絵本選びの根拠2016/05/19

ゼミで、絵本選びのワークをやってみました。
日本保育者教育学研究会の授業実践研究会で、教えていただいた授業実践。3年と4年に分かれて20分ほど。


4年生のワークは同じ物語で出版社が異なる絵本。お題は、「幼稚園・保育園で優先的に読み聞かせしたい順番に並べる。そしてその根拠を説明する」です。もちろん正解はなし。さあ、どの順番に並べるでしょうか。

(左上から順に)

まつい ただし, あかば すえきち、ももたろう、福音館書店、1965

いもとようこ、ももたろう、岩崎書店、2001

柳川 , 水端 せり, 宮尾 岳、ももたろう、永岡書店 1998

市川 宣子, 長谷川 義史、ももたろう、小学館、2010

松谷 みよ子, 和歌山 静子、ももたろう、童心社、2006





こちらは3年生がやったワーク。4歳児クラスで読みたい絵本はどれか。5歳児クラスでは?。その根拠は?もちろん正解はなし。すごく悩んでいました。

石井 桃子, 赤羽 末吉 、したきりすずめ、福音館書店 1982

いしい ももこ, あきの ふく、いっすんぼうし、福音館書店 1965

時田 史郎, 秋野 不矩、うらしまたろう、福音館書店 1974

瀬田 貞二, 赤羽 末吉、かさじぞう、福音館書店 1966

平野 ,太田 大八、やまなしもぎ、福音館書店 1977



学生は、左からこんな順番で並べました。根拠として「言葉にリズムがあっておもしろい」、「詳細に書き込みすぎているから子どもが想像する余地が少ない」、「ストーリーが違う」、「本が小さい、家ならいい」など。絵や言葉、ストーリーに着目して根拠を説明。もっと時間があれば、違う意見も出たかもしれません。
「子どもが喜びそう」、「絵がかわいい」、「絵がはっきりして見えやすい」という理由は出てきませんでした。学生は、アニメ絵本を一位か二位に選ぶと聞いていたので、ちょっとホッとしました。

保育者が読み聞かせをする絵本は、子どもに影響を与える重要な文化財です。また絵本の言葉は、保育者の言葉となり、子どもの言葉となります。保育者が何千冊の絵本のなかから読み聞かせの絵本を選ぶのは、料理人で言えば、世界中の産地の中から必要なお肉を選ぶって感じでしょうか。

教えていただいた授業実践では、同じタイトルの絵本を探すことをグループの課題にしていました。また100冊の読み聞かせ絵本リストをつくる課題を課している大学もあるそうです。他の先生方の教育実践はとても参考になります。


子どもを信じる保育者と「かわいい~」2015/12/24

今年も、森のようちえんピッコロの中島久美子(なかじまくみこ)先生に、授業のゲストに来ていただきました。

何度お話を伺っても、初めてルソーの『エミール』を読んだときのように興奮し感動します。
子どもって、なあんてすごいんだろう、
子どもの力を信じることには、何と力があることだろう、
保育って、なんて素晴らしい仕事なんだろうと、
胸が一杯になってしまうのです。
学生たちも、中島先生のお話にシンと引き込まれていました。

保育者がどんな「子どもへのまなざし」を持っているか。
「子ども観」をどう育てるか。
保育者養成と研修の大きな課題です。

私には、子ども観を変えるような授業はできませんが、
中島先生のお話には、子ども観を変える驚きがあります。


森のようちえんピッコロ
森のようちえんピッコロ『子どもを信じて待つ保育』、『群の視点』。


今回、一つわかったことがありました。
それは「かわいい」に関すること。

中島先生が、最初にいくつか写真を見せてくださったのですが、
ハッと息を飲むような写真に対しても、
「かわいい~」と黄色い声があがりました。
私は、(ああ、この写真も、かわいいなんだ)と、ひどくがっかりしました。

これまでも、園見学で学生が「かわいい~」を連発していると、
(なぜ、どこがかわいいなんだろう)と不快に感じることがありました。
かわいいとしか感じないのであれば見学に行っても仕方ないのでは
と、その年度は見学をやめたりもしました。

なぜ、「かわいい」を不快に感じるのか、
自分でもよくわかっていなかったのですが、
私は、「かわいい」という言葉から、
子どもを下に見ている印象を受けるからだとわかりました。

