3000万語の格差2018/04/28


ダナ・サスキンド3000万語の格差:赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』
翻訳 掛札逸美 明石書店 2018(のチラシ)
             

人生ではじめて、解説、というものを書いてみました。

いつも掛札先生の「保育の安全研究・教育センター」の

ホームページを読んでいたのですが、

http://daycaresafety.org/

あるとき、たまたま掛札先生と近くの席に座り、

「いつも読んでます」と挨拶に行ったことがきっかけで、

この翻訳本が生まれました。編集は、明石書店の深澤さんです。

 

この本には、012歳の子どもが大人と豊かな会話を交わすことの重要性と

その時期の関わりを豊かにする方法が、

臨床、研究を織り交ぜて書かれています。

 

「3000万語の格差」は、

3歳の終わりまでに、家庭によって

保護者が子どもと話す言葉にはこんなに差があるんだよ、

という「家庭による言葉の格差」を象徴する言葉です。

 

本のなかに、子どもとたくさん話をした親が、

「今日も私は子どもの脳を育てたわ」話すシーンがあります。

「親の話しかけが赤ちゃんの脳をつくる」ことを知れば、

みんなこぞって赤ちゃんに話しかけるのではないかしらと思います。

でも、子どもにただ一方的に話しかけたり、

テレビを見せたりCDを聞かせたりと

言葉のシャワーを浴びせても、効果は薄い

大人が、子どもの心と体に注意を向け

子どもが関心をもっていることに対して

応答的に、バラエティに富んだ言葉(豊富な語彙)で

あたたかく肯定的な内容を話すことが大事である

とポイントや具体例が示されています。

            

今回、はじめて掛札先生と一緒に仕事をさせていただいて、

そのスピード感に圧倒され、仕事の緻密さに本当に驚きました。

掛札先生は、この本の参照文献等のリンクを貼ったウェブサイトも公開されるそうです。

http://www.kodomoinfo.org/

本は、Amazonで予約受付中。


挑戦も、安心も、の園庭環境2018/03/26

待ちに待った本が、届きました。

木村歩美、井上寿著
『子どもが自ら育つ園庭整備: 挑戦も安心も大切にする保育へ』
ひとなる書房 2017
子どもたちが挑戦できて
大人が安心して見守ることができる。
それこそ、多くの保育者が求める園庭ではないでしょうか。
本書には、「子どもが育つ園庭づくりのポイント」
「大人が安心して見守ることができるための園庭づくりのポイント」が
豊富な写真とともに、まとめられています。

園庭の改善に取り組んだ各園のプロセス紹介では、
一日で撤去した遊具も、なぜ撤去したのか、
その理由と写真が掲載されているのです。
この、じっくりゆっくり、試行錯誤のプロセスが、
子どもへのまなざしが変わるために必要な時間だと感じました。

また、
p88からの「園庭を構成する環境要素とその関係性」と、
p116からの「園庭での大人の安心感には何が必要か」は、
大型遊具を選ぶ園長のみならず、
園庭づくりや園設計、遊具開発に携わる方にも、
読んでほしいポイントです。

園庭や公園の遊具には、
大人がハラハラして見守らないといけないものが
とても多くあります。
元々事故が起きやすい形状をしているために、
保育者が、子どもを止めないといけないことがおきます。

この本を読んで、
保育者が、ハラハラする大型遊具と、
安心して見守ることができる大型遊具の違いを理解し、
その改善方法がわかると、
安心して大人が子どもを見守ることが増えるでしょう。
「園庭が変わると、子どもが変わり、大人が変わり、保育がもっと楽しくなる!」
ですね。(カバー裏より)

環境構成の原則の研究者として、
とても面白いと感じた部分は、
p38のコラム「どんな『動き』を誘いだしたいか」です。

木村先生は、乳幼児期に身につけていく動きを、
①地球で生きていくために要求されるもの、
②生活を維持・向上させるために要求されるもの、
③社会を維持するため・競技に取り組むために要求されるもの
の3つに分け、
①②を優先することが大事だと述べます。

