便利な保育園が奪う本当はもっと大切なもの2013/05/19


長田安司 「便利な」保育園が奪う本当はもっと大切なもの 幻冬舎 2013年1月
 読まなくてはと思っていた本を、思いがけずいただきました。

この本のタイトルは、保育者が日頃感じている不安を、ズバリ現わしています。
私自身も、保育者として感じてきましたし、「長時間保育や病児保育が本当に親のためになるのか」という疑問は、多くの保育者が感じていることでしょう。親の労働支援と、子どもの健やかな育ちや保護者の幸せとの狭間で、良識ある保育者たちは心を痛めています。

長田先生は、
●三歳児神話は神話ではない。
●母親が働くと出生率が上がるのはまやかしである。
●保育に競争原理が導入されると、保育の質の格差が広がる。
●待機児を解消しても少子化は止まらない。
等の論拠を示しながら待機児童解消政策に真っ向から議論を挑みます。

そして、
○待機児童対策よりも子育てひろばの充実を。
○保育園は子どもの成長・発達を保障する場にしよう。
○親が子育ての喜びや幸せを感じ親の役割の大切さを学んでいく場にしよう。
という提案がなされます。

後半では園長の役割と実践が、具体的に説明されています。

「保育園が真の役割を果たすことができるようになれば、日本の社会は、これから遭遇する絶望的な混乱から救われる(「はじめに」より)というメッセージ、確かに伝わってきました。
本書は振れ過ぎた保育政策を揺り戻すきっかけとなりそうです。
ぜひ全国の園長先生に読んでいただきたいと思いました。


長田先生が提案されている、保育園が「親が子育ての喜びや幸せを感じ親の役割の大切さを学んでいく場」になるためには、長田先生も指摘されているように、保育者が、「子育て支援」という言葉を用いる際には、「親の子育ての支援」と、「親の就労支援」の区別を意識して使うことが必要だと思います。

長時間保育や病後児保育、駅前保育は、親の就労支援であり親の子育ての支援にはなりません。
子育て広場を拡げてきた「地域ぐるみの子育てをすすめるひだまりの会」では、「男性も女性も、親が子どもと関わることによって得られる喜びや人間的成長を支援すること」を「子育て支援」と呼び、母親の自己実現支援は、他のやりたい団体に任せましょうと言ってきました。
男性が仕事で自己実現しても「子育て支援」とは言われないのに、女性が子どもから離れて仕事や自己充実を図ることは、「子育て支援」と呼ばれます。(そんなのおかしいし)


ただ、子どもが家庭で育てば、自然に親子の関わりが生まれ子どもが健やかに育つというのは、日本では現実的ではありません。家庭で育つことで、テレビベビーシッターに子守をされ、一日に一回も外へ遊びに行かず(犬でも一日に一回は散歩に連れて行ってもらえるのですが)、3歳までに不可欠な親子の関係と運動や遊びを経験できないまま入園する子どもが増えてしまう可能性もあります。また、子どもをのびのびと遊ばせたいと思っても、マンションの室内では子どもが走るだけで苦情を受け、公園もなく安心して歩かせる場所はショッピングセンターしかないという地域もあります。

012歳の子どもの健やかな育ちを保障するには、子育てひろばの推進と同時に、子どもが育つ環境としての地域(ハード)の作り直し、保健政策として乳幼児期の愛着形成と遊びや運動の確保の推進を進めていくことが必要です。表面的なニーズに振り回されずに真のニーズを把握することは、保育でも施策決定でも同じかもしれません。志の篤い行政職員の皆さんを応援しています。。。私には何ができるのだろうか。


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