せいめいのれきし改訂版2015/11/18

名古屋市内で歩道に木材が張られていると雑誌で読み、見に行ったら季節限定で剥がしたとのこと・・・残念でした。
科学技術が進歩しても、夏の照り返しが少なく人が快適に歩ける道路、吸水性が高くて都市洪水が起きにくい道路、子どもが事故に遭うことなく安心して歩ける道路の開発が進んでいない気がするのは私の思い込みでしょうか。
うちの地域は子どもが安心して歩けるよというお薦めの道路がありましたら、ぜひ教えてください。

岩波書店から、バージニア・リー・バートン著「せいめいのれきし」の改訂版が出ました。
1964年の初版から50年。その間の学問の進化が付け加えられています。
保育者は、日々、長い生命の歴史を繰り返すかのような子どもの姿を見ています。
この本を時々読み返すと、いっそう子どもの姿にロマンを感じてしまうかも。




本文は、最終ページの翻訳が変わっているではありませんか。
ずっしりと心に響きます。

保育は未来をつくる仕事。

私たちはこの絵本の続きに、
殺伐とした景色を描くのか。
空が青く水が美しい緑豊かな景色を描くのか。

私たちはどんな未来をつくりたいのか。
そのためにどんな保育がよりよいのか。
考え続けていきたいものです。




がんばれ日本の保育予算2015/04/01

最近、「保育」という用語が「託児」のように用いられることが増えているため、(本来、児童福祉法の用語を改訂すべきだと思いますが)、ホームページのタイトルを変えてみました。

認定こども園は、学校教育と児童福祉の機能を併せ持つことが求められます。そこで働く保育教諭は、名前は教諭であっても、福祉専門職としての知識・技術・態度が不可欠です。

日本では貧困率が高いことや、ひとり親家庭の貧困率が著しく高いこと、先進国で税金を再配分した後に貧国率が上がるのは日本だけということはよく目にしますが、貧困問題に加えて、保育・教育予算の問題、保育の質の問題に焦点をあててわかりやすくまとめている本を教えていただきました。

山野良一「子どもに貧困を押しつける国・日本」光文社新書、2014.10 



第二章  「最低の保育・教育予算、最高の学費」では、
・国際比較では、子ども一人あたりの広さの最低基準は、日本が最低レベルにあること
・国際比較では、日本は3歳以上児のスタッフ一人あたりの子ども数が多いこと
・国際比較では、日本は小学校教諭と比較して、幼稚園教諭・保育士の待遇が低いこと
・経済的に厳しい世帯の子どもであればあるほど、保育の質による発達の差が大きくなること
・人的資本投資に対する収益効果は、就学前が最も高いこと

等、保育への投資を訴える上で、必要な情報が図表を使ってコンパクトにわかりやすくまとめられています。

この本では、貧困な状況にある子どもほど、質の高い保育の効果が高いことにもふれられています。保育園と認定こども園は、質の高い教育と福祉の提供によって不幸の連鎖を防ぐという社会的な役割があることも忘れないようにしたいものです。

*最初はタイトルを、「最低の保育・教育予算」としていましたが、ネガティブなので変えました。

困った子どもは不幸な子ども2014/11/15

「保育園が児童養護施設のようです」。「家庭ではいい子、園では荒れる子が増えています」最近、先生方からこのような声を聞くことがあります。

大人の言葉が荒れています。普通の人が友達同士でも「死ね」、「ブス」と冗談で言い合います。今、女性も男性も同じような言葉を使います。わが子に「何してんだよ」、「早くしろよ」と言う母親は特別ではありません。また家庭ではご飯を食べさせてもらえない、睡眠を十分にとれないために、日中は情緒が不安定という場合もあります。情緒が不安定な子どもは、他の子どもに荒れた行動をとり、先生に対して愛情の試し行動をします。

ニイルは、『問題の子ども』で次のようにいいます。
「幸福な人は人をいじめたり妬(ねた)んだりしない、困った子どもは実は不幸な子どもである。彼は内心に戦っている。その結果として外界に向かって戦うのである」

「よい教師は引き出すのではなく、出し与えるのであり、彼の与えるものは愛である」

森田ゆりも、怒りの仮面の裏には、恐怖、苦しみ、さびしさ、不安などがあると指摘します。

ある保育園では、「一日に一度子どもとギューッと抱きしめる」キャンペーンをやっていらっしゃるそうです。子どもたちが、「自分は親から愛されている」と感じることができる工夫、集めるといろいろありそうですね。



ひとりでできないもん2014/03/30

保育者の専門性研究会のメーリングリストで、木村明子さんが紹介して下さった「弱いロボット」というタイトルの本。
タイトルだけ聞いてもワクワク。さっそく購入しました。

岡田美智男「弱いロボット」医学書院,201209
「ひとりでできないもん 他力本願なロボットがひらく弱いという希望、できないという可能性」という帯のキャッチコピー、最高!!