中島久美子先生のお話を伺うと、
子どもの感性や許容量の高さ、心のまっすぐさに驚き
(子どもってこんなことを考えているのか)と圧倒されるばかりです。
そのときに「かわいい~」と言われると、
なんだか子どもをバカにされたように感じてしまうのです。

子どもを(かわいいなあ)と、愛おしく思う「かわいい」と、
「かわいい~」という黄色い言葉の違いがやっとわかりました。

子ども観が変わったとき。
それは、子どもの行動を見て、
「かわいい~」と言わなくなったときかもしれません。

保育者養成・研修の質を高める2015/08/05

保育の質を高めるには、保育者養成・研修の質を高めることが不可欠です。保育の質を高めることには、予算がかかることが多いのですが、保育者養成教育と研修の質を変えることには、予算は不要です。



先日玉川大学のラーニングコモンズを見学する機会がありました。
二つのフロアーにまたがる1000人収容の広い、広い、ラーニングコモンズ。玉川大学では、1日8時間大学で学ぶとができる空間と時間を確保しているそうです。履修単位は半期で上限16単位。授業は1限と5限、2限と4限など必修の間をできるだけ開けるのだとか。徹底しています。保育者養成では講義半日、現場半日で8時間であれば最高ですね。

数年前から保育者養成・研修の質を高めたいと授業の工夫を伝え合う研究会をやっています。小学校の先生方の実践の蓄積にははるかに劣りますが、最近、ネットでも大学教員の授業実践を気軽に読むことができるようになりました。以前に日本医学教育学学会を紹介しましたが、今回は、保育者養成や研修のために、参考にしている団体やホームページを紹介します。

高等教育開発、FDに役立つ資料やリソースがアップされています。

 「教授法が大学を変える」では、教育学術新聞が公募した教育実践事例を読むことができます。
「教職員の教育力向上⇒教育改善研究のコンテスト」の、ICT利用による教育改善発表論文は参考になります。

最近文部科学省はアクティブラーニングを推進しています。協働する保育者を育むには、学びも協同的でありたいもの。協同学習の考え方や方法は授業の改善に役立ちました。

九州を中心に実践交流会が行われています。玉川大のラーニングコモンズ見学はこの学会の企画でした。

この他にも、各大学のFDページは勉強になります。

遊びの素材を選ぶ2015/06/29

「放っておいても子は育つ」と言われた頃、家の周りには、草や土といった遊びの素材がありました。しかし今多くの地域はコンクリート。子どもが、草や土のような応答性が高く想像力を付け加えることができる素材と出合う機会は減っています。長時間保育、1,2歳児の保育需要の増加、人的配置の厳しさからも、保育室内に草や土のような遊びの素材を準備する必要性が増しています。

しかし市販の玩具は何百種類とあります。そこから子ども自身が遊びを作りだすことができるものや、乳幼児の細やかな発達に合ったものを選ぶことは至難の技です。

領域「保育内容環境」には、「物の性質を理解する」ことが含まれています。そこで授業では一回分を使って様々な種類の積み木やブロックと、それらの物によって生じる遊びの違いを考察する演習を入れています。ブロックや積み木は、幼稚園や保育園で、子どもたちが室内で最も日常的に使う玩具でもあります。

たとえば、複雑な形と人工的な色彩をもつプラスチックのブロックでは、どのようなものをつくりやすく、どんな遊びが生じやすいか?


シンプルな形と色のカプラでは、どのようなものをつくりやすく、どんな遊びが生じやすいか?
子どもは、そこで何を経験し、何を学習しているのか。

あれかこれかではなく、どんな子ども、どんな園、どんな状況のときに適しているかまで考えられればと思いますが、私の力不足で、そこまではいきません。

他にも、基尺の揃った和久積木と、基尺がバラバラの積木、フレーベル積木、シュタイナーの積木、文字が書かれた積木、レゴブロック、井形のブロックなど、様々な種類の素材を出して、その違いを体感する機会を作ります。
本当は反転授業(授業以外の時間で素材を使った遊びを体験・リポートして授業にもち合い話し合う)にしたいのですが、まだ日常的に、これらの素材を触る場がないため、今は授業内での体験が優先です。


