不適切な保育と不適切な関わり2023/01/31

もう不適切な保育のお話は書きたくないのですが、
今、このテーマでの研修が各地で行われているため、
情報を書いておきますね。
またこれからの時代、AIが文章を収集して知をつくると考えると、
ネットに書くことにも意味があるように思えてきます。

さて、ニュース等では、不適切な関わりを不適切な保育と呼んでいますが、
私の研究では、不適切な保育不適切な関わりは違います。
図で表すと以下の通り。
不適切な関わりは、不適切な保育の一部です。



不適切な保育には、
(1)重大な障害や死亡事故が起きる可能性が高いもの
(2)教育の放棄、ネグレクト
(3)子どもの人格を尊重せず、人権を侵害するもの
(4)子どもの意欲を奪い、劣等感や無力感を与えるもの
の4つがあります。(「保育内容5領域の展開」p38~43)

不適切な関わりには、
保護者への不適切な関わり
(「改訂保育者の関わりの理論と実践」p92~95)
子どもへの不適切な関わり
(「改訂保育者の関わりの理論と実践」p96~97)があります。

関わりの本では、保育者と子どもの関わりの質を高めるために
時間・空間の環境を変えることを提案していました。

しかしニュースになるような事例の場合には、
時間、空間以外にも、要因があります。

         図 不適切な関わりの要因


子どもへの不適切な関わりが起きやすい園、それは、
子どもに何かをさせることが中心になっている園
物的環境・時間の環境が悪く、先生が忙しい園
関わり方の学習が行われていない園
不適切な関わりが許される風土(雰囲気)がある園です。

私は、保育の質を高めるために、
園の代表者だけが講師の話を聞く集合研修よりも、
園の全員が参加し本を読み合う園内研修を推奨しています。
これは、上記の図の3の「学習機会の少なさ」と
4の「不適切な関わりが許される文化」の改善をねらうためです。

園内研修で本を読み合うと、
不適切な行為を全員が認識できます。
そして、「よく怒る先生は、発達が分からない先生」
「よく怒る先生は、関わり方が分からず困っている先生」
という情報が全員に共有されます。

そうすると、優しい先生たちが元気になり、
それまで怒鳴っていた先生が怒りにくくなるのです。

上記の図の不適切な関わりの要因である1、2、3、4は、
いずれも園長、主任のリーダーシップで変えられるものです。

もしも保育者の言葉がきつい、
優しい先生から辞めていくという状況がある場合、
これらの要因を改善してみるのはどうでしょうか。

研修講師の皆さん、
図は、研修等で引用してぜひお使いください。

保育者の専門性「保育内容5領域の展開」2022/07/01

大変に長い間、お待たせしてしまいました。
やっと保育の専門性シリーズ「保育内容5領域の展開」が公刊となります。

高山静子「保育内容5領域の展開~保育の専門性に基づいて」郁洋舎 2022.7.19

今回は、文化の提供、活動の選択、行事のあり方が中心です。
環境だけ、関わりだけでは、いい保育にはなりません。
小学校以降との教育内容の連続性を確保するために、
5領域よりも細かい10の視点で発達と活動の体系化をめざしました。
たとえば小学校で文字が書けるようになるには、0歳ではどんな経験が必要なの?
という保護者のニーズにも応えるものです。

保育が変われば社会の未来が変わる

最近、環境の構成は保育の技術として認められてきましたが、
関わりや、保育内容の展開は、まだ保育者の技術と考えられていません。

私の仕事は、保育者がもつ実践知・経験知を言語化し理論化することです。
この本を読んだ保育者の皆さんが、
自信と誇りをもって堂々と胸を張る姿を想像しながら原稿に向かいました。

未だに保育は、誰にでもできる仕事と誤解されています。
私は保育所の保育士と大学教員を経験していますが、
保育の方が、大学の講義よりはるかに知識も技術も必要でした。
教育の対象を理解すること一つとっても、
大学生の理解は、経験や推測で何とかなりますが、
乳幼児の場合、専門知識がなければ行動を誤解し叱ってばかりになります。
集団の保育は、人柄がいいレベルではとてもできません。
また保育士が一人の子どもに与える影響は、大学教員が学生に与える影響よりはるかに大きいものです。

日本の保育実践者がもつ専門性を明らかにする研究が、やっと3冊目まで終わりました。
次は「子どもの把握と理解」(東京都公立保育園協会「広報」で連載中)、
そして「保育のマネジメント」(ただいま研究中)と続きます。

この暑い中で汗を流し、子どもたちのために心と体を尽くす保育者の皆さんを、心から尊敬しています。
保育者の皆さん、世間の誤解を超えられるように一緒に頑張りましょう!!