医学書院の「シリーズ ケアをひらく」、あの「べてるの家の『非』援助論」、「感情と看護」などと同じシリーズです。

人の話に、「む~」と赤ちゃんのような言葉で対応する目玉だけのロボットや、よたよたっと歩いてきて、そこにいる子どもに思わずゴミを拾わせてしまったり、ときに子どもに蹴られたりするゴミ箱ロボットなど。「役に立つ」ことから遠そうに見えるロボットたちがどのようにして生まれたのか、そしてそのロボットたちが、子どもたちやおばあちゃんたちとどんな世界を繰り広げるのか、というお話。

岡田先生が、じゃんけんで負けて音声研究に入ったところから、自分がどうやってこれらロボットに行き着いたのか、著者の内的な視点を追って経験談的に書かれていて、読み物としてさらさら読めます。それでいて弱さのもつチカラであったり、主体を支えている環境の役割であったり、能力観、関係観を根本から考えさせられます。一般書のところに平積みになっていてほしい本です。おもしろかった。


それにしてもこの本が図書館に並ぶと、こんなさびしいお姿に。表紙がないと、本の内容を判断する情報が半減します。そのうえ本の表紙をながめる楽しみや本を選ぶ楽しみも半減。表紙のない図書館で本を探すのは、中学校の運動会で、同じ体操服の子どもたちの中からわが子を探すときみたい。文字以外の「情報」も残しておいてほしい。



先週は三軒の大型書店に立ち寄りました。東京駅丸の内口にある丸善は、さすがに保育の本が揃っていました。別の大型書店は、一般書がちょっと硬派な品揃えでPOPもおもしろい。ここは期待できるかも、と思ったのに・・・保育の5つの書棚の内、二つの棚が「パネルシアター」(なんてこと!)、もう二つの棚は「保育実務」(なぜ実務?)、一つの棚が「保育基本書」、中央にはキラキラ雑誌が平積み・・・。「保育=幼稚」という一般的な「保育」の捉え方に、やけビールを飲みました。


さて来週から4月。気分一新といきましょう。


議員さんの一日保育士体験2013/10/11


黒目川は、日差しも風も秋の気配。

全国保育研究大会に参加される皆様、そして準備に携わる皆様、大変にお疲れ様です。本日は最終日ですね。
これまで大学の仕事を休めずお断りさせていただくことが多かった大会ですが、今年は「保育の社会化に向けて~保育の営みをいかに社会に発信するか」の分科会に助言者として参加することができました。学びの多い三題の発表でしたが、なかでも北九州市保育士会の発表は圧巻でした。

20年間の研究をまとめた本の発刊。保育所を理解するためのDVDの作成と各園への配布とユーチューブへのアップ、駅前の大型ビジョンを使って保育のCMを流すなど、保育にかける情熱に圧倒されました。
なかでも議員さんや学校の先生、民生児童委員さんなどを招いての一日保育士体験は、何と昭和58年から続けていらっしゃるのだとか。一日体験をした方を集めて振り返りと交流の会も開いているそうです。
保育所での保育士経験がある議員さんは、「国の最低基準以上の人的配置でないと子どもの最善の利益を守れない」、「保育は人が重要」という訴えがあったときにもその意味がありありとわかるでしょう。


八木義雄監修 北九州市保育士会編著「自我の芽生えとかみつき」蒼丘書林、2013
待井和江監修 北九州市保育士会編著「感性を育てる保育実践①~④」ミネルヴァ書房、1999
北九州市保育士会作成の認可保育園のパンフレット

それにしても、議員さんの一日保育士体験のような素晴らしい実践が30年近く続けられてきているというのに、それが全国に知られていないことが本当に惜しい。「各地域・園で保育者が積み上げた貴重な保育実践を保育者の共有財産とする仕組み」を、みんなで考えていく必要があります。


