幼児の根気強さ2016/12/02

乳幼児をどんな存在と捉えるか、それが保育の要(かなめ)。

乳幼児は、幼稚で未熟で大人より感受性が鈍く、
大人が指導しないと何もできないと捉えていると
その環境には、お菓子のような玩具が並び、
子どもを楽しませる保育か、指導する保育に偏りがちです。

反対に乳幼児の独自性を知り、子どもを信じる保育では、
子どもが創造性を発揮する環境が準備され、
子どもたちは自律的に行動し、生活の主役になります。

乳幼児の子どもは、大人とは異なるステージにいて、
その時期その時期に、特有の姿を見せます。

たとえば、年長児が見せる根気強さもその一つです。
その集中力と粘り強さには、大人はとてもついていけません。

表現活動にもそれは現れます。
あおぞら第2保育園さんの年長さんの絵。物語の想像画です。
「森は生きている」のラストシーン。女王と女の子が一緒に帰る場面です。
女王様に「急いで!」と言われ、急ぎ過ぎてそりが宙に浮いてしまっているのだそうです。


こちらはある園で、発表会の後に見せていただいた絵です。
なんとも細かい。

「保育内容演習環境」の授業では、
1歳、3歳、5歳の絵を、予想して描いた後、
実際に子どもが描いた絵の模写を行い、
腕や手指の発達、環境認識の発達等を講義しますが、
5歳児の絵を模写する段になると、
学生から「えーっ」と悲鳴のような声が上がります。


あさひがおか保育園の子どもたちが作った自分たちの園。
集中力と根気強さを感じますね。

かつて日本では、地域での遊びや家庭の生活で、
集中力や粘り強さを発揮できました。
今地域や家庭では、子どもは「お客様」として遇され、
地域での遊びも、家庭の手伝いも、経験しにくくなっています。
時間泥棒の種類も増えました。(私も危ない)

幼児が粘り強さを発揮できる
時間と空間の工夫を集めてみたいものです。

片付けに困っています2016/12/13

初めて環境を通した保育へ変えたとき、
最も保育者が悩むのは、「片付け」のようです。

そこで、初めて子どもの手の届くところに玩具を置く園に向けて
日野の森保育園さんの玩具棚をご紹介したいと思います。

「保育とおもちゃ」「保育と絵本」の著者である瀧薫先生が、園長をお務めです。



このように、かごを使って棚を区切るようにすると、
0、1、2歳児クラスの大人は、片付けがしやすくなりますね。

積木や人形の数を子どもの様子を見て調整する
具材の大きさや数を調整することで
大人の大変さも変わるでしょう。

子どもは、最初は秩序を壊すことが仕事ですから、
その時期の大人は、適度な秩序感を環境につくることが仕事になります。
(決して砂漠や体育館のような完璧な秩序にすることではありません)

片付けを面倒がらない心の癖と、
秩序に対する感性は、幼児期までに着実に育みたいものです。

また、片付けで子どもは
数や大きさ・高さ・長さなどの数量感覚や
物の種類や名前を学習します。
分ける・並べる・順序づけるといった思考力の基礎も
片付けで、日々培うことができます。

片付けは、幼児にとって学習の時間。
「お片付け~」と号令をかけて、
ポイポイとごみのように箱に投げ込んで
あっという間に片づけてしまうのではもったいない。

効率的だけど、学習にならないゴミ箱型お片付け。
こんな状態は、子どもに「物は大切にしなくていいですよ」と
毎日メッセージを送っている感じがしますね。


ちなみに、日野の森保育園さんでは
345歳クラスになると、こんなに細やかに片づけていました。

脳に関するあれこれ2016/12/28

先日伺った園で、園長先生より「面白いですよ」と教えていただいた新書を、図書館に借りに行きました。
鈴木大介「脳が壊れた」新潮新書、2016

ついでに脳に関する本を借りてきました。
池谷裕二「進化しすぎた脳ー中高生と語る大脳生理学の最前線」講談社ブルーバックス、2007
宮本省三「脳のなかの身体ー認知運動療法の挑戦」講談社現代新書、2008