一人当たりの量を少量にして「創造的な作品」をつくる課題を出すと、学生から「足りない」と言われます。幼児は「もう少し量が多ければいいのに」なんて言いませんが・・・。



ゼミで、基尺が合わない大型積木同士を組み合わせて何かを作る課題を出したときには、学生たちは「作りにくい!」と途中で怒り始めました。(幼児は「基尺が合っていないから作りにくい」なんて訴えませんが・・・)。
また、ふわふわの柔らかい大型積木を見つけると、学生たちがよく始めるのが投げ合いです。どうも年齢は関係がなく、素材自体に行動を引き出す要因があるようです。

素材選びの目を育む授業を研究中です。

インタラクティブ・ティーチング2014/11/23

このブログは頻繁に書かないようにしていますが、取り急ぎ、保育者養成校教員の方にお知らせです。

今、gacco(大学教授陣による講義を無料で受けられるオンラインサービス)で、栗田佳代子先生と、中原淳先生らによるインタラクティブ・ティーチングの講座が、11月19日から開講しています。学習者が主体的に学ぶ双方向の授業を実現するための考え方や具体的な方法を無料で学べるという何ともありがたい講座です。

大学の教員になってしまうと、アクティブラーニングやワークショップのファシリテーター養成講座など、長時間の講座に参加しにくくなりますが、8週間の講座がネットで夜に学べます。
ダウンロード資料だけでも、PDFで79ページ。授業の質を高めるための参考資料やホームページが数多く紹介され、それだけでも勉強になります。

「保育、変わらなきゃ」という本がありましたが、専門学校、短期大学、大学の授業も変わらなきゃ。
子どもを生活の主役にできる保育者を輩出したいと思ったら、まずは、養成校で学生が主体的に学ぶ授業をしたいものです。養成校教員の皆さん、一緒に受講しましょ。


保育実習室閲覧用写真2014/10/28

乳幼児期の保育(養護と教育)は、「環境を通して」行います。環境を通して行う保育は、子どもが体を通して学ぶことを助け、個別的で違いを尊重した学びを保障し、子ども自身の環境に働きかける力や継続する力を育む、実に学習心理学の研究成果に則った教育方法です。

この夏、学習心理学の本を読んでいると、ついつい学生の体験を通した学び→保育実習室の充実が頭に浮かび、消耗品や備品を選んだり保育園の写真フォルダからテーマ別に写真をコツコツと移動をしたりと、研究をそっちのけで時間を大量に使ってしまいました。造形表現に関する写真を集めたら140枚も!担当する授業で、学生に見せることができる写真はごくごくわずか。どうすれば学生が自然に多様な環境を学べるのだろうと悩み・・・、その結果完成したのがこれ。保育園でよく見かける写真のラミネートを真似してみました。








造形表現、ごっこ遊び、絵本、運動遊び、机上遊び、積木遊び、乳児クラス、人的環境などの写真を並べてみました。(一部は、A5の印刷を頼んだつもりがA6に、忙しいとこういうことをやります。とほほ)

今各大学では、主体的な学習を促進するラーニング・コモンズの設置が盛んです。その多くは図書館に設置されます。しかし机と椅子、パソコンとプロジェクターが置かれたスペースで、調べ表現し交流できる知は、言葉や図式などで表現できる知が中心です。

マルチ能力理論では、人間には、運動、絵画や造形、歌や音楽など、多様な能力があると考えられています。
保育者は、マルチな能力発揮が必要な職業ですから、保育者の能力はパソコンや言語では十分に発揮と交流ができません。そのため、実践型ラーニング・コモンズとか、マルチプルラーニング・コモンズとでも呼ぶべき空間が必要になると考えています。とくに今私が所属する学部には環境デザインや介護、スポーツなどを学ぶ学生たちがいます。多様な能力をもった学生たちが交流するクリエイティブな空間ができればと、妄想が止まりません。

保育者養成では、まだ保育実習室は必置ではありません。遊びを中心的な教育方法とする幼児教育では、保育者は意図をもって環境を構成しなければならないことが「保育所保育指針」にも「幼稚園教育要領」にも示されています。環境を構成する技術を机上で獲得することは困難です。主体的な遊びのなかで子どもたちが気づき考え学びを得る質の高い幼児教育を支えるためには、養成課程には保育実習室の設置が必要であると考えています。