久しぶりに参加した全国保育研究大会でしたが、発表者や参加者の真剣さに触れながら、研究の助言や指導にあたる保育者や研究者は、公立と私立では保育者の労働条件が異なることをふまえて、保育者が実践研究によってバーンアウトすることがないように配慮する必要性についても、改めて感じて帰ってきたのでした。

アウトカム基盤型教育と協同学習2013/08/16

医学教育、看護教育の書棚から、またまた刺激的な本を発見。


田邊 政裕「アウトカム基盤型教育の理論と実践」篠原出版新社、2013
2011年広島で開催された日本医学教育学会のシンポジウムがベースになっているそうです。


安永 悟 「活動性を高める授業づくり 協同学習のすすめ」医学書院,2012
「看護教育」に連載された内容を再編した本だとか。


私は国際理解教育で参加型学習を学び教育に活用していました。昨年は、これまで作成した参加型学習の手法を整理して発表もしました。ところがこの本を読んで、私は「協同学習」の本質を理解していなかったことがわかりました。協同学習の実践を紹介した本は何冊も読んでいたはずなのに、単なるグループ学習だと誤解をしていたとは。さっそく本屋に電話して関連図書のとりおきを頼みました。

養成教育の質は、保育の質に影響を与えます学習のプロセスは隠れたカリキュラムとしてアウトカムの質に直結します。協同性の高い保育者を養成しようとするならば、養成教育は協同的な学習である必要があります。私は、教育内容に注目するあまりに、プロセスの質をおろそかにしていたように思います。アウトカムの質保証と豊かな学びのプロセスは並立できる。学び直しです。

JASCE 日本協同教育学会(Japan Association for the Study of Cooperation in Education)
基礎を学べるワークショップは、キャンセル待ちのようです。

授業デザインの最前線2013/06/18

教育実習の訪問の帰りに、木立に囲まれた玉川上水の道を歩きました。
雨のなか、なんてきれいなんだろうと木々を見上げて立ち止まること数回。おかげでびしょ濡れ。




              雨音と、川の流れる音と、雨が葉を揺らす音、そこに私の靴音が混じります。



さて、今日は保育教育者向けの本の紹介です。久し振りに興奮する本に出会いました。

高垣マユミ編著 「授業デザインの最前線Ⅱ 理論と実践を創造する知のプロセス」 北大路書房 2010
本の内容だけではなく、表紙のセンスといい、細やかでていねいなデザインといい、編集がまたいい。大学の図書館では、カバーをはずして書架に並べてしまうことが残念です。
 

この本は、教育心理学の最新の知見を基盤とし、学校現場の実践知と理論知をつなぐ授業研究者によって書かれています。(執筆者紹介に、所属と学位が掲載されているところに気概を感じます)
「授業をデザインする視点」、「授業のやる気を高める視点」、「授業の理解をうながす視点」、「授業を創り上げる視点」、「授業をとらえる視点」、「授業を支える視点」の6つの視点から、授業という複雑な現象を、体系的にとらえることに挑戦しています。理論によって実践に構造的な視点をもたらし、全体像を示すことに成功しているのではないでしょうか。私は、こんな保育の本をつくりたいとあこがれました。

このシリーズは、初等教育、中等・高等教育の専門職大学院のテキストにぴったりですね。また、保育教育者(保育者養成に携わる教育者)が、授業実践者として、自分の授業の質を高めるために一人で読み込むのにも使えます。どの章も、マーカーで真っ赤になりました。

この本と合わせて、自己調整学習や、教育評価など、保育学会で北大路書房ブースから購入した本にはまっています。貧乏性なので、大人買いをしたことがないのですが、学会で、「ここからここまで全部下さい」と買ってくればよかったと後悔。生協で頼まなくては。


こちらは、すっかり夏景色になった黒目川です。雨の日も、土の道を歩きたくて長靴を購入。
うん十年ぶりに長靴を履いて、学校へ行きました。

自分を幸せにする秘訣2013/06/01

思いがけず、卒業生2名と、再会することができました。
卒業年度も園も違う二人から、「高山先生のノートは今でも持っています」と聞き、大感激。
これからも、卒業してからも体に残る授業をしたいと思いました。ありがとうございます。

さて今日は、引越しのときにいただいた本を、ご紹介します。
渡辺奈都子「はじめての選択理論 人間関係をしなやかにするたったひとつのルール」ディスカバー・トゥエンティワン 2012
しなやかさを出すために斜めに置いてみた