子どもが自分の身を守るためのクイズ2021/10/10

「保育内容の展開」(5領域の0歳から就学前の体系化)の研究では
具体的な活動が、大人中心になっていることに気づきました。

たとえば、
子ども自身が考える活動が少ない
子ども自身が決める活動が少ない
子ども自身が話す活動が少ない
などです。

子どもの安全に関しても、
保育内容健康のテキストやシラバスには、
大人がどうやって子どもの安全を守るかが中心で、
子ども自身が経験する「活動」が少ないのです。

大人が決める日常のルールや避難訓練を
子どもが自分の身を守るために、
子どもが考え、行動を決め、話す活動に変える必要があります。

保育園の送迎バスの事故を受けて、
RESCUE HOUSE レスキューハウス
というYoutube動画で
「車に取り残された時にはクラクションを鳴らし続ける」
という術を子どもに教えるべきと説明されていて、
なるほど!と思いました。

車に取り残されたらどうするか
地震が起きた時にどうするか
火事のときにはどうするか
大人の人に嫌な触られ方をしたときにどうするか
誰かにたたかれたりけられたときにはどうするのか
などなど、身を守るすべを考え話し、練習する活動が必要です。

昨年内容の展開の研究で自分の身を守ることにつながる絵本は
ずいぶん出ていることが分かりましたが、活動を集めることが大変でした。


さっそくゼミ生に、
「誰か子どもレスキュークイズの開発研究やらない?」
と誘うのですが、誰も乗ってくれません。

内容の指導法「健康」を教えている方
年長児を担任する先生方、
授業や園で取り入れてみませんか?

好き嫌いが多い子どもの援助2021/09/07

食事の指導で迷っているという保育者にお勧めしている本があります。

クレア・ルウェリン、ヘイリー・サイラッド「人生で一番大事な1000日の食事」ダイアモンド社 2019


子どもの食事についての様々な研究が紹介されています。

たとえば、

・子どもは「甘い物は栄養がある」と認識するために好きであり、「苦い物は毒がある」と認識するために、苦みのある野菜を嫌う。

・子どもは、生まれつき小食の子どもとたくさん食べる子どもがいる。食事量は子どもにより異なる。

子どもにプレッシャーをかけると、食事量は減り、好き嫌いが増える。子どもに強要しない食事指導は、科学的な指導である。


7月にある園の研究発表を聞きました。

食欲が薄い子どもへの働きかけで子どもが変わったという実践です。

その内容は、遊びや生活全体を通して、

食事への関心を促し、食事の意欲を改善するものでした。

食事の環境の改善や、野菜づくり、食に関する多様な教材研究が紹介されていました。


この実践を聞いて、上の図が浮かびました。

優れた保育者は、子どもを変えようとするのではなく、

食事の環境や関わり、教材、遊びなど、自らの保育を変えようとする。




もしも、保育者が子どもが食べないことにこだわり、

子どもを変えようとしたならば、

子どもは自分のネガティブな部分によけいにこだわるようになるでしょう。



また食の意欲は、自律神経に影響を及ぼす生活全体の現れです。

自律神経が機能していないと、食欲はわきません。

日中、光を浴び、走り回り、声を出して笑い、じゃれつきあい、

いきいきと心と体を動かす生活をする

保育者は、そういった生活全体で食の意欲を支えます。




食事場面の「指導」だけで、子どもの食の意欲を引き出すことには限界があります。

まずは、その子どもへのまなざしを変えることからはじめてみましょう。


「改訂保育者の関わりの理論と実践~保育の専門性に基づいて」郁洋舎2021 p44より



森のようちえんが認定こども園に2021/05/27

4月26日・5月10日号の「游育」を読んでいると
嬉しいニュースが飛び込んできました。


長野県松本市の
「里山保育ひなたぼっこ」さんが、
令和3年4月から、
地方裁量型認定こども園になったそうです。
おめでとうございます。

幼児教育の無償化後、
森のようちえんや、公園での自主保育のような
自然の場を中心とした保育が、
ますます意識が高く経済的・時間的にゆとりがある家庭の
ものになってしまうのではと危惧していました。
この政策決定の背景には
保護者と関係者の努力があったものと思います。