おもしろかった。

「脳が壊れた」は、ルポライターの著者による脳梗塞の闘病体験。
リハビリで脳と身体のつながりが回復していく姿は
脳が発達していく乳幼児の姿と重なる部分もあり、
赤ちゃんや幼児の世界を内側から見ているような気持ちになります。
目の前の物に手を出したいけれども出せないときの体の動きや気持ちの描写は、
2、3か月の赤ちゃんと同じなのではないだろうか。
物事に優先順位がつけられず、周囲にあるものに振り回される姿は
「1歳半の壁」を乗り越える以前の子どもたちを内側から追いかけているよう。
外に出ると、矢印マークを追いかけたくなり、
クワガタの死体をポケットに入れる筆者の姿に、
あの子はこんな見え方、感じ方かも、と感じる場面も多々ありました。
ずっしりとくるのは妻との生活。
家族に苦しんでいる人にも、この本はお薦めかも。
保育者には、「愛しすぎる女たち」を薦めることがありますが、
愛しすぎる男たちに、「脳が壊れた」を薦めたい。

さて「脳のなかの身体」は、認知運動療法をわかりやすく紹介した新書。
手足が麻痺したとき、従来のリハビリでは、
手足の骨や関節や筋肉など、物理的な身体に働きかけていましたが、
認知運動療法は、脳機能の改変による運動機能回復を目指すのだそうです!
一方向からのリハビリから双方向のリハビリへの転換です。
「感覚と運動は分離できない」-「知覚するために動く」。
「自己の身体を知り、身体を介して外部世界を知る」と
身体に関する本質的な言葉が次々と目に飛び込んできます。

「進化しすぎた脳」は、対話形式で幅広く脳に関する基礎知識を扱います。
「動物相手に実験しているとわかるんだけど、
下等な動物ほど記憶が正確でね、つまり融通が効かない。
しかも一回覚えた記憶はなかなか消えない」。
人間の脳では記憶はほかの動物に例を見ないほど
あいまいでいい加減
なんだけれど、
それこそが人間の臨機応変な適応力の源にもなっているわけだ」。
「(脳は)汎化をするために、脳はゆっくりと、そしてあいまいに情報を蓄えていく」。
のように、話し言葉での説明なのでわかりやすい。

012歳児クラスはなぜ子どもの手の届くところに玩具を置き
いつも手が使える状態にしているのか、
保育ではなぜ運動や動き、食事や睡眠を重視するのか、
適切な保育を理解するには、脳や身体の生理学的な理解が必要だと常々思います。
心理学による「子ども理解」だけでは、実践の根拠として足りない。
保育では、心理×生理×生態の総合的な「子ども理解」が必要ですが、
学問領域を超えた科目は、教える教員がいないから設置自体が難しい。
保育は、前提とする学問領域が幅広すぎです。


子ども連れの移動の工夫2016/12/29

日本中が移動の季節。

子連れの帰省は、本当に大変だと思います。

飛行機で泣いている赤ちゃんに何とかしたくても

立ち上がることもできませんね。

飛行機でメモを書きためました。

 

子どもってどうしてこんなに移動中にぐずるの?と

大人は思うかもしれません。

(どうしてぐずるの?!)と思う前に、

こんな風に考えてみてはどうでしょう。

 

赤ちゃんが30分、車に乗せられているのは、

大人が、3時間座っているのと同じ。

1、2歳の子どもが飛行機で1時間座っているのは、

大人が、4時間座ったままなのと同じ。

そう思うと、ぐずる子どもに腹も立たないし、

ドライブでは、30分ごとに休憩をとろうという気になると思います。

 

「ひだまり通信」チャイルド社の元のお便りより。

脳を発達させる時期の乳幼児の脳は、

大人よりも運動と酸素を必要としています。

じっとさせていれば、脳に刺激も酸素も届きません。

乳幼児は起きている間中、手を使い、体を動かし

イキイキと心を動かしたいと思っています。

動くことは、乳幼児にとって生理的な欲求。

動けない状況は、食べられない、寝られないのと

同じぐらいつらいのです。 

そこで移動のときに大人にできることを

考えてみました。

 