選択理論?
読む前は表紙や文章のやわらかさから、(うん?理論?)と思いましたが、確かに理論の本でした。
静岡市在住のカウンセラーである著者が、ウイリアム・グラッサーの選択理論を、誰にでも実践できるようにわかりやすく紹介しています。

一度知ってしまうと、もう元へは戻れないのが、優れた理論の特徴だと思います。
この本も、「なるほどね」と理解すると、もう二度とこの本を読む前の自分には戻れません。

「はじめに」は、こんな書き出しで始まります。

この本は、人間関係の解説書です。
「なんであいつは何度言っても分からないのだろう・・・(ムカッ!)」
「どうしてあの人はこんなことするんだろう・・・(イラッ!)」
「なんだかいつも私ばっかり我慢しているみたい・・・(ションボリ)」
このような、あなたが人間関係の中で時折感じる不快なモヤモヤの理由が理解できるようになります。

この本に一貫して流れているのは、変えられるのは自分だけ、相手は変えることができない、ということ。
「もっと楽になる自分の生かし方」や、「より良い人間関係を築くために」と、具体的な提案が続きます。

保育、とくに保育士という職種は、ときに人から要求され誤解され苦情を受ける立場になることもある仕事です。
多様な価値観をもつ保護者の願いや思いを理解し、必要なことはていねいに伝え、スルー力など自分をすり減らさない方法をもつことができれば、鬼に金棒(死語?)ですね。

保育者の研修に、ぴったりの講師を発見した気分です。
私も、この本を読んで、気持ちがぐんと楽になりました。
林先生、ありがとうございました。

うれしい気持ちをお花で表現してみました


ちなみに、この本の欲求チェックリストによると、私は自由の欲求がとび抜けて強く、楽しみの欲求が強く、愛・所属と生存の欲求は低く、力・価値の欲求がとび抜けて低い。やはり、3歳児的です。

日本のワークライフバランス2013/01/10

ある園で、「子どもの健やかな育ちを支えるために長時間保育をやめました」という話を伺いました。
保育者らしい決断だと思いました。子どもの育ちを大切にしていらっしゃるだけではなく、保護者の暮らしも大切にされていらっしゃる園長先生です。
また、別の園では、「家庭に帰すと子どもはテレビに子守をされるだけ。園にいる方が子どもは幸せかも」という話を伺いました。これももっともな話だと思いました。子どもだけで外に遊びに行けるような地域はほとんどありません。

心ある保育者たちは、子どもの育ちを支えたいという思いと、職場や家庭や地域の現状との狭間で苦しんでいます。


  山口一男、樋口美雄「論争 日本のワーク・ライフ・バランス」日本経済新聞出版社 2008


平成19年(4年前)に行われたシンポジウム『ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画』の内容です。ワーク・ライフ・バランスに関連する研究者が8名。各セッションごとに二名が講演、その後互いに意見、それが4セッションという刺激的な内容です。セッションチェアや会場からの質疑と回答もおもしろい。一口にワーク・ライフ・バランスといっても、政策としては多様な方法があることがよくわかります。

いくつか印象に残る言葉を抜書きします。

「私としましては、ワークの中で、あるいはワークの延長線上にどういうふうにライフを考えるかということではなくて、ライフの中でワークを位置づということが本来のあり方だという立場をとりたいと思います。ワーク・ライフ・バランスという主張は、どうもワークということを起点にしながらライフを考えているように思えてなりません」

「仕事ワークとそれ以外のバランスというのは、結局は男女両性にとってライフを充実させるためのものであるのですから、いまとられている仕事ワークを中心にしたやり方では、問題の本質にふれません。
                                          (いずれも御船美智子氏:生活経営・生活設計)


「なぜライフからワークを取り出して議論するのかというと、現在の日本では雇用されて働いている人々のライフの現状を考えると、ワークのあり方がライフのあり方を規定する程度が大きい構造になっていることによります。その意味で、ライフのなかのワークが変わらないと、広義のライフを含めたワーク・ライフ・バランス、最近はワーク・ライフ・インテグレーションとも言われますが、それが実現できないと考えているためです」

「私はワーク・ライフ・バランスの説明に際して、仕事以外でやりたいこと、やらなくてはならないことと、仕事の間にコンフリクトがない状態と説明しました。つまり、ワーク・ライフ・バランス支援は、子育て支援に限定されないのです。ですから、仕事以外の生活には、例えば勉強、趣味、遊び、健康維持なども入ります」
                                         (いずれも佐藤博樹氏:人事管理・産業社会学)


