保育園で絵と出会う2013/11/01

「さいきん高山さんのブログ、大学の先生みたい」と言われて笑いました。そうなんです。大学の専任教員になって5年半。最近やっと大学の教員だという自覚が出てきたと思います。「私は保育士だ」という感覚が強いときは、「保育者変わらなきゃ、現場変わらなきゃ」と思っていましたが、最近は、「まず養成校と教員が変わらなきゃ」と自覚が強くなりました。
保育の写真を撮るときも、現場の人間だったときには子どものアップが中心。でも今は保育の邪魔にならないように遠くから撮る癖がつきました。

今回は保育園に絵が飾られている様子をご紹介します。いずれもながかみ保育園さんです。





保育室でとても心惹かれる絵に出会いました。

 
近づいてみると、とても細やかなちぎり絵でした。浜松在住の安間佐恵さんの作品だそうです。


児童デイと保育園棟のギャラリーで展示されていました。この絵が生まれた背景にも心打たれました。



子どもたちの作品もまたとても素敵、かつ楽しい。詳しい内容は「新幼児と保育2、3月号」に掲載予定です。


熱心に保育を説明される野村弘子先生。野村先生にはいつも保育について教えていただいています。保育経験を持ちながら、海外や日本の保育園を多数見て、働く複数の園の改装や設計に携わり、設計した園で保育をした経験をお持ちの保育者は、きっと日本にお一人ではないでしょうか。いつもおじゃましてしまってすみません。

保育者の研究~先行的な実践の調べ方2013/11/08

立場上、保育者の研究大会で助言者をすることがあります。そんなとき、ほんとに申し訳ない気持ちでいっぱい。
なぜなら私は現場にいたときには夜と休日は教材準備で精一杯だったため、「無理です。できません。保育に支障が出ます」と、研究担当を受けなかったからです。

退職してから研究会に参加し、見よう見まねで研究報告書を書きはじめました。大学院へ入ってから、(なあんだ、研究には、こんなお作法があったのか)と、研究報告の書き方がやっとわかりました。研究者でも、自立して研究するために大学院に5年は所属します。それもなしに、「保育者は研究に弱い」と言われるのはとても理不尽。
研究大会でコメントするときには、研究的な実践」の内容についてコメントするように意識していますので、報告としての体裁を整えるためにあまり時間を使いすぎないでくださいね。研究は手段にすぎませんから。もしも誰かに、「研究としてここが悪い、研究の基本がなっていない」と言われることがあったときには、「私は、保育の実践者ですから!」と、両腰に手をあて、堂々と胸をはっていてほしいと思います。

保育士の場合、自分の関心とは異なるテーマが割り振られる場合があります。強制的に割り当てられる研究には、参加させないという強者の園長先生もいらっしゃるようですが、雇用される保育士の立場では、拒否するのは難しいですよね。新人教員の私にできるのは、保育者への情報支援しかありませんから、研究的な実践の方法について少しずつ書いていきたいと思います。

まず何か研究テーマがやってきた場合には、同じテーマを研究した人、同じテーマで実践した人がこれまでにいるかを調べてみます。保育者が、先行的な実践をどうやって探すか。今のところまだ実践の蓄積サイトはありませんが、刊行された論文や本に載っている実践であれば探すことができます。

たとえば「子育て文化」という研究テーマが割り当てられたとします。
まずはネットで検索。「子育て文化」と名のつく研究所やサイトなどが見つかるでしょう。そこから参考資料が見つかる場合もあります。似たようなキーワードでも探してみましょう。


信頼できる情報は、国立情報学研究所の GeNii 学術コンテンツ・ポータルで。
まとめて検索の枠に、「子育て文化」というキーワードを入れると・・・。


検索結果として、「子育て文化」に関連する論文や本・雑誌の一覧が出てきます。検索結果は、論文が76件、関連書籍が50件他。そうすると、子育て文化をテーマにした保育園の実践が、どの雑誌の何月号に載っているかがわかります。



そこから論文の検索であるCiNiiをクリックし、詳細検索で題名に「子育て文化」と入れ、本文ありにチェックを入れて再度検索すると、ネット上で読める論文が6件出てきます。論文の最初の部分には、言葉の定義やそれまでの先行研究が整理されていることがあります。



元にもどって、Webcat Plus の詳細検索でタイトルに「子育て文化」を入れて検索すると、
本や報告書が見つかります。

こうして、まず他の園がどんな実践をしているのか、子育て文化についてどんな問題が議論されてきたのかがわかると、研究メンバー同士でどんな研究的な実践を行うか、話をはじめやすくなります。先輩方の実践に学び、その上に積み上げていくことができます。試してみてくださいね。

