万全な感染症防止対策2020/05/05

非常事態宣言が継続になりました。
小学校・幼稚園は休校・休園が続きますが、
保育園と認定こども園は、市区町村と園により対応が異なります。

保育園は、乳児院や児童養護施設と同じ「児童福祉施設」です。
幼稚園とは違い、児童福祉施設は「感染防止のため閉園します」と簡単に言えません。
保育園や乳児院は、「大きな家庭」ですから、三密は避けられない場です。
しかし、虐待や保護者の疾患等どうしても家庭での養育が不可能な
高い福祉ニーズをもつ家庭
には応えなくてはなりません。
保育園と認定こども園は、福祉と教育の機能を果たす場であり、保育士は福祉と教育の専門職です。
しかし今の園では多様な家庭が利用しているため、保育者の気持ちは実に複雑だと思います。

開園継続に関して、首長が市区町村長あてに出した通知を読んでいると、
「保育等の提供にあたっては感染症防止に万全の対策をとること」という一文を見つけました。
きっと市区町村も、保育園宛の文書に「万全の対策をとること」と書くでしょう。
行政としては、「万全の対策」と書かざるを得ないことは理解できます。
しかしそれでは万全の対策をしなさいと指導したのにしない園が悪いことになります。

大きな家庭である保育園で、感染症防止に少しも手落ちのない万全な対策をした保育はできるものでしょうか。
2メートル以上離したベビーベッドに一人ずつ子どもを入れて防護服に手袋で食事と排せつ介助だけをする?
ホスピタリズムの説明に出てくる乳児院のように、子どもを抱かない、話さない?
子どもにマスクを強制着用?ずっと子どもたちのなめたところ、さわったところを消毒し続ける?
おしゃべり、うたうこと、叫ぶことを子どもに禁止する?汗をかかないようにじっとさせる?
何晩も考えてみましたが教育虐待のような保育ばかりが浮かび「万全な対策をした保育」が想像できませんでした。

保育の安全研究・教育センターの掛札逸美博士は、
空気/飛沫感染の場合、感染(ウイルスを体内に入り、定着)の完全な予防は不可能。
感染機会の低下は手洗い、マスク使用や人込みを避けることで可能であり、結果、蔓延(感染拡大)は防げる」と
説明しています。

保育園・認定こども園は、密だらけです。
保育では、子どもたちの汗や鼻水、よだれを拭き、
着替えや排せつの援助と、排せつ物の処理をし、
複数の子どもの肌にふれ、子どもを抱きしめ、
子どものそばで会話をする、密であることが不可欠な仕事です。
密でなければ、子どもは健やかに育ちません。

そのうえ狭い場所で大勢の子どもが生活する、家庭より密集した空間です。
世界でも最低の人員配置と不適切なクラス規模で頑張っているのが日本の保育者たちです。
ここに、完璧な感染防止という不可能な仕事を求められたら、
まじめな保育者は追いつめられてしまうでしょう。

子どもは感染しても症状が出ないことがあると言われています。
大勢の子どもたちと毎日濃厚接触すれば感染の可能性は高まります。
そして保育士が感染したら「〇〇園の〇十代の女性保育士が感染」と言われてしまうのです。
ニュースを見るたびに、想像力がある保育者は恐怖を感じると思います。
それでも、「うちは預かってくれない」と保護者の苦情を受けるのが保育園です。

福祉の基本は、利用者主体、自己決定です。
保育者は保護者に情報を詳細に伝え、行動は保護者が決定します。
「私たちは万全の感染対策を行います」と不可能なことを保護者に約束しないことです。
保護者を信じて、園ができること、できないことを伝えるのはどうでしょうか。

保護者に「感染防止のために園で行っていること」を具体的に示したうえで、
「空気(飛沫)感染であるため、完全な感染防止対策はできない」こと。
「感染リスクのある場で働く保護者も多いため、通園により感染機会は高まる」こと。
「かぜ症状があっても登園している子どもと、薬で熱を下げて登園している子どもがいる」こと。
「無症状であっても感染している子どもがいる可能性はある」こと。
「症状のある保育者は休んでいるが、無症状でも感染の可能性はあり、感染の可能性をゼロにはできない」こと。
「小学生がいる保育者と体調不良で休んでいる保育者がいて人手不足である」ことなど、
正確な情報をお伝えしたうえで、
保護者に登園するかどうかを判断していただくのが福祉の基本になると思います。
具体的な保護者への伝え方は、掛札先生のページやFBが参考になります。

