学びの土台となる「自律」2015/04/30

小学館「新幼児と保育」6・7月号(5月2日発売予定)の「学びの土台となる保育環境」のテーマは、「自律」です。

取材のために伺った園は、千葉県富津市にある「和光保育園」。二度目の訪問です。
取材記事では幼児の生活が詳細に写真で紹介されます。入りきれない内容と補足説明を、ここに書きますね。


取材した日は3月半ば。引っ越しの会が終わり、新しい部屋へ子どもたちが移動して3日目でした。新入園児が入ってくる前に、一足早く進級する部屋に引っ越しをして、生活になじんでから新しい園児を待つことにしていらっしゃるそうです。「まだ落ち着かない状況ですが」と言われましたが、なんのなんの。生活場面の落ち着きには驚きました。

1歳児クラスに移動したばかりの子どもたち。先生のお手伝いをしたくてたまりません。

1歳(正確には0歳児の3月)のクラスでも、子どもたちが食事の時間だとわかると、自分で椅子を運んで来たり、保育者の手伝いをしようと、それぞれの子どもが、自分なりに考えて食事をしようと準備をしていました。どの子どもも自分で椅子に座ります。何と誇り高いこの姿。この子どもたちは小学校でもレストランでも、まわりの状況を自分で判断して行動することができるだろうと、うれしくなりました。

0歳のクラスから1歳の部屋へ移って3日目の食事の様子。普通の1歳児クラスの食事場面とどこが違うでしょうか?

先生や大人に、指示をされて生活する習慣をつけている子どもは、こうはいきません。指示されるから、怒られるから行動するという心の癖がついている場合には、新しいクラスになるとひっちゃかめっちゃか、怒られない場所だと大騒ぎ、小学校へ行ったとたんに先生の話を聞かなくなります。

先生方は大きな声で指示を出しません。子どもたちが生活の主人公になるように、環境をつくり必要な援助をされていました。これは、自由放任や放縦とは違います。子どもたちの様子を大らかに見守りながら、余裕をもって保育をされる姿が素敵です。また先生方は、子どもたちの育ちに合わせて、食事の準備の方法や、集団で食べるタイミングを変えていらっしゃいました。


3歳児クラスに移動したばかりの2歳児の子どもたち。幼児クラスの詳しい生活の流れは「新幼児と保育」の記事で。


日本の学力観は、知識・技能を習得することから、知識・技能を使った「思考力・判断力・表現力」へと、変化しています。学習指導要領でも、基礎・基本を使って、「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」が重視されています。このような学力の土台をつくる幼児教育では、子ども自身が自律的に行動する生活と、子どもが工夫し創造できる教材や活動が大切になります。

昭和の高度成長期時代に求められた能力と、国際化し変化が激しい時代に持続可能な福祉社会をつくる能力は異なります。先生から言われるまでじっと待っている、先生から言われたことしかしない心の習慣をつけてしまうと、学童期以降は大変です。また、幼児期に、遅い子どもは悪い子(先生に叱られる子)、みんなと違うことは悪いことという価値観を獲得させることは、いじめの種を蒔くことにもなるかもしれません。

以前授業で、動画サイトにアップされた様々な保育を見て、「その保育を受けた子どもはどのような価値観を持つようになるか」、「その子どもたちに向く職業はどんなものか」を考えたことがあります。0歳からの一斉活動に一斉排せつ、自分で考え工夫すると叱られる保育内容の場合、「先生の言うとおりにしなくてはいけない」、「みんなが同じで一緒であることがいいこと」という価値観をもち、向く職業には、「ブラック企業」という声が上がりました・・・。

深い理念と経験をもつ世代と、若く心優しい世代が一緒になって、競争のパラダイムから共創のパラダイムへと保育を変えていきたいものです。

コメント

トラックバック