【移動の前に大人にできること】

昼寝の時間が移動時間になるように移動する時間を工夫する。
・じっとする時間の前は、ぎりぎりまで子どもが動けるようにする。
間違っても待合室に座らせて絵本の読み聞かせなんかしてはいけない。
・乗る前に近くに公園や遊び場があれば、そこを活用。
・自由に歩き回ったり、階段を登るだけでも活動欲求は充足。
・迷惑にならない場所で、大騒ぎや大笑い、大声を出すのでもよい。
・寒い場所や暑い場所で遊ぶと、乗り物ではぐっすり。
・電車で我慢→待合室で我慢→新幹線で我慢ではぐずりたくもなる。
どこかで子どもの脳への酸素供給と発達保障を想定。
・じっとするとき用の「お出かけセット」をつくっておく。
(ふだんは出さない小さいおもちゃ、
音がしない座って遊べるおもちゃ、
シール貼りやクイズ系の薄手のワークブック、
開きやすい小さな図鑑類、折り紙など)をつくっておく。
・持参する絵本は、読み聞かせ系の物語絵本よりも、
その子の大好きな物の図鑑的な閲覧するタイプの軽い本を選ぶとよい。
(お出かけ用絵本は普段は出さないこと)
・赤ちゃんの場合、投げても大丈夫なように
音のしないガラガラを服にクリップ等でつけて
乗り物のなかで手を使えるようにする。
・想像力がある幼児(2歳以降)は、
手でもって動かせる小さな人形を両手に持てば、
お話をつくって30分は遊べる。

【移動中にできること】

・水分はこまめに補給。

子どもは暑がり。起きている時間は着せすぎではないか確認。

乗り物のなかでボッーとすることは脳を発達させる乳幼児には無理。

10分以上乗るときには何かを手に持たせる。

・子どもには、見通しや状況を話すこと。
赤ちゃんや幼児にも「今から新幹線に乗るよ」「今からお耳が痛くなるからね」と
今からどうするのか、今何が起きているのか、説明をすること。
「大人の留学生」を案内しているなら必ず説明するはず。
大人の留学生に説明が必要なことは、初めて社会を体験するわが子にも必要。
小さな子どもでも言葉がまだわからなくても、話した方がよい。

大人が大きな声を出してあやしたり子どもを興奮させないように配慮する。

公共の乗り物では「ここでは小さな声でお話しようね」と、くり返し教える。

幼児の場合には、新幹線や飛行機では、内部にさまざまな物を見つけたり

外の景色をいっしょにながめたり「あれは何だろうね」と問いかけて

子どもの好奇心を満足させることができる。

・新幹線であればレジャーシートを敷いて、
床で遊ぶ方が幼児は体が自由で集中して遊べる場合もある。

・どんなに配慮しても子どもが泣いたり騒ぐことはあるので、

周囲の人に「すみません。子どもが小さくてご迷惑をおかけします」と

一言声をかけたり、ぐずったときに、声をかけることもできる。

自家用車の場合は、子ども、ママ、パパなどそれぞれが好きな歌を流して

みんなで歌うなど、体はじっとさせても、声を出して活動欲求を発散。


普段から大切にしておくといいこと】

・日頃から気持ちのいい体を育てる。

食事・睡眠・遊びを十分にとれるように配慮し情緒が安定するようにする。

・子どもが小さいうちは、大人も子どもも疲れすぎないようにする。

日頃からよく遊ぶ子どもに育てる。

赤ちゃんのときからテレビに子守をしてもらうと、

テレビがないと遊べない子どもになりがち。

自分で遊びをつくり出せる子どもに育てておくとよい。

と、いろいろと保育の知恵を使って書いてみました。

それにしても、じっくり考えてみると

羽田空港のキッズコーナーは、本当に貴重な場所です。

あの窓側に、赤ちゃんを降ろせる場所もあるといいですね。

今、福岡空港が改装中ですが、最新のキッズコーナーがとても楽しみです。

今から東京駅ですが東京駅ではどこで赤ちゃんを降ろせるのか、

探してみようと思います。

緊急のブログ更新でした。

今年もブログをお読みいただきありがとうございました。

皆様良いお年をお迎えください。