園庭と保育室の環境に関連するカタログも、保育実習室に置いてみました。素敵な表紙を台無しにしてしまってすみません。(心を亡くしている証拠です・・・再び反省)

ごっこ遊びの環境を学ぶ2014/06/01

ゼミで、お家ごっこの環境をつくり、近隣の園の子どもたちに遊びに来てもらいました。

場所は学内の保育実習室。3歳児向けのごっこ遊び空間を、3か所作りました。
まず環境構成の原則的な理論を学習した後に、学生たちで話し合って、充実したごっこ遊びができる空間、集団での保育に合わない素材や道具が置かれた空間、ごっこ遊びが広がらないように工夫した残念な空間の3つを作りました。学生たちがごっこ遊びが広がるように必要な素材や道具などを考えて小物を作ったり購入したりしました。最後に時間の関係で、私が解説しながら3つの空間を修正しました。


手前右、右奥、左奥の三カ所に作りました。中央のじゅうたんは他の授業で使用しているものです。


遊びが広がらない空間として、私がケースの中にプラスチックの野菜とお皿と人形を混ぜると、「いやだ~」「人形がかわいそう」「こんなんじゃ遊べない」と学生たちから一斉に叫び声が。一度玩具が棚に並んだ状態に慣れてしまうと、箱の中に玩具を入れることには耐えられなくなるようです。

遊びが広がりにくい空間では、ケースに玩具を入れます。ケースの色も、ごっこ遊びのイメージが広がりにくい濃いブルーの色です。子どもを引き付けるカラフルなクッションと、ごっこ遊びと関係のない壁面飾りを加えて、子どものイメージを広がりにくくしました。担当する学生は、子どもの注意を引くキャラクターのエプロンをつけます。


ちょっと残念な空間は物の質と量に問題があります。素材や道具は置かれているけれども、子どもの発達に合わない大きさであったり、具材も集団にふさわしい量が準備されていない空間を準備しました。


ままごと道具は、すべて木製の小さなもの。レンジ台も小さい。具材はテーブル上のボール一つ分人形は世話をしにくい大きさと柔らかさの人形を並べました。窓の飾りは、学生たちが「こんなにさびしい空間では子どもが誰も来てくれない」と貼ったものです。


ごっこ遊びが広がる空間には、素材と道具を準備しました。具材にはチェーンリングや花はじき、フェルトで作った具材を準備し、手前側に人形がいます。レンジ台の高さが年長向けですがこれは妥協、作業台もないため机で代用しました。仕事をする上で現実的制約は付き物なので、妥協も学生に学習してほしいことの一つです。




最初の15分間は子どもと関わらないというルールを設けて、観察に徹することにしました。

子どもたちがやってくると、全員が素材と道具が充実した空間で遊びはじめてしまい、その後、他の空間へ誘うという結果になりました。後から考えるとああすればよかった、こうすればよかったと課題だらけでしたが、学生たちは、子どもが素材を見立てて遊ぶ姿と、手と道具を使うことに専心する姿を見ることができ、その他の空間と比較ができたため、学びの内容としてはよかったと満足することにしました。

講義で聞くことと、実際に子どもの姿を見ることには大きな差があります。学生たちは、保育者が選んで置いた物によって、子どもの遊びが変わることを実感できたようでした。保育実習室があることで、子どもの遊びや行動を予測しながら、何度も空間を作りかえることができます。学生たちが実際に何度も棚やじゅうたんを動かし、遊びの素材を並べ替えることで、「環境は変えることができる」ことを体に染みつけてほしいと思いました。

学生は、子どもと関わることを望みますが、子どもと保育者の援助を理解する上では、子どもと環境とのかかわりをじっくりとみる体験」が養成では非常に重要だと感じた次第です。ご協力を賜った先生方、大変にありがとうございました。

今回は家庭ごっこでしたが、言葉遊びの環境、造形表現の環境、運動遊びの環境についても試してみたいものです。環境構成技術を獲得する授業について試行錯誤中。


大学教員の採用基準2013/12/30

以前、新任教員研修会に参加した際、学長から大学教員は教育職としての自覚をという話がありました。その際カリフォルニア大学の教員採用基準になるほどと思いましたが、FDニュースに内容の掲載がありましたのでご紹介します。(これは11月に下書きを書いたものです。頻繁に更新しないように記事を小出しにしています)

