赤ちゃんの体を育む2014/09/07

0歳は、運動の中心である腰、知性の原点である注意力、心の根っこである人への信頼感、この3つが育つ大切な時期です。これらは、愛情を注げば自然に育つ性質のものではありません。子育ては本能ではできない学習性の行動。子育て支援を担う保育者としては、これらを育むポイントを、保護者にわかりやすく説明できるとよいですね。

今回は、運動の中心である『腰』を育てることについて、ポイントを書いてみたいと思います。
顔から転ぶ子どもが増えているというデータがありますが、2歳をすぎても歩くとすぐに疲れて抱っこをせがむ子どもや、歩行がいつまでも安定せずに転びやすい子どもが増えているという声も聞きます。0歳児クラスや子育て支援の担当者は、家庭生活の変化に配慮しながら、保育・支援内容を考えていきたいものです。

ポイント1 早寝早起き、夜ぐっすり。午前はにぎやか夜静か。
 
運動には脳の成熟が現れます。生活リズムが脳成熟の基盤。脳が機能し健やかに発達するためには、睡眠が大切です。今は昼は静かで夜がにぎやかな家庭も多いものです。赤ちゃんは昼間に太陽の光を適度に浴びることが必要。昼間は家に人を呼んだり散歩や買い物に行くなどしてにぎやかに過ごし、夜8時頃には静かに真っ暗な部屋で眠ることが、発達の基盤になることを、0歳の時期に上手に伝えておきたいものです。

ポイント2 仰向けで手足をバタバタ動かすことが大切、育児用品はほどほどに。
0歳の基本姿勢は、仰向けか、うつぶせ。仰向けで手足をバタバタと動かし、腰をねじり、思い通りに体が動かないよと時に泣いたりしながら、体を上手に動かせるようになっていきます。
子どもが求めてもいないのに抱っこばかりされていたり、お座りを介助する育児用品に長時間入れられていたり、ベビーカーやチャイルドシートや歩行器に長時間座らされたりしていると、赤ちゃんは運動する機会がありません。
目を合わせずに抱きっぱなしは、おサルさんの子育て。人間の子育ては、仰向けで目と目を合わせ、手に物を持たせます。子育て支援では、赤ちゃんを仰向けに寝かせて視線を合わせて話しかける保育者の姿を見てもらえるように工夫しましょう。またハイハイは、歩行よりも難しい協調運動であり、腰が据わった子どもでないとできません。まだハイハイをしていない時期に、大人が無理やりお座りをさせてしまうと、赤ちゃんはビクとも動けなくなります。
仰向けやハイハイを促す環境をつくり、探索をあたたかく見守る保育者の姿勢を意識的に見せたいものです。




ポイント3 さわって、くすぐり、キャッキャと笑わせると、手が開いて足が上がる。
体の緊張が強い、あるいは逆に弱すぎる場合には、歌いながら、なでてさすって体をできるだけさわりましょう。赤ちゃんはうれしいと、手が開き、足をピョコピョコと動かします。仰向けで上からあやすと、手のひらが開きます。仰向けで腕や足を大きく動かすことで、腰も据わります。
本能で、赤ちゃんはあやせません。初めてのことはわからないし、知らないこと、見たことがないことはできなくて当然です。他の人の自然な子育てを見る機会を、子育て支援や日常の保育で作りたいものです。




ポイント4 なめる、さわる、体を動かすことを見守る。
早期教育の情報があふれているため、赤ちゃんには刺激を与えないといけないという誤解が流布しています。しかし一方的に赤ちゃんに与える刺激はむしろ害。「何か刺激を与えなくては」と、乳児期からテレビを見せて、自分で遊べない子どもや、人よりも映像刺激を好む子どもに育ってしまうと、保護者は後で苦労することになります。
赤ちゃんの遊びは大人には理解しがたいもの。赤ちゃんは、自分の手や物を見つめたり、さわったり、なめたり、体を動かすこと自体が遊びであり、発達に必要な行動であることを、上手く解説できるとよいですね。


保育者は、子どもが「自分でできた」と思うように、援助することが上手です。
保護者に対しても、説教がましくなく、楽しく自然に子育てについて知ることができるように工夫してみたいものです。

自然素材のみで遊ぶ乳児保育園2014/09/12

済生会松山乳児保育園へ行ってきました。一度自分の目で確かめてみたいと思ったのは、「げんき」(エイデル研究所)の長谷光城氏の連載で、その実践内容を読んだことがきっかけでした。長谷氏は芸術家であり児童の絵の専門家です。この園では、長谷氏から指導を受けて、園庭から人工的な遊具をすべてなくし、自然素材だけの遊びをしているとありました。私自身、斉藤公子氏のさくらんぼ保育を学んでいたので、子どもが水、砂、土で遊ぶことは、なじみ深い実践です。しかし、最近保育者の体力が落ちてきていることや、けがや汚れに対する保護者の許容範囲が狭くなっていることから、どのような工夫をされているのかに関心がありました。






済生会松山乳児保育園の園庭は、0、1、2歳児だけの園庭です。異なる種類の砂、土を園庭に入れ、人工物を使わずに、複数の砂場・泥場を作っていました。スコップやバケツなどの道具は一切使わせず、手と体を使って素材に働きかけることを大切にしているそうです。「2歳児が水や土をどうやって運ぶのか?」・・・それは、想像してみてください。

