保育所の機能を縮小化させない仕組み2011/12/29

柏女霊峰先生の『子ども家庭福祉・保育の幕開け: 緊急提言 平成期の改革はどうあるべきか』(誠信書房)を読了しました。柏女先生は常に高所から子ども家庭福祉政策について提言を続けていらっしゃいます。幼稚園保育所の一体化が議論されるなか、本書は、「子ども家庭福祉機能の分断」という重要な課題を提起しています。

柏女霊峰先生の緊急提言



たまたま同時期に読んでいた山野良一氏による「子どもの最貧国・日本」(光文社新書)も、ソーシャルワーカーの視点から見た日本の子ども政策の課題を、現場から描き出した本でした。

子ども子育て新システムの中間報告では、すべての3歳以上児に「学校教育」を提供し、保育士を保育教諭にという案が提起されています。一体化では、保育所に「幼児教育機能」を入れる(元々入っているにもかかわらず)という議論が中心で、保育所の「子ども家庭福祉機能」を、どのように総合施設に組み込むのか、あるいは幼稚園に拡大するかが不足しているようにみえます。幼児教育という船の上に、子ども家庭福祉を載せることができるのだろうか・・・。これらの本を読みながらすっかり考えこんでしまいました。(このブログの下書きを書いてひと月以上・・・)

これまで、保育所が果たしてきた福祉機能は、保護者の就労支援だけではありませんでした。保育所は、幼稚園よりも福祉ニーズの高い家庭の子どもを多く預かり、障がいのある子どもの割合も幼稚園より高いにもかかわらず、幼稚園と遜色のない学力のある子どもを輩出してきました。これは保育所が子ども家庭福祉の機能を発揮して、保護者の支援と、生活と遊びを通した教育によって、子どもの生活全体を守った保育所の努力の証といえます。

ここ数年、保育士研修や養成で、格差拡大を続ける日本の状況から、「保育士は福祉の専門職であるという自覚をもち、苦しい状況にある保護者を支援し、保育の専門性を発揮して貧困の連鎖を保育で断ち切ろう」、と訴えてきました。しかし総合施設になった後でも、私はそう訴えることができるのか、保育士は「福祉の専門職」であり続けられるのか。総合施設の根底に「児童福祉法」をおいても、総合施設の保育者が「幼児教育者」と意識するようになれば、子ども家庭福祉に関する本は、手にしなくなるのかもしれません・・・。

一体化は、保育士にも研修時間を確保し、保育士の職務を軽減する上では望ましい部分があります。しかし、3歳以上児の保育を、「学校教育時間」+「預かり保育」という考え方で行う市町村がある場合には、保育士の意識の部分から子どもと保護者に対する考え方が変わっていくでしょう。
将来、幼保の一体化と市場化により、子どもの格差が拡大し、子ども家庭政策が後退したと言われないようにしなければなりません。総合施設では、これまで保育所が担ってきた福祉機能をどのように補完していくのか、福祉と教育の機能を一体化するにはどのような仕組みを組み込むのか、ていねいに考える必要がありそうです。

思考メモ 福祉機能を守るには・・・
〇総合施設は、学校教育時間に対する考え方をいくつか提示する。
〇学校教育時間の捉え方については多様性を重視することを明示する。
〇総合施設には相談員を配置。社会福祉士資格をもった保育士、あるいは社会福祉士等を配置。
〇総合施設職員(幼稚園教諭)への子ども家庭福祉研修を実施。
〇総合施設の目的と理念に子どもと家庭の福祉を明示化する。
〇子ども家庭省創設の前に、「児童福祉法」を抜本的に改正し、子ども家庭政策の理念と方向性を明確にする。
〇教育と福祉を兼ねあう人の養成の仕組みを先に構築する。

コメント

_ 辻 陽子 ― 2011/12/29 21:31

年末押し迫って、メールにて失礼申し上げます。私は岡山市内で17年間、小規模の認可外保育施設を運営しています辻と申します。先生のブログに出会い、いつも拝見させて頂いています。
テレビや知育に追われることなく、時がたつのも忘れるくらいこどもがのびのび自然の中であそぶ
、こどもがこどもでいられる時間のどれほど少ないことか。この国の保育の貧しさをどれほどの人が認識しているのかとの思いと日々葛藤しています。そんな中、先生のブログがとても励みになります。小さな保育園の一保育士ですが、ほんの少しでも未来を担うこどもの幸せをを願い勉強させていただいています。
これからも宜しくお願い致します。

_ 高山静子 ― 2011/12/31 09:21

辻陽子先生、コメントをありがとうございます。真摯で誠実なコメントに身が引きしまる思いです。
私の仕事は、現場の先生方の実践を言葉にし、理論化して、共有できる形にすることだと考えています。そのために大学の教員になりました。

このブログの多くの内容も、保育者の皆さんの「実践知」です。
保育者こそが、保育の専門家。
先生方は「実践知」「経験知」を膨大にお持ちです。言葉にする暇がないだけです。
研究者の理論や本は、保育の専門家として、使えるところだけうまく活用してくださいね。

先生方のお仕事には無駄がありません。子どもとともにいて笑い、涙を流し、心と体をつかっていらっしゃることがどんなに尊いことか。先生方のご苦労は、すべて一人ひとりの子どものなかに残っていきます。

これからも先生方の実践を、本やブログでお伝えしていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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