この観点で、改めて全体の写真を見直すと、
自然界にある形状に近い遊具づくりが行われていて、
「直線、等間隔、同じ太さなど自然界では存在しないパターンで構成された」
人工的な遊具よりも、①の動きを引き出し、
自分の身を守る力も高まるように構成されていることがわかります。

p124の「声かけの怖さ」は、
保育者や保護者に読んでほしい部分です。

最後に、p146~157の
小林じゅん子先生(前西池袋そらいろ保育園園長)が書かれた
「私たちの縁庭物語」は、感動ストーリーでした。
読み終わった後、「すばらしい」と拍手したくなります。

園庭を改善してみたいと思う保護者や保育者は、
まずプロローグと第一章のカラー写真をながめ、
そして「私たちの縁庭物語」を読んで、
そして本文へは、いかがでしょうか。

今回は、私の本に対してAmazonにいただいたコメントを
ちょっと真似して書いてみました。

今日は、研究会のエクスカーションで、本書に紹介されている
鳩の森愛の詩瀬谷保育園さんへおじゃまします。楽しみです。

自然科学に関する絵本2018/02/17

先日の授業研究会は、千田先生が紹介して下さった保育内容環境の教材で盛り上がりました。

私も、研究会では紹介できませんでしたが、
年末から、何度も眺めているのが、かこさとしさんを特集した雑誌。
とくに「科学者が読むかこさとし」の特集が面白い!




自然科学の絵本に恵まれている日本の子どもたちは何と幸せなのでしょう。
私も、子どものときに、これらの本と出会いたかったものです。

まずは授業で使う絵本の購入をしようと、リスト作成をしました。
内容は難しいものもありますが、難しいことが好きな年長さんのために入れました。
だるまちゃんシリーズ、101ちゃんや、カラスのパンやさんシリーズなどは定番ですから入れていません。
かこさとしさん以外でも、自然科学に関する絵本を厳選しました。
何十年も絵本を出し続けてくれる日本の出版社には感謝です。

宇宙 (福音館の科学シリーズ) 福音館書店         ISBN-10: 4834007367

地球 (福音館の科学シリーズ) 福音館書店         ISBN-10: 4834004457

(福音館の科学シリーズ)   福音館書店         ISBN-10: 4834002012

人間 (福音館の科学シリーズ)  福音館書店       ISBN-10: 4834012786

か わ (こどものとも絵本)    福音館書店         ISBN-10: 4834000672

絵巻じたて ひろがるえほん かわ 福音館書店     ISBN-10: 4834082717

ゆきのひ (こどものとも傑作集) 福音館書店       ISBN-10: 4834001172

どうぐ (かがくのえほん)     福音館書店         ISBN-10: 4916016351

ちのはなし (かがくのとも絵本)福音館書店        ISBN-10: 4834007294

かさぶたくん (かがくのとも絵本)福音館書店      ISBN-10: 4834016404

はははのはなし (かがくのとも絵本) 福音館書店   ISBN-10: 4834003191

あなたのいえ わたしのいえ   福音館書店         ISBN-10: 4834003175

地下鉄のできるまで       福音館書店         ISBN-10: 4834003515

万里の長城         福音館書店 ISBN-10: 4834026523

ほねはおれますくだけます (かこさとし からだの本) 童心社ISBN-10: 4494009288

よわいかみ つよいかたち (かこ・さとし かがくの本) 童心社         ISBN-10: 449400958X

うつくしい絵       偕成社   ISBN-10: 4034170107

ピラミッド―その歴史と科学  偕成社; ISBN-10: 4035293202

小さな小さなせかい―ヒトから原子・クォーク・量子宇宙まで 偕成社       ISBN-10:4034372206

大きな大きなせかい―ヒトから惑星・銀河・宇宙まで 偕成社;         ISBN-10: 4034372109

あめ、ゆき、あられ くものいろいろ 農山漁村文化協会ISBN-10: 4540042882

じめんがふるえる だいちがゆれる 農山漁村文化協会ISBN-10: 454005144

ひをふくやまマグマのばくはつ 農山漁村文化協会ISBN-10: 4540051458


巣鴨駅で絵本探し2016/09/30

夏の実習訪問の合間に、巣鴨駅へ絵本を探しに行ってきました。
巣鴨駅を出て目の前の大きな道路を左へ歩いて行くと、
5分ほどで福音館書店が見えてきます。絵本好きにはたまらない聖地です。