自然物、とくに砂と土は、常に手入れと補充が必要な素材です。園庭から砂が流れ出ないようにしっかりとした塀がありました。しかし、どうしても非常口からは流れ出てしまうそうです。土や砂の補充は、その性質を指定して購入されているそうです。園庭で十分に遊べるように、広葉樹を植え、タープを使って夏の日差しをカバーする工夫も行われていました。

朝の受け入れは室内で、おやつは外で食べるなどの工夫をして、午前中に何度も着替えなくてよい生活の流れになっていました。1歳児までは、園の共用パンツを使い、園で洗濯をします。2歳児は水着で遊びます。汚れた服は、園で洗濯機にかけてからお返ししているそうです。見学して園の方針を理解してから入園するので、保護者とのトラブルも起きにくいそうです。なるほどと納得することが多くありました。

園庭で遊ぶ子どもたちを見て新しい発見がありました。「泥は抵抗があり重い」ということです。



自然物は、複雑で多様性が高く、子どもたちの行為に対する応答性が高く、見立てやすく、子どもたちが遊びを作りだせる非常に優れた素材です。それに加えて、抵抗があり重いものは、子どもが力いっぱいの体験をしやすく、得られる効力感が大きいと考えられます。

1、2歳の粗大な運動が育つ時期には、重くて抵抗感があるものが大切ですが、室内の遊びの素材で、重くて安全な素材を保育カタログでは見つけることができません。そのため牛乳パックを重く詰め込んだ積木や、豆袋や、あずきで重くしたお手玉など、重さを確保することを苦心して手作りをしていました。またリズム遊び等で力いっぱい体験を入れていましたが、泥の場合、素材自体が重いので、普通にお団子を作っていても運動量が高そうです。

遊びの素材には、①水・砂・土・草・木などの自然物、②新聞紙、ダンボールなど自然物から作られた素材、③遊びを目的として作られた見立てやすい素材玩具があります。それらの素材をどのような割合で活用するかは、その地域と気候、園庭・保育室やホールなどの広さ、人的配置など、園の条件によって選び方が異なります。

大事なことは、自然物であれ、人工物であれ、子どもの発達と保育の目標・方法原理という根拠に基づいて、現実的制約に合わせて選択することだと思いました。

済生会松山乳児保育園の先生方、勉強させていただきました。ありがとうございました。

乗り越える力を育む2014/09/24

最近、パソコンの調子が悪く、書いたブログを保存しようとすると無線スイッチがオフになり、なかなか書き込めません。何度同じブログを書いていることやら。今回はアップできるでしょうか。

エイデル研究所から、今月の「園と家庭をむすぐげ・ん・き」が送ってきました。チラッと広げてみたら、すべての仕事を投げ出して最後まで読んでしまうほどおもしろい。編集者にすぐに、「今月号最高!ブログに紹介させて」と話しました。そしていつものごとく、「どうして、こんなにいい雑誌が本屋に平積みになっていないの」と。

私が何に盛り上がったかというと、まず最初の近藤卓先生の「乗り越える力をはぐくむー乳幼児期の育ちと自尊感情」です。赤線と書き込みが、びっしりになりました。


PTG(ポストトラウマティック・グロウス:心に傷を負うような経験の後で成長すること)の概念の説明と、それを引き起こす条件として、ソーシャルサポート、価値観、パーソナリティ、レジリエンス、曖昧性耐性、基本的自尊感情があることの説明が続きます。乳幼児期の適切な保育が、生涯をたくましく生きる土台となることを読み取ることができます。最新の理論が14ページも読めるなんてとてもぜいたく。合わせて、フレーベル館「保育ナビ」の汐見先生のフラッシュカードに関するエッセーを読むのが私のお勧め。

次の赤西雅之園長先生のお話も、今月はたっぷりと実践の話。日頃の保育の実践と保護者支援、連携の実践が目に浮かぶようにつづられています。ここまで詳しいと、自分もやってみようと思う方が多いかもしれません。

「これだよ!これ!」、「こういう記事が毎月どの保育雑誌にも載れば、どれだけ保育の質が上がるだろう」とブツブツ言いながら読んだのが、瀧薫先生の「保育と月刊絵本」です。一冊の絵本から、子どもたちの遊びがどのように展開していったか、一週目、二週目、三週目、四週目とカラー写真を交えて描かれています。



私が保育者だったとき、字ばかりの実践記録を読みそれを想像しては真似したものでした。カラー写真で子どもたちが遊ぶ姿を見ることができるなんて、なんて良い時代でしょう。

幼児期の遊びは継続的なもの。そのため、取材することも、記事としてまとめることも難しい。「○○を作ろう」、「○○のうた遊び」のように、その場だけ、その時間だけで完結するものは雑誌に掲載しやすい。でも、保育の質を高めることができる記事は、子どもたちが展開する遊びの実践です。

保育雑誌の真似で全国の園の壁に同じものが張られているのですから、保育雑誌が保育内容に与える影響はとても大きいと感じています。子どもの発達と保育の原理に基づいた保育実践と、実践を支える理論が毎月紹介されていき、保育者が専門性に基づいた保育雑誌を選ぶようになれば、日本の保育の質はきっと変わるだろうと希望を抱きました。