催

 保育における質的研究を学び合う会(代表 井上眞理子)

 

 

◎日時

 2013年9月27日(金)1830分~2030

 

◎会場

 東洋大学白山キャンパス 6号館3階6303教室教室が変更になりました。6306教室です

 東京都文京区白山5-28-20

 

◎参加費

 無料
 

◎内容

「研究とは何か」

テキスト:西條剛央『看護研究で迷わないための超入門講座』医学書院 2,310

9月は、Lecture1Lecture2です。

ゼミ形式で行いますので、参加希望の方は本を購入いただき、該当ページの予習をお願いします。



◎参加申込

資料準備の都合上、恐れ入りますが9月25日(水)までに下記フォームからお申込みください。

http://my.formman.com/form/pc/0nG5UE6ZibhVueOQ/


◎今後の予定(時間は1830分~2030分)

第2回:1025日(金) Lecture3Lecture4

第3回:1115日(金)  Lecture5Lecture7

第4回:1213日(金) Lecture8Lecture10

保育士(保育所)の45の技術リスト2013/09/19

日射しは夏ですが風は秋。

保育士の技術といえば、音楽・図工・体育と言われたのは昔の話。保育士養成では、科目名も「保育表現技術」となり、その科目では環境構成も教えることが示されています。
私は保育士のミニマムなコンピテンシーと45の技術を抽出しましたが、出版はまだ先になりそう。授業や研修で配布するためにA4一枚の印刷バージョンが必要な方は、コメント欄にアドレスを入れていただければ、添付ファイルでお送りいたします。(コメント欄は公表されません)

保育士(保育所)の45の技術リスト
関係形成

1子どもをかけがえのない存在として尊重する

2すべての子どもに豊かな愛情を持って接する

3応答的に関わる

4あたたかな雰囲気で接する

把握

5子どもの発達段階を把握する

6子どもの生理的欲求を把握する

7子どもの感情や興味を把握する

8個と集団に注意を向け把握する

9子どもの環境を把握する

計画策定

10ねらいを設定する

11子どもの経験を想定する

12ねらいを活動(遊びと生活等)に展開する

13経験を助ける環境構成を計画する

環境構成

14子どもに合わせて用品を選択し準備する(生活場面)

15子どもと活動内容に合わせて生活の空間を構成する(〃)

16人的環境として自らの行動を調整し場の雰囲気を作る(〃)

17子どもに合わせて玩具や教具等を選択し準備する(遊び場面)

18子どもと活動内容に合わせて遊びの場を選択し構成する(〃)

19人的環境として自らの行動を調整し場の雰囲気を作る(〃)

モデル

20行動のモデルを示す

見守り

21子どもの主体的な活動を見守る

22子どもの健康と安全を守るために見守る

23個々の子どもと集団全体を見守る

24子どもに注意を向けながら雑事を行う

直接援助・指導

25ミルクを適切に飲ませる(生活場面)

26離乳食を適切に食べさせ自立を支援する(〃)

27幼児食の自立を適切に支援する(〃)

28睡眠の自立を適切に支援する(〃)

29排泄の自立を適切に支援する(〃)

30着脱・清潔の自立を適切に支援する(〃)

31抱く,歩行を適切に支援する(〃)  

32子どもの気持ちを受け止める(遊び場面)

33子どもと話し合う(〃)

34集団に対して説明をする(〃)

35遊びのコツを伝える(〃)

36遊びのルールを伝える(〃)

37質問をし子どもの思考や言語化を助ける(〃)

38子ども同士の関係を援助する(〃)

39必要な子どもに援助を行う(〃)

日課管理

40毎日同じ日課を繰り返し行う

41子どもの様子によって日課を変化させる

記録・評価

42記録を作成する

43保育を振り返り評価を行う

連携

44チームワークを大切にし協力し合う

45記録・連絡・報告を行い,情報を共有する

顔のケガが増加?2013/09/23


朝霞キャンパスいこいの広場横
学内は、今どんぐり拾い放題。


日本保育協会保育科学研究所学術集会に、G3(保育環境委員会)のメンバーが昨年度行った「乳児保育におけるトラブルの要因とその解決に関する研究」(研究代表者:森本信也、共同研究者:田中哲郎、大西宏幸、志賀口大輔、辻健二、落合陽子、三角岳生、浅香聡彦、堀昌浩、吉岡伸太郎、竹内勝哉、永瀬時久、相沢康夫)の発表を聞くため参加してきました。参加できたのは日曜日だけですが、学びの多い一日となりました。

配布された資料に、2010年4月~13年3月までの保育園での事故分析の資料がありました。保育園児等傷害保険に加入する3,571園の事故件数は、6,900件(園児および職員)。3年間で平均事故件数は1.93件という驚くべき数字です。かつ97%が通院の軽傷。(日本興亜損保公務部医療・福祉法人化「保育所の事故事例・統計」日本興亜損保,日本保育教保育科学研究所第3回学術集会、2013)

各園の園児数を平均90人と考えても、身体機能や注意が未熟でケガをしやすい乳幼児ばかりを保育していながら、保険が下りるケガが大変に少ない。これは誇るべき数字だと思いました。ちょっと古いですが、6歳までの子どもの医療機関の受診を必要としたケガや事故を経験した子どもの割合は31.3%という数字があります。(国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部)