実はこの福音館書店の社屋の一階に、絵本の販売所があります。

出版されている福音館書店のハードカバーの絵本と、
「かがくのとも」等の月刊誌や「母の友」が購入できます。
ここで絵本を購入できるなんて、誰が思うでしょうか?

この看板がついている入り口から入ります。
昼休みと、土日はお休みなのでお気をつけください。


中はこんな感じ。四面に本が並べられています!(もうこれだけでワクワク)
福音館書店の現在出版されているハードカバーの絵本と、月刊誌が置かれています。

最近本屋さんでは保育に使う絵本を探すことが難しくなりました。
日本社会は高齢化が進んでいますが、本屋さんの絵本は年齢(出版年)が若い。
子どもを引き付け喜ばせるお菓子のような本が多く、心の栄養となる本を見つけることは難しい。
ここでは絶版だと思っていた本とも出合えます。


カウンターにあったぐりとぐら。
ここで声をかけて本を購入します。
「かがくのとも」や「こどものとも」などペーバーブックを7冊買って2,723円。
ちょっと得した気分です。

牛乳パックでぞうくんのさんぽ2016/09/21

紹介しなくちゃ、と思っているうちに9月後半になってしましました。

おはなし組木、「ぞうくんのさんぽ」
見るだけで、子どもが遊ぶ様子が想像できるでしょう?
浜松で初めてこの組木に出会ったとき、とても興奮しました。
重量感があるのもいいですね。

絵本は なかのひろたか「ぞうくんのあめふりさんぽ」福音館書店2006

私は、この組木をさわると、故森島文子さんの声で
「やあ、かばくん」と聞こえてきます。
語りって不思議。ずっと心に残っています。

自由に遊んでいいものですが、
遊び方の例は、作者の森島孝さんのでこぼこBLOGにもあります。

おはなし組木には、他にもおおきなかぶ、がらがらどん、など子どもたちになじみ深いお話が揃います。

このおはなし組木を、牛乳パックで手作りする方法が、「母の友」9月号に掲載されているそうです。
「母の友」福音館書店、2016.9
ちなみに「母の友」は、保育者の友である保育雑誌よりも内容が専門的です・・・はい、「母の友」は良い雑誌です。
9月号の「母の友」の購入は、お近くの書店やこどものとも社さんか、巣鴨駅の福音館書店直売部へ。


これは以前保育園で見せていただいたもの。手作りワークショップを行ったそうです。

保育者が一度演じてみせると、
子どもたちが何度も繰り返して遊べる、これがおはなし組木の魅力です。

保育実習室には、保育者や子どもが繰り返し演じるものとしては、
このおはなし組木しか置いていなくて手作りの人形を作る暇がないまま3年が過ぎました。
ついに手作りをあきらめ、ネットで手作り品を購入。お手玉人形等がやっと実習室に揃いました。

つくって下さった方、ありがとうございます。


わらべうたの布、手作りのテーブル人形、走り人形、ブラブラ人形、手袋人形など・・・。
ちょっと入れ方がごみ箱保育っぽい・・・人形たちごめんなさい。
こんな入れ方だと子どもが片づけにくく乱暴に扱うという見本になってしまいました。
また、どこかで入れ物を探してきます。

子どもからはじめる保育実践2016/05/12

保育学会でお声掛けをいただいた皆様ありがとうございました。一年分のエネルギーをいただきました。
大豆生田先生のあの黄色い本に引き続き、赤い本が出ました。もうお読みになりましたか?勉強熱心な園長先生は必ず手に入れている黄色い本。先生方とお話していると、「あの黄色い大きい本」で通じるのがすごい。