記事によれば地方裁量型認定こども園は、
全国で82園あるそうです。
行政担当者の意識によっては、
地方裁量型認定こども園は良い方向に使えるのだと、
新たな学びをいただきました。

游育さん、いつも貴重な最新情報をありがとうございます。

内容を改訂しました2021/05/14

ついに三冊目の保育者の専門性、
5領域の体系化である「保育内容の展開」を出版します!
と書きたいところですが、
今は大変な編集作業をしていただいている途中です。
もう少々お待ちください。

代わりに、
「環境構成の理論と実践」改訂の
お知らせをします。

高山静子「改訂環境構成の理論と実践 保育の専門性に基づいて」 郁洋舎 2021

これまで一緒に本をつくってきた編集者が
昨年の状況のなかで出版社を立ち上げました。
独立ってどれほど勇気がいることでしょう。
応援企画といっては何ですが、
改訂版を郁洋舎さんから出版しました。

改訂で意識したのは、
「園内研修や授業内での
短時間での読み合わせのしやすさ」です。

学生は、私が講義ばかりすると
学び続ける専門職としての学び方を身に着けにくい。
集合研修に参加し、一人で本を読んでも
チームの質上がりにくい。
園内で振り返りや話し合いを重ねても、
古い知識のままでは保育は変わりにくい。

園内やクラスで読み合わせをして、
新しい知識、学びを元に保育を議論する、
専門職としての主体的な学び方、
短時間や週に数回だけ働く保育職員も含めた
チーム全体の知識をアップデートする
そんな学びを推進する教材としての使いやすさを考えました。

本を使った園内研修を続けてきた園が
今度、保育の変化について発表されると伺いました。
とても楽しみです。


応答的な関わりを理解するロールプレイ2019/07/28

「保育者の関わりの理論と実践」が、やっとamazonや楽天に流れるようになりました。
職員会議で本を使って演習を行った園より感想が届いています。皆様、ありがとうございます。
感想を読むたびに、本に入れればよかったと感じる補足をこちらに書きますね。

保育では、これまで「言葉かけ」「言葉がけ」と言われすぎています。
柏女霊峰先生も、「発信型の技術」への偏りと、
「受信型の技術」を習得する必要性を、早くから指摘されていました。

演習では「応答的に会話をする」という基本の確認が必要です。
以下の補足は、受容の演習の際にご活用いただければと思います。

私の研修でご覧になったことがあるかもしれませんが、
原色のボールなどを使って、子どもとの会話について考えることができます。
リーダーと子ども役で二人でモデルを見せることや、
全員でロールプレイを行うこともできると思います。
解説は、私の4歳児レベルのイラストで申し訳ありません。


会話はキャッチボール。相手のボールを受け取って投げ返します。


たとえば散歩先で子どもが「まだ遊びたい」という玉を投げてきたら、
子どもの投げたボールをうけとること、これが会話のはじまりです。

でも、大人は子どもの投げたボールは無視しがち・・・


こんな言葉や、

こんな言葉を使いがちかと思います。
自分のボールを投げる前に、まずは子どもが投げたボールを受け取りましょう。

散歩先から帰る、集まりの前に片づけるなど、保育者は日課としてわかっています。
まだ見通しをもてない年齢の子どもには、事前にできることは何か考えることもできます。

また、「帰ろうか」という前に言うべきことはないのか、ハートの部分を考えてみることもできます。



心身の活動量が高い体操2019/06/05

やっとアサブロの写真UP機能が回復。ブログをアップします。

小学館から「0・1・2歳児の保育」の夏号(2019年6月)が送られてきました。

小学館012歳児の保育
表紙の写真、実にいいですね。

陽だまりの丘保育園のこだわりの乳児保育室、
天野珠路先生の「震災に備える園舎と備蓄」、
「ドイツの保育室の吸音環境」など、気になる記事が満載でした。

でも、やはり最初に読んだのは、
楽しみにしていた今井寿美枝先生の「はう運動遊び」の実践です。

はう運動遊び特集

転んでも手をつかず、顔から転ぶ子どもが増えた、
転んで顔を切った子どもの保護者から厳しい苦情を受けているなど、
現場の悩みを聞いています。
子どもの顔のケガは、保育士の退職につながる深刻な問題です。