「保育サービスを増やすことだとか、専業主婦が集う拠点を作っていくとか、そういう政策については私自身も必要だと思っているのですが、それらの量的な数を増やすという政策ではなくて、その質に対してはいろいろ問題があると思っていて、そこが現在の政策との相違点です」
「子育て支援策について今はもう方向や器はある程度できていますが、その質をどう変えていくかという点では考えるべき課題があると思っています」

経済的発想によって女性の働く権利だとか、選択の自由、便利な社会というプラスの面があったと思いますけれども、一方で子育てにかかわる時間が減っていくとか、人々のつながりが希薄化して不安になったりですとか、子どもの環境が悪化しているというようなことも起こってきています。ですから精神的な面や自然環境などの議論に、経済学がもっと取り組めないか、また、教育についても労働力というだけではなくて、例えば社会力を高めていく教育というような議論も必要になってくるのではないか、というふうに思います」
                                    (いずれも池本美香氏:保育・教育政策、社会保障制度)

「しばしば、育児休業制度や保育所の整備など両立支援をしてきたのに、結婚出産を経て継続就業する女性はなぜ増えないのかという疑問の声が聞かれます。私は、その背景のひとつには、育児休業、保育所、働き方のいずれも柔軟性が乏しく、①育児休業を利用して育児に専念した後、保育所を活用して長時間就業することと、②育児休業も保育所も利用しないで専業主婦として子育てをすること、これらの二者択一から抜け出せないことがあることがあると思っています」
                                              (権丈英子氏:労働経済学・社会保障論)


日本では男女の賃金格差が高いこと、男性は正規職員が多く女性は少ないこと、正規職員間でも男女差別があることはデータを示されなくても、経験的に理解しているかと思いますが、ここでは男女の賃金格差は統計的差別か、真の差別かなど、おもしろい議論が交わされます。
こういう本を読んでいると、さまざまな人たちの努力によって世の中は変わっていくという実感が湧いてきます。
この本では範囲外でしたが、ワーク・ライフ・バランスを進める企業はどのようなミッションをもっているのか、ワーカホリックを生み出す職場風土、育児休業を取れる職場の風土などを読んでみたいですね。


ワーク・ライフ・バランスを当事者目線で語る本としては、元祖イクメンの渥美由喜さんの本をどうぞ。
                 渥美由喜「イクメンで行こう!」日本経済新聞出版社、2010

渥美さんとは研究会でご一緒したことがあります。研究会にいつも大きなスーツケースを引っ張ってかけつける渥美さん。(海外出張が多い方だなあ)と思っていましたが、この本を読み、あのスーツケースの中には、紙おむつが入っていたことが判明。渥美パパの家庭と地域と職場での奮闘ぶりに、元気がわいてきます。


しかしながら、暮らしの質を高めるには、育児休業やワーク・ライフ・バランスを進めると同時に、家庭や地域のハードの豊かさを改善することも必要ですね。 
たとえ、育児休業を得ても、安心して子どもを育てられる地域がない、というのが日本の多くの地域の現状。
日本のまち(ハード)は、人間に冷たい。まちは車のための場所。人がゆっくり歩ける道路も、人同士が出合える場もありません。(そのために地域子育て支援拠点が必要) 年を重ねて足腰が弱くなれば、斜めの歩道はもう歩けません。家庭は狭く、子どもだけでは外に出られない地域も多い。親子が安心してゆったりと歩ける道も、子どもを安心して遊ばせる公園もない地域が多いのが実情です。分断され、競争をあおられ、長時間働き、商品とサービスの消費でその貧しさを補う大人の暮らし方と価値観が子どもたちの育ちに影響を与えています。

暮らしの質を大切にする価値観が広がり、人を大切にする企業活動・公共政策のあり方を考えていくようになれば、ワーク・ライフ・バランスも進むでしょう。そして、子どもが育つ、子どもを育てる環境として地域社会のつくり直しにも目が向き、ほんとうの意味での子育て支援が広がっていくだろうと思います。

日本の便利で快適な暮らしは、焼野原から働いて働いてご苦労された皆さんの努力の上にあります。
私たち次の世代は、暮らしの「質」を高めることを考え、みんなが幸せに生きられる社会をつくるために努力することが役割なのかもしれません。