大豆生田啓友「『対話』から生まれる乳幼児の学びの物語」学研、2016

表紙は、目にまぶしい赤に帯は真っ青。う~ん、やはり原色が保育界では好まれるのでしょうか・・・。


表題通り、子どもたちとの対話のなかから展開していく保育の実践を読むことができます。
レッジョ・エミリアの実践を学んでいらっしゃる先生方が多いからか、自然の素材、廃材を使った造形表現への展開を多く読むことができます。また、子どもの豊かな言葉を引き出すという点、領域環境(環境認識と活用)に関する視点を得ることができる本です。今、一斉保育を行っている園でも、取り入れやすい実践や環境の工夫が紹介されています。

実践の研究や共有には写真は不可欠。実践の流れがわかりやすいですね。

「一斉保育」「お楽しみ会保育」は広がりやすいものですが、「教育とケアの意図をもった環境を通した保育」は、なかなか広がりにくいものです。小学校で教科書を使った授業よりも総合学習の方が指導が難しいことと同様ですね。

保育を着実に変えている園のプロセスを見ていると、次のような段階を経ているように思えます。
①一斉保育⇒②環境(園庭・保育室)を充実させる⇒③子どもが主体的に遊ぶ姿を見て子どもをよく知る⇒④子どもの姿から環境をつくることを試行錯誤する⇒⑤保育の実践を子どもと一緒に展開する。
この本を読んで、①⇒⑤から②③④へと行き来する可能性を感じました。

保育を改善している園には、子ども観と保育観をしっかりと持つ中心的な人(多くは園長先生)がいて、保育者同士が語り合うしかけをつくり、保育者に対しても継続的に子ども観・保育観を語り続けていることが、共通して見られるように思います。

他者の実践を読むと、様々な気づきが生じます。園によって、子ども、保護者、保育者、保育室の広さ等状況は異なります。遊びや表現の素材として何を中心に用いるかは、保育時間や空間、保育者の現状によって選択が異なるでしょう。日本の保育では、あるテーマを歌や身体での表現、鬼ごっこなどの集団遊びへと展開することが特徴的だとも気づきました。
写真がたっぷりでわかりやすく編集されたこの本は、他者の実践のどこが優れていて、どこを活用できるか、話し合う材料にもなりそうです。


この黄色い本が、研究室で見つかりません。誰か、私がどこへ置いたのか知りませんか・・・?

保育プロセスの質を高める2016/04/14

熊本の先生方、子育てひろばの皆さん大丈夫でしょうか。落ち着きませんがp研でブログに書くと書き込んでしまったので書かないと仕方ありません。

保育実践に新しい視点をもたらす本の紹介です。
「『保育プロセスの質』評価スケールー「乳幼児期のともに考え、深めつづけること」と「情緒的な安定・安心」を捉えるために」イラム・シラージ+デニス・キングストン+エドワード・メルウイッシュ著
秋田喜代美+淀川裕美訳、明石書店、2016

全米乳幼児教育協会の「乳幼児の発達にふさわしい教育実践」も貴重な情報を提供していますが、本が小さく読みにくいので紹介しませんでした。こちらはB4で、一つの項目が見開きで読みやすさにとても配慮があります。埋橋先生が翻訳されたエカーズ等と、形式は似ています。

この評価スケールの特徴は、サブカテゴリ―の項目です。

1.信頼・自信・自立の構築
2.社会的、情緒的な安定・安心
3.言葉・コミュニケーションを支え、広げる
4.学びと批判的思考を支える
5.学び・言葉の発達を評価する

学びとケアのアウトカムに沿ってカテゴリーがつくられ、
「何のために」「なぜそうするのか」を毎回目にしつつ
具体的な実践を評価する項目が並んでいます。

各項目の実践を評価する指標は、こんな感じです。
【サブスケール1】信頼、自信、自立の構築
項目3 小グループ・個別のかかわり、保育者の位置取り
とてもよい 7.2 すべての環境を通して子どもたちの学びの足場かけをすることに十分な時間をかけている。また、子どもたちの学びの足場かけする際、自分がかかわっている子どもたちの姿に集中している。その一方で、他の子どもたちに対しても気持ちを向けていて、応答的である。