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まったく体験したことがないこの初めての状況のなかで、
震災のときもそうでしたが、子どもと保護者と保育者を守るために行動する施設長たちがいます。
今後のために、ここに書いていこうと思います。

正確な情報収集と協議
・他地域の園から情報収集を行う。
・地域の園長同士で電話で市町村への働きかけを協議する。
・「保育の安全研究・教育センター」等、ネットでの情報を収集する。
・保育団体として協議し、働きかけを行う。

市区町村に対して
・担当課の職員、議員、市長に、対策の検討や激務に対する感謝を伝える。
・学校が休校となっている市町村では、行政担当者、市長、議員等に、「保育園は原則休園、必要な人には保育を行う」という決定を働きかける。
・市長に、市民へ休校要請の際に、登園自粛、企業への子育て世帯への配慮を促すことを入れていただくように働きかける。
・市長・議員・担当課へ、保育園は感染リスクが高い場であり開園は感染機会を増やすこと。保育者は感染リスクのある場で看護師や医師のような防護もできない状態で保育を行うことを現場の責任者として伝える。出勤職員への危険手当を要望する。
・行政担当課へ、保護者へ出す「登園自粛のお願い文書」、「保育を必要とする方の申請書」の文案を提案する。
・市長・議員へ、マスク・手袋・消毒用品等の園への確保を依頼する。
・行政職員から理不尽な内容の指導があった場合は、「〇〇さん、録音しますのでもう一度今の指示をおっしゃってください」「私は現場の責任者として、この件は〇〇するべきだと申し上げました。問題が起きた場合には市からの指導であることを公表いたします」と優しくていねいにお伝えして内容を録音する。また文書で指導内容を送ってもらう(区長の指示か、課での決定か、個人からか通知者をはっきりさせる)

保護者に対して
・「保育の安全研究・教育センター」の保護者向け掲示や通信を参考に、文面を検討して出す。
・市区町村からの通知とは別に、園長からの文書を出す。園は大きな家庭なので三密は避けることができません。保護者は皆、感染リスクのある場で懸命に働いているため感染の可能性をゼロにすることはできません、と正確な情報を書いて保護者に選択していただく。
・保護者にかぜ症状のある保育者を休ませていること。職員が不安から退職したことなどを正直に伝える。
・家庭協力をしてくださる保護者への感謝を伝える。
・家庭に一軒ずつ、園長、主任、看護師が電話する。
・保護者には、園に来る際にはマスク着用を依頼する。
・感染防止のために、送迎は門で行う。
・定例の保護者の仕事を簡略化する。
・連絡ノート、お便り等の紙類を避け、SNSで情報をやりとりする。
・地域の人から「公園で遊ばせないでほしい」等の地域の苦情電話や、散歩をしていると「まあこんなときに」と聞えよがしに言われている状況は、保護者にも共有する。
・祖父母、地域の人に、保育士のマスク不足、消毒薬不足の窮状を伝える。
・できるだけ園長・主任が朝夕門に立ち、保護者と対話する。
・子どもと接する担任保育士は、感染防止のために保護者とは挨拶のみでできるだけ話をしないように促す。
・心の相談窓口、経済的な困窮の相談窓口、ひとり親家庭への貸付金制度など、保護者に必要な情報をSNSで随時送る。
・休園中は弁当の持参を依頼する。

保育者に対して
・職員全員で対応について検討し、すること、できることをブレーンストーミングで貼り出す。
・感染防止の行動についてチェックリストで改めて確認する。
・各クラスに保育者が使用する使い捨て手袋を配置、必要な場面でどんどん使用できるようにする。
・休校中の小学生の子どもがいる保育者、職員は休ませる。
・出勤する保育者にはねぎらいと感謝の言葉を伝える。
・柔軟にクラスをつくり、交代制勤務にし、職員は自宅研修期間とする。
・自宅研修や園で、マスクを作成する。
・発熱や体調不良は隠さず、休むように伝える。

ある園長が「保育者には自己犠牲を払いなさいとは言えない」とおっしゃっていました。
私も同感です。使命感、責任感の強い先生方、どうかつぶれないで、自分も守ってください。

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