なぜ保育は誰にでもできると思われるのか2019/10/26

掛札逸美先生のホームページを読み、下書きに入れたままの記事があることを思い出しました。
掛札先生は1歳児3対1の配置を再考する新潟県の新聞記事と、人的配置の研究について書かれています。
https://daycaresafety.org/#toppage_update
保育の安全研究・教育センター

地方自治法の改正で児童福祉施設の最低基準は条例で定めることになってから、
保育者の配置人数は、市町村によって格差が生じています。
国の最低基準では1,2歳児は子ども6人に対して保育士1人ですが、新潟県の基準は日本一ですね。

さて、忘れていた記事は、「なぜ保育は誰にでもできると思われるのか」。

それは、保育園は、ただ子どもを預かる場であり、
「子育ては女性であれば本能で誰にでもできる簡単な仕事」と、
考えられているからではないでしょうか。

本屋で平積みになっている本のなかに、次のような文章を見つけました。
保育園不足にふれたあとに、
「幼稚園以前の子供を預かるのだから、保育士の資格などは不可欠ではない。
育児の経験者ならば、誰でもできる。
子供好きの女子学生でも、十分にできる。
要は、泣かれたくらいで右往左往しないことなのだ」
だから、資格をなくせば保育園不足が解消するという論理でした。
博識な方が書かれているだけにつらい。

赤ちゃんを育てるぐらい、誰にでもできる?
できません。
012歳の子どもの理解は難しいものです。
赤ちゃんはスリッパをなめ、手にした食べ物を投げます。
たった一人のかわいいわが子でも、
半数の親がたたいてしまうのが012歳の子育てです。

そのうえ、保育園は集団で子どもを預かり、
教育とケアを行う場所です。
わが子の子育て経験程度で、専門的な技術をもたない人が、
赤ちゃんの三つ子や、よちよち歩きの1歳の六つ子を毎日8時間預かったら、
食事やお昼寝すら満足にさせることができないでしょう。
普通の人であれば、イライラし怒鳴ることもあるのではないでしょうか。

この人数で子どもから離れることなく休憩もとらないクラスもあります。


(国の最低基準は6人に一人ですが、現在は補助金が出ているため5人に1人で書いています)

動き回る複数の子どもたちに、常に目と手を届かせるのは、「人間技」ではありません。
保育士は、聖徳太子以上の能力を求められています。

012歳の子どもたちは、オムツをつけ、食事も睡眠もすべて援助が必要です。
遊びのなかでのケガの危険性も高く、見守ることにも神経を使います。
単に子ども好き程度で、この人数の子どもたちの
食事の世話をし、昼寝をさせ、発達の援助をすることができるでしょうか?
複数の子どもの援助は、家庭の養育とは比べものになりません。
そのうえ、保育園は高い福祉ニーズをもつ家庭の子どもが優先入所です。
家庭で十分なケアを得られない子どもは、一対一のケアが必要です。

この厳しい人的配置のなかでも、
適切な教育とケアを提供している保育園は、
県や市町村、園の持ち出しの予算で人を手厚く配置し、
その上に、保育者が本を購入して学び、休日や夜間に研修に参加して、
環境構成や関わり等の高い技術を修得しているからです。
園と個人の努力で、保育の質は保たれています。
しかし、これまで配置基準が議論になると、
「1歳児は子ども6人に対して保育士1人が適当」と
専門家のなかには回答する人がいました。

1歳児6人に対して、保育者一人で、「保育所保育指針」の内容の保育ができるかどうか、
これが、配置が妥当かどうかの判断基準になるでしょう。
地方自治法が変わったときに作ったアンケート用紙で、
国の最低基準で保育を行う場合に生じる問題を仮説として立てた項目は以下の通りです。

・一人ひとりに対して目が行き届かない
・十分に養護の行き届いた環境をつくることができない
・子ども一人一人の生活リズムを保障できない
・子ども一人一人の気持ちを受け止めることができない
・一人一人と応答的に関わることができない
・食事の世話が十分にできない
・午睡の世話が十分にできない
・外遊びに連れていくことができない
・散歩に連れていくことができない
・子どもの情緒が不安定になりやすい
・かみつきやひっかきなど子ども同士のトラブルが起きる
・かみつきやひっかきなどを事前に止められない
・けがや事故が起きる

質の低い保育が、社会につけを回すことは研究で明らかです。
待機児童を解消しつつ質の高い保育を解消することは難しいことですが、
子どもを預ける保護者にもできることがあります。
仕事が休みの日は自宅で子どもを育てる
仕事を終えたらすぐに迎えに行く
朝夕は子どもに目をかけ、子どもが安定した状態で園に行けるようにする
保育者をねぎらう
議員に働きかけるなど。

保育は、誰にでもできる簡単な仕事と誤解されているために、
人とのコミュニケーションが苦手な学生は、
進路指導で、介護か保育への進学を薦められることもあります。

心優しい保育者が働き続けることができるためには、
保育という仕事へのまなざしを変えることも必要です。

コメント

トラックバック