「カリフォルニア大学の教員採用基準」
① 専門科目に対する能力を十全に備えていること。
② 専攻分野において、弛まぬ進歩を遂げていること。
③ 授業のための教材を組織化し、これを分かりやすく提示する能力をもっていること。
④ 授業の主題と他の分野との関連性を学生に分からせる能力を持っていること。
⑤ 学習・教授課程において、学生の意欲をかき立てるとともに、教師も情熱を持っていること。
⑥ 入門段階の学生には好奇心を起こさせ、より進んだ学生には創造的な勉学を促す能力を持っていること。
⑦ 学生に対するガイダンスや助言活動に熱心に関わっていること。
竹村牧男「大学教員としての教育能力のあり方について」Toyo University FD News 第12号 東洋大学

う~ん、列挙されると努力目標が明確になりますね。私はどれも頑張れといったところですが、とくに今の課題は③。私のように実践者が大学の教員になる場合、改めて高等教育に関する学びを得て、経験を相対的に使う姿勢が必要になります。具体性のある話ができることは実践経験者の強みですが、内容が具体に偏りすぎたり、具体例を使うことで教員の主観や経験話の授業であると、学生に誤解をさせる場合もあります。
研究成果だけを講義しても実践者の養成教育はできず、理論に基づくことのない経験と主観を話すことも高等教育としてふさわしくなく、理論と実践とを結びつける授業内容と方法を研究し、保育者養成教育の教材開発をすすめる必要があります。理論を実践で活用するには、原則的な理論を構築しその教授を優先することも大切だと考えています。科目内での教育課程編成も一つのポイントとなりますが、興味深い研究成果を見つけました。

幼児教育研究部がない国立教育政策研究所


勝野頼彦「平成24年度プロジェクト研究調査研究報告書5 社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理」『教育課程の編成に関する基礎的研究』 国立教育政策研究所,2013


 ←の矢印をつけた部分です。


保育者を、福祉と教育の専門職として養成する教育について来年も模索を続けたいと思います。
今年もお世話になりました。皆様、どうぞよいお年をお迎えください。

基礎ゼミで岩波ブックレット2013/12/10

今年は基礎ゼミにあたる「子ども支援学演習Ⅰ」(33人)を担当しました。基礎ゼミを持つのは初めて。保育を行う上で基盤となる論理的・相対的な情報収集・思考と表現、コミュニケーション力を高める場にと思いましたが、30回の授業は試行錯誤で、学生たちには申し訳なかったと後悔しきりです。

子ども支援の第一段階として、子どもが育つ環境としての地域・家庭の理解を挙げ、グループで地域のフィールドワークを行ったり、自分が住む地域の支援の現状を調べたり、文献にあたったりしました。
しかし、その子育ての問題が発生する要因である貧困や、環境汚染や、消費文化の問題など、社会問題を扱う時間が取れず、出す課題の量にも限界を感じていました。福祉・教育のありようを考えるには、現実に社会で起きている問題を理解することからしか始まらない…。でも、悩み続けていると、ある朝(あるいは夜中に)、突然アイディアがパッとひらめくのが常です。
「そうだ!岩波ブックレットがある!」

薄くて、わかりやすい文章。一つのブックレットに一つの社会の課題が示されています。学校の行きかえりに読むのにもちょうどいい量です。さっそく課題を出してみました。終わって図書館へ行くと一年生が本を選んでいます。「どれもこれもおもしろそうで迷う」と、彼女たちの手には数冊のブックレットが抱えられていました。いいかも。
私は農薬汚染のブックレットを借りに行ったのですが見つからず、代わりに2冊借りてみました。

岩波書店 岩波ブックレット
安田睦彦「お墓がないと死ねませんか」岩波書店,1992
角田和彦「劇症型アレルギー」岩波書店,1998

子ども支援学演習Ⅰでは、虐待等、子育てで起きている問題は、母親や個別の家族の問題というよりも社会全体の問題であること。子育ての課題は、私たち一人ひとりの価値観や暮らし方の課題であること。一人でもできることがああること。私たちはみんなつながっていて、ほんのちょっとの優しさと勇気で誰かを幸せにすることができること。そんな気づきが得られればと思います。基礎ゼミの最後では、「教養がある人」の行動や暮らし方のイメージについて、学生たちに話を聞いてみたい。