地域の子育て家庭への支援が、0歳児の保護者に届いていない地域では、
転んだときに手が出ない子どもが多く入園してくると思います。

転んでも手が出ない子どもさんの保護者に
「顔から転ばないためには、家庭でこんな遊びをするとよいですよ」
とお伝えするためにも、保育者ははう運動あそびを知っておきたいもの。
「はう運動あそび」は、協調運動であり、活動量が高いことに加え、
人との関わりが伴い、目を合わせて笑いあえることが特徴です。

今井先生の三部作。子どもの発達が気になる保護者にもお勧めしたい。

幼児期の子どもがぐんぐん変わる3部作

そして今回今井先生がはう運動あそびを音楽に合わせた体操にしたことを伺いました。
さっそく今井先生にお願いをして送っていただきました。

活動量の高い体操


地域や園庭に子どもが駆け回る広い場や起伏がない場合には、
心身の活動量の高い体操や遊び等で、運動を補ってみるのはいかがでしょうか。

保育者の関わりは専門性2019/04/13

二年連続でやってしまいました。日本保育学会での発表の登録ミス・・・。
連名発表の皆様にも、ほんとうに申し訳ない。
今年も、空き時間は、書店のブースにいると思います・・・。

保育の専門性を言語化する研究の第二弾が出ます。
「保育者の関わりの理論と実践-教育と福祉の専門職として」エイデル研究所


保育という複雑な職務を養成可能にするためには、構造として分けることが必要です。
環境構成に続いて、今回は、この「指導・援助」の部分の理論化を試みました。

これまで、子どもとの関わりについては、保育者養成では科目すらありませんでした。
「え~!、保育士や幼稚園教諭って子どもとの関わり方を学ぶ科目がないの!?」
とっても驚かれます。そうなんです。なかったんです!

私は、ニュースに出る”不適切”な保育は、養成にも責任があると考えています。
保育者は、関わりの技術を習得することなく、個人の人間性と努力で集団の子どもと関わります。
一人ひとりの子どもと丁寧に関わり、同時に全員の子どもに目を配るなんて、人間業ではありません。
手遊びやピアノや造形の技術程度で、何とかなるわけがない。
一人で、1歳の6人、3歳の20人を”適切”に保育するには、環境構成や関わりの高度な技術が不可欠です。
しかしこれまで「集団の保育」は、「家庭の養育」と同じレベルで考えられてきました。

保育士養成課程の見直しでは、「子どもの理解と援助」という名称の科目が設置され、大きく前進しました。
ただその内容は、「保育の心理学Ⅱ」から移行したことと、幼稚園教諭養成課程の「幼児理解の理論及び方法」と兼ねるため、心理の視点から子どもを理解する方法が中心であり、「援助や態度」は、「基本を理解する」に留まっています。しかも、「援助や態度の基本とは何か」書かれている本はこれまでありませんでした。

この本では、根拠に基づく関わりができるように理論と実践を結びつけ、技術として習得が可能な関わりをまとめました。演習のワークを16入れて、園内研修、集合研修、養成の授業で使えるようにしています。

きっとこの本が出れば、長年関わりを研究されている先生方がもっと良い本を出して下さるでしょう。
それによって、保育の質がより高まることを願っています。

科学関連絵本が充実しました2018/10/04

以前注文した本が、保育実習室に揃いました。

実習準備室の高山の棚に並べておいていますので、
学生の皆さんは、手にとって閲覧してくださいね。


絵本を自分の主観や好みで選ぶと、保育室の絵本が偏ります。
目の前の子どもには、図鑑型の子どもも、物語型の子どももいるはずです。
理数系科目が苦手だった人は、意識的に自然科学の本を置くことができます。
マルチ能力理論を意識して、バランスよく絵本を選ぶとよいかもしれません。


別冊太陽248「かこさとし 子どもと遊び、子どもに学ぶ」平凡社2017

本屋で買い損ねていましたが、福井のかこさとしふるさと絵本館で発見。
絵本作家であり、遊びの研究者であり、活動家であった、かこさとしさん。
この本のなかで、子どもが未来を拓く鍵は、
外遊び、手伝い、本を読み言葉を正しく巧みに使えるようにする。
この三つとお話されていたことが、紹介されていました。