気になったのはケガの部位が、顔面のケガが第一位であり、34.96%であること。手指が8.42%、下肢が6.54%と比較しても、手やひざをつくよりも顔から転ぶ子どもが多いことが推測されます。最近予測がつきにくいケガをする子どもがいると聞いたことがあります。20センチの高さから飛んで足を骨折した子どもは、2歳まで外遊びに行ったことがなかったそうです。入園までに、発達に必要な動きを経験していない子どもに対して、不足した経験を保育で補い、その安全を守ることは大変なご苦労だと思います。

小学生では、1978年には顔のケガが62,677件であったのが、2007年には110,931件と二倍近くに増加しているというデータがあります。(独立行政法人日本スポーツ振興センターの統計報告:孫引きですみません。子どもの体力及び運動能力の向上に関する研究 平成20年度神奈川県立体育センター研究報告書『子どもの体力及び運動能力の向上に関する研究』神奈川県立体育センター指導研究部 スポーツ科学研究室)

子どもが顔にケガをすると、保育者も保護者も傷が残るのではないかと心配することでしょう。それが増えているとするならば、事前にそのことを保護者に伝えておく必要があるかもしれません。

大会では、今以上に事故を減らしていこうという園長先生方の強い責任感を感じました。また「安全であるべき保育園という物語がマスコミから流されている」という発言には考えさせられました。保育園や幼稚園は、注意力が未熟な乳幼児が集団で活動する場であり、小学校並みの30~35人の子どもを一人の保育者が見守る人的配置であり、家庭よりも活動的な日中の時間を過ごし、教育的意図をもって家庭よりもダイナミックな遊びをしているのですから、家庭よりケガや事故が起こる可能性が高いと考えることが妥当です。

保育者は、保護者に乳幼児期は小さなケガをしながら育つ時期であることを事前に伝えると共に、ケガから体を守る子どもに育てるには、テレビやドライブやベビーカー等、子どもの運動を奪う時間を最小限にして、子どもが園でも家庭でも発達に必要な動きを経験できるように伝える必要性がありますね。

一時預かりの玩具2013/09/29

「保育室には、どの人形を置きますか? その根拠は何ですか?」
これは環境構成の研修でよく行うグループワーク。正解があるわけではなく原則を理解するために行います。

授業で使用する人形の写真を印刷したカード

授業であれば、各グループにカードを配布して考えますが、人数の多い研修の場合にはパワーポイントで写真を写しグループで話し合う時間をとっています。300人でもペアワークやグループワークができるのは、研修の対象がコミュニケーションの得意な保育者だから。全てのグループに発表してもらうのは無理なため、数グループにのみ発表していただきます。提示された人形を実際に保育で使っている保育者も、改めて「なぜその人形なのか?」と問われることで、実際に子どもがその人形でどうやって遊ぶかを説明しながら、選択の根拠を言葉にし、人形の特質を再認識することもあるようです。

その際、グループで意見が分かれるのが、「ア○パンマン」の扱いです。ア○パンマンは、「大学で教えているのですか?」と、保護者に尋ねられることがあるほど、保育現場に浸透しているキャラクターです。
テレビで放映されるキャラクターは、キャラクターの固定による見立てにくさや感情移入の難しさ、世話遊びへの発展性の低さなど、保育で使用する根拠は見つかりにくいのですが、キャラクター人形があるといい場として意見が出るのが、「一時保育室」と「個別面談相談室」です。

とくにその日だけの一時預かりの場合、不慣れな場で親と離れて不安な気持ちの子どもを、どうやって安心させることができるかは最大の課題です。子どもは、不安な状態のときには、お人形の世話をすることや積木で創造性を発揮することができません。情緒が不安定なときには、自分で遊びをつくりだすことは難しいのです。
そんなとき、場になじむための装置として、家庭でよく遊んでいる玩具や、子どもに遊びを指示しているタイプの玩具を置く方法があります。
遊びを指示するタイプの玩具の典型はパズルです。情緒が不安定な子どもや、想像力が未熟な段階の子どもでも、うまくできたという感覚が味わえます。モンテッソーリ教具には、操作を指示するタイプの教具が数多くあります。相良敦子さんの著作には、操作を中心とした魅力的な手作り教具が紹介されています。

3歳児には簡単なんだけれども、1歳児には難しいパズル

赤いぽっちが、「つまみなさい」と子どもに行動を指示しています。


マグネットボードも操作の遊びでもあり、慣れてくると想像遊びにも広がる魅力的な玩具ですね。
和久洋三さんの玩具がたっぷりと準備されたアリスチャイルドケアサービスさんにて撮影


不安な状態の子どもには、玩具を間に置いて安心をうながすのも一つの方法です。保育士が、直接話しかけても泣き続け、「この人誰?いやだ、話しかけないで」という状態の子どもには、人形を使って話しかけると、じっと聞く場合があります。その人形を使って、保育者やお友達や場の紹介をしてみてはどうでしょうか。

とはいえ、一時保育室は、保護者にとっては玩具や絵本のモデルルームでもあります。一時保育を利用して、「家庭でのビデオ視聴が増えた」、「家庭にテレビ文化の玩具が増えた」とならないように配慮したいものです。子ども自身が遊びを生み出すための素材や道具を、保護者から見える位置に配置しておくなどの方法もあります。

*この内容は、一時保育に携わる先生からのリクエスト企画でした。