研究が好き、実践研究をやってみたいと思う保育者には、大学院へ行くことを強くお勧めしたいと思います。これからの時期、各大学院で来年度の募集が始まります。

レモネードちゃんに来てほしい2013/11/16

尾張旭市のレイモンド庄中保育園まで行ってきました。小学館「新幼児と保育」の取材です。


 
玄関では、レイモンドちゃんがお出迎え。園内にさまざまな物語がある園でした。

曲線がたっぷりの園内は、とても明るくておだやかな空間です。
私もこんな園で育ったら、少しはセンスが良くなったかもしれません。

いくつもある物語のなかで、とても楽しかった物語が、レモネードちゃんのお泊り作戦
手作り人形の仕上がりがちょっと個性的だったために?名前がレモネードちゃんに変更。
そのレモネードちゃんが園児のご家庭にお泊りにいくのだそうです。壁にレモネードちゃんが各家庭に泊ったときの様子を、親御さんが撮影した写真が掲示してありました。親御さんたちが一緒になって楽しんでいる感じがとってもいいです。

 
うれしそうですね。
一人ひとりの子どものイメージのなかで、レモネードちゃんはどんなしゃべり方をして、どんな性格なのでしょうか。子ども時代に子どもを生きられる、ファンタジーの世界で遊べる子どもたちは、本当に幸せです。

この園では、各クラスを流れる壮大な時間軸で考えられたデザインのストーリーや、海外の園との交流、デザイナーと子どもたちの協働作品など、他にも素晴らしい実践がたくさんありましたが、やはり、子どもの生活に密着した物語は素敵です。この実践は、ファンタジーの世界と現実の世界をつなぎ、子どもの世界を拡げる意味もあります。ぜひレモネードちゃんに、新幹線に乗って、大学の講義を見学して、学食で学生と一緒にランチを食べていってほしいものです。図書館もご案内します。

中村園長先生、平井亙先生、大変にありがとうございました。


帰りは、名鉄の招き猫電車に乗りました。でも、後ろからの撮影はちょっと難しすぎました・・・。

保育実践研究のテーマ(2)2013/11/21

「素材の選択と子どもの遊び」に関する演習を行った後、突然「研究テーマを変えようかなあ…」と言い出したゼミ生のKさん。(ゼミ論提出まであと一か月なんですけど・・・)「モンテッソーリ教具を用いた遊び」という創造的なテーマに変更です。

わずか数分で作ったKさんの作品。


今回は、保育者が行うグループ研究(異なる園の先生たちで行う研究)の具体的なテーマのお話。以前、保育者が行う実践研究では、「なぜ」を追及する検証型の研究よりも、「どのように」「どのような」という問いで実践内容を明らかにする研究の方が取り組みやすいという話を書きました。よりよい保育をしたいという思いがあると、どうしても「よい○○とは何か」とか「望ましい○○のあり方」を研究したくなりますが、まずは、それぞれの園の実践内容とその考え方を明らかにする研究に取り組むことで、よりよい実践に対する考察が生まれてきます。せっかく貴重な時間を使ってグループ研究をするのですから、実践に役立ち専門性を高める研究に取り組みたいですね。

たとえば、異なる園の先生方で取組みやすい研究テーマには、こんな内容があります。
保護者の保育参加の方法と工夫 → 目的:保護者の保育参加にはどのような方法や工夫があるのか→方法:各園で行う保育参加の方法と工夫を持ち寄る。その他の実践を調べる。→効果的な保育参加について考察する。
慣れ保育(慣らし保育)の方法と工夫 → 目的:子どもと保護者が通園という新しい生活に自然に慣れるためには、どのような方法や工夫があるのか→方法:各園で行う慣れ保育の方法と工夫を持ち寄る。その他の実践を調べる。慣れ保育の方法と工夫を整理する→効果的な慣れ保育の方法と工夫を考察する。
年長児クラスの教育(教育内容の保幼少連携)→ 目的:年長児の後半、各園ではどのような教育が行われているか、実態を明らかにする→方法:調査する内容を決め、各園の保育内容をその枠に沿って担当者が内容を記入する。年長児クラスの教育内容を類型化し指針や要領と比較して考察する。
X歳児(×歳児~×歳児)クラスの話し言葉を育む保育目的:X歳児の話し言葉を育むためにどのような保育を行っているかを明らかにする→ 方法:各園で行っている保育内容(環境構成は写真・直接的援助は書き出す)を持ち寄る。→全員で見合い、内容の類似性に基づいて類型化し、表題をつける→話し言葉を育む保育について考察し構造化してポイントを示す。(話し言葉の部分を他の内容に変えて応用できます)
保育者の「環境構成」のとらえ方 → 目的:保育者は環境構成をどのようにとらえているか保育者の意識を明らかにする→ 方法:各園で「X歳児クラスの保育環境」というテーマで写真を撮影し説明を書き、その内容を類型化する→各保育者の環境構成のとらえ方の違いとその背景を考察する。
●X歳児クラスの環境構成の実態 → 目的:X歳児クラスの室内保育環境の実態を明らかにする→ 方法:各園で「X歳児クラスの保育環境」というテーマで、写真を撮影し説明を書く。そこに置かれた遊びの素材や道具を比較する→実態を考察し、X歳児クラスの保育環境について考察する。
●保育者の服装の現状と意図 → 目的:保育者の服装の実態と選択の意図を明らかにする→ 方法:各園で保育者の服装の写真を撮影する。保育者へインタビューを行い、意図が含まれる部分を抽出し、選択の根拠を明らかにする→保育者の服装の実態と、その選択意図の背景について考察する。