他者が保育を観察し実践を評価するためのスケールとしての本ですが、
私がもし保育実践者として使ならば、
評価チェックなどはしません。たぶん。
①各項目の「よい」「とてもよい」実践を読んでいく。
②信頼の構築だったらもっとこんな実践もある、とカテゴリーを見ながら本に書き込んでいく。
③気がつくことをどんどん空欄に書き込んでいく。
そういうノート的に使っていくと思います。(もちろんその後全部読みますが)

チームで、実践を高めるために読むときには、
①まず本を読む前に、「信頼、自信、自立の構築」というテーマで、グループに分かれて
「不適切な実践」と「とてもよい実践」として思いつくことを模造紙などに書き込んでいく。
②書き終わったら他のグループの内容も互いに読む。
③本に書かれている、不適切ととてもよいの内容を読む。
④気づいたことや、疑問点、意見などを交換する。
こんな感じで使うかなと。
「この本との対話で私たちの新しいスケールをつくろう」という意識で使うと思います。

このスケールは関わりの質を振り返りやすい内容です。
関わりの質は、構造の質に左右されます。
もしも関わりの質の問題が大きいと感じた場合は、
まず物的環境を整え、時間の環境を変え、
クラス編成、グループ編成などを変えることが最優先かと思います。

スケールの内容、後半の遊び、発達のまとめ部分も含め、この本を読むことで、日本の先進的な保育実践のレベルがいかに高いかを再認識させられました。日本の素晴らしい実践を、すべての園の質確保のために使える方法はないものでしょうか。

子どもと環境の関係について考える本2016/03/24

この1か月間、車椅子に乗って様々な体験をしました。
自分でやりたいのにできない2歳児の悔しさを味わい、身近な人の優しさにふれ、「お手伝いしましょうか」と声をかけて下さる見知らぬ方の多さに感激し、あきらめることを知り、子育て中もこうだったなと思い出しました。

さて今回は、人間と環境の関係について考える本の紹介です。
質問をいただいたS先生、遅くなってすみません。



深さと拡がりは深海級。引き込まれるとなかなか戻れなくなるのがこの2冊。
大橋力「音と文明ー音の環境学ことはじめ」岩波書店2003
河野哲也「環境に拡がる心ー生態学的哲学の展望」勁草書房2005*

人間と環境に関する研究の本では、
ロバート・ギフォード他「環境心理学(上・下)」北大路書房2005
波多野誼余夫「認知心理学 学習と発達」東京大学出版会1996
佐々木正人「アフォーダンスと行為(身体とシステム)」金子書房2001
エドワード・S.リード「アフォーダンスの心理学ー生態心理学への道」新曜社2000
認知心理学、環境心理学、生態心理学が、発達心理学と共に「保育の心理学Ⅰ」として保育者に必要な知見が整理されるといいですね。(私にはできませんが)

乗り物の中での読み物として、面白く読めるのはこの二冊。
三島博之「エコロジカル・マインドー知性と環境をつなぐ心理学」日本放送出版協会2000*
傳田 光洋「皮膚は考える」岩波書店2005
身体の重要性を改めて感じることができます。

*印はブログで以前にも紹介したことがある本です。

子どもを信じる保育者と「かわいい~」2015/12/24

今年も、森のようちえんピッコロの中島久美子(なかじまくみこ)先生に、授業のゲストに来ていただきました。

何度お話を伺っても、初めてルソーの『エミール』を読んだときのように興奮し感動します。
子どもって、なあんてすごいんだろう、
子どもの力を信じることには、何と力があることだろう、
保育って、なんて素晴らしい仕事なんだろうと、
胸が一杯になってしまうのです。
学生たちも、中島先生のお話にシンと引き込まれていました。

