困った子どもは不幸な子ども2014/11/15

「保育園が児童養護施設のようです」。「家庭ではいい子、園では荒れる子が増えています」最近、先生方からこのような声を聞くことがあります。

大人の言葉が荒れています。普通の人が友達同士でも「死ね」、「ブス」と冗談で言い合います。今、女性も男性も同じような言葉を使います。わが子に「何してんだよ」、「早くしろよ」と言う母親は特別ではありません。また家庭ではご飯を食べさせてもらえない、睡眠を十分にとれないために、日中は情緒が不安定という場合もあります。情緒が不安定な子どもは、他の子どもに荒れた行動をとり、先生に対して愛情の試し行動をします。

ニイルは、『問題の子ども』で次のようにいいます。
「幸福な人は人をいじめたり妬(ねた)んだりしない、困った子どもは実は不幸な子どもである。彼は内心に戦っている。その結果として外界に向かって戦うのである」

「よい教師は引き出すのではなく、出し与えるのであり、彼の与えるものは愛である」

森田ゆりも、怒りの仮面の裏には、恐怖、苦しみ、さびしさ、不安などがあると指摘します。

ある保育園では、「一日に一度子どもとギューッと抱きしめる」キャンペーンをやっていらっしゃるそうです。子どもたちが、「自分は親から愛されている」と感じることができる工夫、集めるといろいろありそうですね。



一人ひとりを大切にする保育2014/11/17

書店に平積みにしてほしい本が出ました。一斉型の生活と遊びを、一人ひとりを大切にした保育へとどのように変えていったのか、保育を変えたプロセスが描かれた待望の一冊です。

サライ美奈著、全国私立保育園連盟保育国際交流運営委員会編『ハンガリーたっぷりあそび就学を見通す保育 一人ひとりを大切にする具体的な保育』かもがわ出版、2014.7



第一部は、サライ美奈さんによるハンガリーの保育・就学前教育の紹介です。美しいカラー写真は、「一人ひとりを大切にした保育」を象徴しています。私も海外の保育の写真を見てショックを受けたことが自分の保育を変えるきっかけになりましたが、これまでにない編集で、ハンガリーの保育がわかりやすく紹介されています。

とくにお薦めしたいのは、第二部です。全国私立保育園連盟保育国際交流運営委員会委員長であるユリアさんが、わらべうたとの出会いから、園の保育を見直し、担当制と流れる日課へと、どのように保育を変えていったのかを具体的に説明しています。保育を数年をかけて変えている園を、今各地で目の当りにしながら、その経緯を伝えることが私にはできませんでした。

第二部では、一斉に保育を変えたわけではなく、取り組める部分から少しずつ変えていった経緯が、ていねいに説明されます。そして、「まるで戦場のような慌ただしさで食事の後は食べこぼしがいっぱい」だった乳児クラスの食事風景が、「子どもたちが落ち着いて食べることに集中」するようになり、保育士も「子ども一人ひとりを介助できるようになった」など、子どもの変化と、保育者の気持ちの変化についても記されています。これから保育を変えていきたいと考えている保育者に、ヒントと大きな希望を与えてくれるだろうと思いました。



インタラクティブ・ティーチング2014/11/23

このブログは頻繁に書かないようにしていますが、取り急ぎ、保育者養成校教員の方にお知らせです。

今、gacco(大学教授陣による講義を無料で受けられるオンラインサービス)で、栗田佳代子先生と、中原淳先生らによるインタラクティブ・ティーチングの講座が、11月19日から開講しています。学習者が主体的に学ぶ双方向の授業を実現するための考え方や具体的な方法を無料で学べるという何ともありがたい講座です。

大学の教員になってしまうと、アクティブラーニングやワークショップのファシリテーター養成講座など、長時間の講座に参加しにくくなりますが、8週間の講座がネットで夜に学べます。
ダウンロード資料だけでも、PDFで79ページ。授業の質を高めるための参考資料やホームページが数多く紹介され、それだけでも勉強になります。