西日本新聞社の食に関するブックレット「食卓の向こう側」シリーズも、図書館にリクエストしました。(朝霞図書館では、ブックレットや文庫の棚ではなく、食品や栄養の書棚に所蔵されています)「ペットボトル症候群」や「フェイク(もどき)食品」など、身近な食の問題が取り上げられています。O‐157や発ガン性物質が、食べ物をよく噛むことで毒性が低下する話など、興味深い取材記事もありました。

私の場合、食に関する問題を読むと、しばらくは粗食・小食になるので、ダイエットにピッタリです。

講義で学生の活動性が高まるしかけ2013/10/17

台風が通りすぎた後に竜のような雲が。目は月です。台風の被害に心が痛みます。皆様は大丈夫でしたか。

昨年は、全国保育士養成協議会で、講義で使用してきた参加型の学習を整理して発表しました。その後、お会いした方から、「あれ、使ってるよ」と声をかけていただくと、とてもうれしいものです。

保育では、体を通した学びを重視します。成人の学習でも、表現したり、人と意見を交換しすり合わせたりと身体をいったん通すことで、知識が腑に落ち、学びを深めることができると実感しています。
また保育は体を動かし、他者とコミュニケーションをとる仕事なので、講義を一日中黙って聞いていることが得意ではちょっと困るかなと。授業を通して多様な人とコミュニケーションをとることや、得た知識を相手に伝わるように表現することが得意になるようにと意識しています。

今回は、これまで専門学校や短大等で使用してきた学生の参加度が高まる授業の手法を紹介します。これらは本や研修で学んだり、自分で開発したもの。授業の規模は50名程度ですが、100名以上の講義でも活用できます。しかし手法は教室のハードに制限を受けますので、教室によっては使えない手法もあります。これらは毎回全部を行うわけではなく、90分間に、講義を聞いてノートをとる学習と、活動性が高い学習を組み合わせて行います。保育と同じで計画通りにはいきません。

1)前回の復習と導入

①前回のキーワードを提示し説明するコメントペーパーを提出
→遅刻が多くて困ったときには最初の15分間で課題提出を数回行うと遅刻が減りました。
②課題の作品を教室の後ろに並べ全員で閲覧する
→お便りなどイラストを使った課題は必ず全員で閲覧します。
③課題の作品やコメントのうち、いくつかをパワーポイントで紹介する
→お便りであれば、キャッチコピーが上手い、保護者の視点に立った言葉づかい、イラストが味があるなど良い部分を取り上げます。
④課題の作品や調査結果をグループで発表する
→数人がグループで発表する課題は、時間を測り、発表者はその時間内は立って話し続ける仕組みにします。一番よかったと思う人を「せーの」で指すこともあります。
⑤課題に互いに赤ペンとコメントを入れる
→肯定的なコメントを書くように促します。
⑤今日のキーワード等を提示し、ノートに講義を受ける前の自分の考え等を書く
→たとえば環境認識の発達がテーマのときには、1歳、3歳、5歳の絵を想像して描く課題を出します。