保育者がどんな「子どもへのまなざし」を持っているか。
「子ども観」をどう育てるか。
保育者養成と研修の大きな課題です。

私には、子ども観を変えるような授業はできませんが、
中島先生のお話には、子ども観を変える驚きがあります。


森のようちえんピッコロ
森のようちえんピッコロ『子どもを信じて待つ保育』、『群の視点』。


今回、一つわかったことがありました。
それは「かわいい」に関すること。

中島先生が、最初にいくつか写真を見せてくださったのですが、
ハッと息を飲むような写真に対しても、
「かわいい~」と黄色い声があがりました。
私は、(ああ、この写真も、かわいいなんだ)と、ひどくがっかりしました。

これまでも、園見学で学生が「かわいい~」を連発していると、
(なぜ、どこがかわいいなんだろう)と不快に感じることがありました。
かわいいとしか感じないのであれば見学に行っても仕方ないのでは
と、その年度は見学をやめたりもしました。

なぜ、「かわいい」を不快に感じるのか、
自分でもよくわかっていなかったのですが、
私は、「かわいい」という言葉から、
子どもを下に見ている印象を受けるからだとわかりました。

中島久美子先生のお話を伺うと、
子どもの感性や許容量の高さ、心のまっすぐさに驚き
(子どもってこんなことを考えているのか)と圧倒されるばかりです。
そのときに「かわいい~」と言われると、
なんだか子どもをバカにされたように感じてしまうのです。

子どもを(かわいいなあ)と、愛おしく思う「かわいい」と、
「かわいい~」という黄色い言葉の違いがやっとわかりました。

子ども観が変わったとき。
それは、子どもの行動を見て、
「かわいい~」と言わなくなったときかもしれません。

保育を変えてみようと思っている人に2015/12/06

千葉県富津市の和光保育園さんの実践が
ひとなる書房さんから本として出版されました。

「子どもに学んだ和光の保育 希望編 育ちあいの場づくり論」
鈴木まひろ・久保健太著、ひとなる書房、2015
「子どもに学んだ和光の保育 葛藤編 響き合ういのちの躍動」
鈴木秀弘・和光保育園職員・森眞理著、ひとなる書房、2015


鈴木真廣(まひろ)先生が書かれた希望編を先に読了しました。
私には、とてもこの本の奥深さを表現することはできないので、
帯の言葉をそのまま載せます。

「子どもは、その主体性の発揮を存分に保障され、
生活と遊びの主人公として尊重された時、
私たちの想像をはるかに超えた豊かな学びの物語を
自らの内に紡いでいきます。
そのために、子どもたちの可能性を信じて葛藤する
和光の大人たちの姿は感動的です」。

今、保育を変えてみたいと思っている先生方は、
まず1章「子どもが主人公になる保育への転換
 保育見直しの中の私たちの葛藤」
から
読み始めるのも良いかもしれません。
保育園を継いだ鈴木真廣先生と先生方が、
保育者主導の保育を
子ども主体の保育へ変えるために
試行錯誤された33年間が描かれています。

子どもとは?、保育とは?、
保育者の役割とは?と
授業を聞きながら混乱している学生さんは、
2章の「新たな教育観と保育の『真』と『深』」から。

園から地域へと子育て文化を発信したい、
地域コミュニティの再生につなげたいと
今様々な取り組みを行っている先生方には
3章「わこう村『子ミュニティー』育ち合いの場をつくる」
から読み始めることをお勧めします。

そして最初から読み直すことで
鈴木先生の深い哲学が染み入ってくるかと。

理論と哲学することが好きな方には
序章からぐいぐい読める本です。

余談ですが48ページに、
遊びから食事への切り替えに
選択の幅を持たせる保育を、
研究大会で発表すると、助言者から
「この園の躾はいったいどうなっているのか」と
厳しく指導を受けたエピソードがあります。

ちょうど今月の雑誌『げんき』の連載「保育かわらなきゃ」でも
レストラン形式で食事をする園児を見た指導者から
「こんなことをやっていたら食事の躾はどうなるんですか」と
見直しと報告を指導されるエピソードを読んだところでした。

昔も今も保育を変えようとしたときの批判の質は似ていますね。
皆さんはどのように考えますか。