子どもからはじめる保育実践2016/05/12

保育学会でお声掛けをいただいた皆様ありがとうございました。一年分のエネルギーをいただきました。
大豆生田先生のあの黄色い本に引き続き、赤い本が出ました。もうお読みになりましたか?勉強熱心な園長先生は必ず手に入れている黄色い本。先生方とお話していると、「あの黄色い大きい本」で通じるのがすごい。


大豆生田啓友「『対話』から生まれる乳幼児の学びの物語」学研、2016

表紙は、目にまぶしい赤に帯は真っ青。う~ん、やはり原色が保育界では好まれるのでしょうか・・・。


表題通り、子どもたちとの対話のなかから展開していく保育の実践を読むことができます。
レッジョ・エミリアの実践を学んでいらっしゃる先生方が多いからか、自然の素材、廃材を使った造形表現への展開を多く読むことができます。また、子どもの豊かな言葉を引き出すという点、領域環境(環境認識と活用)に関する視点を得ることができる本です。今、一斉保育を行っている園でも、取り入れやすい実践や環境の工夫が紹介されています。

実践の研究や共有には写真は不可欠。実践の流れがわかりやすいですね。

「一斉保育」「お楽しみ会保育」は広がりやすいものですが、「教育とケアの意図をもった環境を通した保育」は、なかなか広がりにくいものです。小学校で教科書を使った授業よりも総合学習の方が指導が難しいことと同様ですね。

保育を着実に変えている園のプロセスを見ていると、次のような段階を経ているように思えます。
①一斉保育⇒②環境(園庭・保育室)を充実させる⇒③子どもが主体的に遊ぶ姿を見て子どもをよく知る⇒④子どもの姿から環境をつくることを試行錯誤する⇒⑤保育の実践を子どもと一緒に展開する。
この本を読んで、①⇒⑤から②③④へと行き来する可能性を感じました。

保育を改善している園には、子ども観と保育観をしっかりと持つ中心的な人(多くは園長先生)がいて、保育者同士が語り合うしかけをつくり、保育者に対しても継続的に子ども観・保育観を語り続けていることが、共通して見られるように思います。

他者の実践を読むと、様々な気づきが生じます。園によって、子ども、保護者、保育者、保育室の広さ等状況は異なります。遊びや表現の素材として何を中心に用いるかは、保育時間や空間、保育者の現状によって選択が異なるでしょう。日本の保育では、あるテーマを歌や身体での表現、鬼ごっこなどの集団遊びへと展開することが特徴的だとも気づきました。
写真がたっぷりでわかりやすく編集されたこの本は、他者の実践のどこが優れていて、どこを活用できるか、話し合う材料にもなりそうです。


この黄色い本が、研究室で見つかりません。誰か、私がどこへ置いたのか知りませんか・・・?

絵本選びの根拠2016/05/19

ゼミで、絵本選びのワークをやってみました。
日本保育者教育学研究会の授業実践研究会で、教えていただいた授業実践。3年と4年に分かれて20分ほど。


4年生のワークは同じ物語で出版社が異なる絵本。お題は、「幼稚園・保育園で優先的に読み聞かせしたい順番に並べる。そしてその根拠を説明する」です。もちろん正解はなし。さあ、どの順番に並べるでしょうか。

(左上から順に)

まつい ただし, あかば すえきち、ももたろう、福音館書店、1965

いもとようこ、ももたろう、岩崎書店、2001

柳川 , 水端 せり, 宮尾 岳、ももたろう、永岡書店 1998

市川 宣子, 長谷川 義史、ももたろう、小学館、2010

松谷 みよ子, 和歌山 静子、ももたろう、童心社、2006





こちらは3年生がやったワーク。4歳児クラスで読みたい絵本はどれか。5歳児クラスでは?。その根拠は?もちろん正解はなし。すごく悩んでいました。

石井 桃子, 赤羽 末吉 、したきりすずめ、福音館書店 1982

いしい ももこ, あきの ふく、いっすんぼうし、福音館書店 1965

時田 史郎, 秋野 不矩、うらしまたろう、福音館書店 1974

瀬田 貞二, 赤羽 末吉、かさじぞう、福音館書店 1966

平野 ,太田 大八、やまなしもぎ、福音館書店 1977



学生は、左からこんな順番で並べました。根拠として「言葉にリズムがあっておもしろい」、「詳細に書き込みすぎているから子どもが想像する余地が少ない」、「ストーリーが違う」、「本が小さい、家ならいい」など。絵や言葉、ストーリーに着目して根拠を説明。もっと時間があれば、違う意見も出たかもしれません。
「子どもが喜びそう」、「絵がかわいい」、「絵がはっきりして見えやすい」という理由は出てきませんでした。学生は、アニメ絵本を一位か二位に選ぶと聞いていたので、ちょっとホッとしました。

保育者が読み聞かせをする絵本は、子どもに影響を与える重要な文化財です。また絵本の言葉は、保育者の言葉となり、子どもの言葉となります。保育者が何千冊の絵本のなかから読み聞かせの絵本を選ぶのは、料理人で言えば、世界中の産地の中から必要なお肉を選ぶって感じでしょうか。

教えていただいた授業実践では、同じタイトルの絵本を探すことをグループの課題にしていました。また100冊の読み聞かせ絵本リストをつくる課題を課している大学もあるそうです。他の先生方の教育実践はとても参考になります。


コラボレーションからはじまる園2016/05/28

チャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さんよりご案内をいただき、今年4月、足立区に開園したばかりのレイモンド花畑保育園のお披露目イベントへ出かけてきました。

道路の向かい側は、広い自然公園です。


廊下には親子のベンチ。(を意図したけれど子どもが入って遊び場になっていると設計者は嬉しそうにお話くださいました)。設計者の石田さんとチャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さんのトーク、ワクワクしました。


さっそく廊下では、芸術家たちによる作品展が行われていました。お気に入りの作品が決まっていて、お迎えに来たお母さんに抱えてもらって毎日じっくり見て帰る子どももいるそうです。


保育室は、開放的な窓の部分と、閉じた壁とのバランスが絶妙です。オープンすぎでも閉じすぎでもない空間だと、イキイキとした活動と、落ち着いた活動の両方が可能になります。窓の向こうは近隣の人が通る道路と住宅です。下の窓から適度な交流も生まれるのだとか。


保育室は、腰の高さまで木の板が貼ってあるのをよく見かけますが、あれは汚れ防止なのだそうです。家庭では床まで同じ壁紙が普通ですね。この園の設計では、あえてこのデザインにされたのだとか。子どもたちがこの空間にどんな色彩を加えていくのか、楽しみです。


名古屋のレイモンド庄中保育園は、オープンスペース的なつながりのある空間設計でしたが、こちらは、各保育室は閉じた空間、そして上の写真のような、ひろがりとつながりのある空間が多く設けられていました。プライベートゾーンとコミュニティゾーンとでも言うのでしょうか、設計では、閉じた空間と開いた空間の両方を組み込んだことが説明されました。最近、改築、新築された園では、広い廊下や縁側的な空間をよく見かけます。空間も、玩具も、汎用性が高い方が、子どもも保育者も創造性を広げることができますね。

設計者の石田さん、チャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さん、地域の人、子ども、保育者、保護者のコラボレーションによって、建物がコミュニティとしての活動を始める、そのスタートを見せていただくことができました。ありがとうございました。