2)講義の理解と思考・発展

①マイクを回して質問に回答する
→たとえば環境構成の必要性を理解する授業では、保育室の写真を示してそこで生まれる遊びを一人ずつ話します。「正解はありません」「どんなちょっとしたことでもいい」を繰り返します。
②示された質問に対して全員がジェスチャーで回答する
→大きく○×を作る方が活動性は高まりますが、胸の前で小さく○か×かを出す方が安心なようです。
③あるテーマについてグループ(3~4人)で話をする
→正解がなく原則をつかむ課題や、思考を深めるなど非常に使いやすい手法です。グループでの課題は難しいものがよいようです。
④説明された概念を1分間にまとめ2人組で話し、その後一人が全員の前で発表する
→斉藤孝さんの授業の真似です。定義化がすんでいるもの、指針や要領の内容など必ず理解する必要があることに用います。重要な概念の場合には、相手を変えて二回、三回話をした後にじゃんけん大会で発表します。理論の講義は学生を睡眠へいざないますが、1分で話すことを予告しておくと眠れなくなるようです。
⑤読んでまとめる
→テキストの一章分を読んでくるように課題を出しておき、一章分を20分間でA4一枚にまとめます。その章に含まれる重要な概念をコメントシートに10分でまとめることもあります。保育内容科目では、保育所保育指針や幼稚園教育要領のねらいと内容を書き写し、内容に関連するイラストを必ず入れる課題を出します。
⑥概念を補足する子どもの姿(写真)をノートに絵で描いて写す
→乳児の手指操作や身体の発達などを理解するときに使います。机間を回りながら「手首はどんな動きになってる?」とコメントするなど、一人ひとりがポイントを見取っているかを確認します。
⑦子どもの行動や表情、言葉の真似をする
→乳幼児の発達や心の理解が深まります。体のどの部分が緊張しているのか、どんな気持ちなのかを感じ取ることができます。
⑧概念は、声を出し体を使って覚える
→1年で学習した内容を3年では忘れていることに悩み開発した手法です。発達の原則など生涯忘れてほしくない理論は、声を出し振りをつけて覚えます。身体を使った豊かな表現は保育者に必要ですし。ただ真面目キャラの私にはちょっとつらいです。
⑨数人で今日のノートを見せ合う、相手のノートに肯定的なコメントを書き入れる、グループでお勧めノートを一冊選び発表するなど
→コメント力は保育で日常的に使います。否定的なコメント例を出して肯定的に変えることをしておくと「肯定的」がわかりやすいようです。
⑩ワークシートを個人で行い、二人組あるいはグループで話し合う
→指針や要領の理解や構造をつかむなど知識の学習に使います。正解がなく、意見が異なる内容に使用することもあります。
⑪テーマに沿って開発したアクティビティに取り組む
→環境構成の基準を知るカード、机上ゲームで学習する内容に気づくなど開発しました。オリジナルのアクティビティは「教育内容に詳しい」と作成しやすいそうです。
⑫ロールプレイを行う
→保育者と子ども、親と子の関係など、子どもの気持ちを理解するために使います。
⑬模擬保育を行う

→遊びの援助の原則を理解するときには、グループに分かれて年齢別ごっこ遊びなどを実際に行います。

3)終結・学習成果の確認(ここは一人で作成することが原則。課題にする場合もあります)

①講義内の重要な概念をコメントペーパーに説明し提出する
→最後の15分ほどを使います。課題を出した後は机間を回り学生が質問しやすいようにします。
②学んだ概念を中学生や後輩に説明する内容を書き提出。書き出しは「あのね○○さん」と口語体で書く
→論文が上手でも、この課題が苦手な学生もいます。相手に合わせた言葉遣いができるかがポイントです。
③学習内容を、キャッチコピー・詩・イラスト・図で表現し提出する
→文章が苦手な学生は、表現方法を変えると優れた成果を出す場合があります。どこかで多重能力理論の説明をし、課題の意味を伝えておきます。
④学習内容をふまえた事例への対応を考え提出する
→その際、具体的な事例が載る本を、参考資料として紹介することもあります。参考資料はできるだけ実物を教室へもっていきます。
⑤学習内容を保護者向けの通信の形にまとめて提出する
→イラストや本の著作権、職員会議の資料と保護者向け通信で使用する言葉の違いは事前に説明します。
⑥学習内容に関連する保護者の相談事例を提示し回答を書き提出する
→たとえば自我の発達を学んだ後に、子どものイヤイヤに困る保護者の相談事例を出します。
⑦学習内容の中で、重要な概念を問うテストを作成し提出する
→よく内容を理解していないとできない課題です。深く思考する課題を出すと、力を持て余している学生は喜んで課題に専念し、考えることに不慣れな学生は怒り始めることもあります。


参加型の学習は成果物があるため、教員が授業のために使う時間は増えますが、学生の表現力やコミュニケーション力の向上、知識の定着などが目に見えるためとてもやりがいがあります。一人の学生は、これから何十人、何百人の子どもと保護者に影響を与えます。日本中に保育の根幹を理解した学生が増えていくとうれしいですね。まだ今は参加型、活動性が高い学習のレベルですが、主体的な学習のための教材開発と学習環境整備を進めて、協同的な学習へとつなげていくことが目標です。私の場合人間が浅いから内容と手法でカバーです。新人教員がんばります!