他にも、絵本選択の現状と意図、玩具選択の現状と意図、室内装飾の現状と意図、×歳児の食事の援助、×歳児の午睡の援助など、多様な園の先生方が集まった方が取組みやすい研究があります。

実践研究で、研究しやすいテーマ、研究しにくいテーマについては、2012年に「保育の研究テーマ」に書いてます。
ご参考まで。

芝生広場も晩秋の景色。

うつぶせ寝での窒息事故2013/11/29

Y市のファミリー・サポート・センター事業で、5か月の赤ちゃんがうつぶせ寝で亡くなるという痛ましい事故が起きました。親御さんの心中を思うと胸が痛みます。

この事故では、預かった者が「うつぶせ寝の危険を知らなかった」という事前研修内容の不備が問題になっています。子どもを預かる人の知識と能力は、子どもの命を左右します。一時預かり事業やファミリー・サポート・センターの研修でも、保育士の養成でも、子どもの重大事故を防止するための最低限度の知識は、確実に身に着ける仕組みが必要です。
私自身ファミリー・サポート・センターの預かり会員をしたとき、「研修を受ければ誰でも預かることができる」仕組みには泣かされました。その市では集団託児をファミサポが請け負っていましたが、預かり会員には、「もうどこでも仕事ができないから」と託児の時間中ただ座っているだけの高齢の方がいました。赤ちゃんにドーナツを食べさせようとする会員を止めたり、泣いた赤ちゃんを叱りつける会員にも悩まされました。もちろん思いをもって会員になる個人や、質を確保しようとしているファミサポ団体もありました。その経験から一時預かりのボランティアに向けた冊子をつくり、子育て広場をはじめたときには、ボランティアであっても資質と能力を問うようにしていました。

一時預かり事業の研究で「研修では講師に具体的な内容を示すこと」としたのは、初年度の研究で、ファミリー・サポート・センターテキストと、ベビーシッター協会のテキストを比較して、その内容に差異を発見したことがありました。ファミサポのテキストには記述がない事故の種類が多く、命にかかわるアナフィラキシー・ショックや熱中症についても書かれていませんでした。(ファミサポの事前研修ではテキストを使わない場合も多くあります)。保育士養成の「子どもの保健」の教授内容も、事故防止はわずかしか扱われない指導内容となっていますので、テキスト調査を行えば同様の差異が見つかるでしょう。

子どもの命を守るためには、保育士には地域保健活動よりも、集団や個別保育で起きやすい事故防止と対応を、できるだけ時間数を使って教授する仕組みが必要です。ファミサポの事前学習では、一般の家庭で起きやすい事故の防止策や、個別保育で起きやすい事故の防止策を、最優先で教える必要があります。そのためには国の通知内容も重要ですし、子育て支援の担当課に保育に精通した(経験が長いではなく)専門官を置くなどして、研修内容を確保する仕組みを各自治体で考える必要も出てきているでしょう。

「子どもを預かる」仕事に就くときに、知っておくべき事故防止と緊急対応には以下のようなものが考えられます。
(テキスト調査と過去の重大事故からリストアップしました)
・転倒・転落
・衝突
・誤飲
・誤嚥
・窒息
・アレルギー(アナフィラキシーショック)
・揺さぶられ症候群
・やけど
・溺水
・熱中症
・目・耳・鼻の異物
・ひきつけ(けいれん)
・自動車・自転車・三輪車
・屋外遊具による事故
・虫刺症、咬傷
・自然災害(雷・川の増水・園庭屋根の雪・地震・津波など)
・不審者の侵入

小児医療や事故防止の専門家の先生方ですと、これ以外にも入れる必要があると考えるものがあるかもしれません。

保育士養成課程の教授内容に、
「生命にかかわる重大事故の事例と防止」
「集団保育で発生しやすい事故とその防止」
「家庭で起きやすい事故とその防止」
などの項目を入れるだけでも、「子どもの保健」のテキスト内容が変わるように思います。

屋内では、玩具の質と量の選択と空間の構成も、事故防止には重要です。