「保育、変わらなきゃ」という本がありましたが、専門学校、短期大学、大学の授業も変わらなきゃ。
子どもを生活の主役にできる保育者を輩出したいと思ったら、まずは、養成校で学生が主体的に学ぶ授業をしたいものです。養成校教員の皆さん、一緒に受講しましょ。


はう運動あそびで育つ子どもたち2014/11/28



朝、川沿いを歩きながら、「おはよう、おはよう、ゆげがでる、はなからくちからぽっぽっぽ・・・」と歌が出るようになりました。(誰かに聞かれたら怪しい人です)。関東では、一気に冬の朝を迎えています。


最近あちこちでお勧めしていますが、またもや、保育の現場で日々尽力されていらっしゃる先生方に、「絶対におすすめです」と自信をもって言える本の紹介です。

今井寿美枝「『はう運動あそび』で育つ子どもたち」大月書店、2014



今、保育者の研修テーマには、「特別なニーズをもつ子ども」「気になる子ども」などが並びます。先生方が特別な支援を必要とする子どもを理解したい、具体的に支援する方法を知りたい、というニーズは高いと思われます。

私も研究で全国の園におじゃましながら、いつも気になるのが子どもの体体幹が安定せずにふらふらとした姿勢で歩く子どもがどのクラスでも目につきます。つい研究を忘れて、「さくらんぼリズムなどを保育に取り入れてみてはどうですか」とお話することがありました。さくらんぼリズムは、発達を系統的に捉えたリズム運動で、感覚統合理論とも合致します。運動量も運動のバリエーションも多く、乳児期の動きの経験不足を補う効果や療育としての効果も高いと感じてきました。しかし、さくらんぼリズムには広い空間が必要です。

この本で紹介されている「はう運動あそび」は、狭い室内空間でも全身を使うことができ、運動量が非常に多い活動です。『はう運動遊び』で育つ子どもたち」は、チャイルドハウスゆうゆう(児童発達支援事業施設)の22年の実践をもとにして、はう運動あそびを中心にまとめられた本です。

第一章の、「『はう運動あそび』でこんなに変わる」では、「丈夫な体になる」、「よく眠れるようになる」、「なんでも食べられるようになる」、「ゆるいうんちや便秘が解消されバナナうんちになる」、「手先が器用に使えるようになる」、「笑顔が輝くようになる」、「ことばが増え、理解力が育つ」、「多動や問題行動がおさまる」と各項目ごとに、保護者の体験談が紹介され解説が語られます。その変化があまりに劇的すぎて、子どもが変わる実践を経験したことがない場合、信じられないかもしれません。私は、親御さんたちの喜びをともに感じながら、実践に圧倒され、ときに「すごい、すごすぎる」とつぶやきながら読みました。理論をもつ実践者の真骨頂を見せていただいた思いです。

第二章、「『はう運動あそび』と『生活リズム』の相乗効果」では、「発達の順序性を知る」、「生活リズムを整える」ことについて理論的な解説が、Q&A形式でわかりやすく書かれています。保育者が保護者に伝えたいことがわかりやすくしかも「やってみたい」という気持ちがわくように表現されています。保護者への貸し出し用書籍としても準備しておきたい本です。

第三章、「『はう運動あそび』の実践」では、狭い空間であっても、保育者が一人でもできる日常的に保育に取り入れやすい「はう運動遊び」が28種類も紹介されています。すべてが写真かイラスト付き。どの写真も本当に楽しそうです

今井寿美枝先生は、児童養護施設、保育所の保育士を経験された後、1992年より「チャイルドハウスゆうゆう」を開設されたそうです。今井先生は、河添邦俊先生の理論に学び、生活リズムとはう運動遊びを中心に据え、笑顔が輝く子どもたちを育むことに力を尽くしてこられた方だと、この本で知りました。お目にかかってみたい先生がまた一人増えました。

他にも今井先生の本には、故丸山美和子先生と共著の「生活とあそびで育つ子どもたち」(大月書店)があります。