何も飾らないのはだめですか?2015/06/10

ブログへのコメントで多い質問に、「壁に、何を飾ればいいでしょうか?」があります。
「何も飾らなくてもいいと思います」とお答えしては、申し訳ないでしょうか。

保育者の残業や持ち帰り仕事のNo1と言われる「壁面飾りの製作」。
年度末や、毎月、書類が最も忙しい時期に、色画用紙で飾りをつくったり、季節の飾りを手作りするために残業したり…。
4、5歳の子どもたちと製作するものを話し合って時間をかけて製作して展示している園もあると思います。また、創造的で芸術的な季節飾りを作ることが大好きで、それが楽しみという保育者が、その力を発揮することは素晴らしいことだと思います。でも、壁面のために日本中の保育者が(何をつくろう)と頭を悩ませ、保育雑誌の真似をしたり、壁に何かを飾らないといけないから、そのための製作を考えるのは、もったいない気がします。

計画も記録も書く書類の量が増えました。支援が必要な子どもも対応が必要な保護者も増えています。保護者へ保育内容を伝達するために時間をかけている園もあるでしょう。顔から転ぶ子どもも、3歳でオムツをつけている子どもも増えています。人的配置は昔のままで保育者の仕事量は増える一方です。壁面の飾りはなしにして、代わりに本物の季節飾りや草花を置くだけではダメでしょうか。


自然物をそのまま飾りにしている園(ときわ保育園)。野菜を保育室に置いている園もありますね。


ねこじゃらしで子どもたちが作ったうさぎ。(こまつ保育園)

以前、新卒の先生が学校で学んだ通りにかわいい壁面を作って貼っていると、指導担当の幼稚園の先生から「何のためにこれを貼っているのか?」と説明を求められ、時間をかけて作った壁面をはがしたという話を聞きました。そのクラスでは発達障がいの子どもがいて、ほかにも視覚刺激に弱く集中できない子どもが多いのに、原色を壁一面に貼ることの問題点を指摘されたそうです。
親御さんから、「いつも近所の支援センターに相談したくて行くのですが、先生たちはいつも事務室で色画用紙を切っています。あの飾りってどうしても作らないといけないものなのですか」と真顔で聞かれ、答えに困ったこともありました。
子どもの遊びや生活に壁面飾りが必要不可欠で、壁面飾りがあると子どもたちの発想が豊かになるとか、飾りを真似して子どもが作るとか、何か根拠があればいいと思います。でも、子どもの遊びや生活にそれほど影響がないとすれば、無理につくる必要はないのかもしれません。

4,5歳児で協同的で継続的な活動をしている園では、保育者の壁面製作を見ることがほとんどありません。4,5歳児クラスの子どもたちは、今の関心事で何週間も遊びます。保育空間は子どもたちのイメージで、海の中や家になるので、壁には、その遊びに関連するものが貼られています。そういう園では、子どもたちが何かつくりたいと思った時に作ることができるように、子どもたちの手の届くところに素材が道具が準備され、子どもたちが作ったものが保育室に置かれています。


子どもの作品が飾られた造形表現室(ながかみ保育園)

壁に何も貼らないと、最初はさびしいと感じるかもしれません。でも保育室は子どもがいないときにはさびしいぐらいの方が、子どもがイメージを広げやすい空間です。子どもたちがその部屋に加わり、動き回り、遊びを広げることでイキイキする、子どもが加わって空間は完成すると考えてみてはどうでしょうか。

保育者の貴重な時間は、子どもたちのために使いたいものです。

子どもの権利条約を保育にいかす2015/06/22

P研(保育の専門性研究会)のメーリングリストで、喜多明人先生が、「子どもの権利~次世代につなぐ」を出版されたことを知りました。それでふと日本が条約を批准したときに、子どもの権利条約をテーマにブレーンストーミングをしたことを思い出しました。パソコンに検索をかけると、ありました。仲間たちと、「保育士として子どもの権利を尊重するってどんなことだろう」と、項目を出し合ったものです。
読み直してみると、現場のときにしか浮かばない項目が多くありました。今だと違う項目も浮かびますが、若かりし頃(いえ決して若くはありませんでしたが)に、現場の人間として考えたことが何か皆さんのヒントになるかもしれまないと思い載せてみます。

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子どもの権利条約を保育にいかす~子どもを一人の人間として尊重するって具体的にどんなこと?

 

食事など生活場面で

 □無理矢理食べ物を口にいれない。 

 □子どものペースを無視して離乳食を口に詰め込んだりしない。

 □泣いている間に口に食べ物を入れない。 

 □赤ちゃんを抱くときや、触る前には「おしりをきれいにしようね」と理由を話す。 

 □赤ちゃんの口をふくときに、口をふさぐようにではなく、口のまわりをふく。 

 □おむつは、ぬれたら替える。

 □子どもが選択できるようになったものに関しては、選択させている。

 □子どもができなくて困っていることに関しては方法を具体的にていねいに教えている。

 □洋服は、子どもが動きやすく着替えやすい服を選択している。 

 □抱っこするときには、話してから抱く。 

 □体に乱暴にふれない。肩や腕はつかまないようにしている。 

 □大人の動作には言葉をつける「さあ、片づけるわね」など。 

 □服を着せるときには、本人が着るのを介助するように意識している。 

 □赤ちゃんを抱き上げるときは正面から。後ろや横から抱きあげない。 

 

遊びの場面で

 □子どもが十分に体を動かして遊べる場を用意している。

 □子どもが自発的に自分で選択して遊べる遊びの時間を、十分につくっている。

 □大人の都合で抱っこしない。気分を立て直して、遊べるように援助して降ろすようにしている。

 □指さしで、赤ちゃんが訴えているときには「わんわんがいたね」など答えている。 

 □ひとり遊びをしているときには、あやさないようにしている。

 □遊んでいるときには横や前を横切らないようにしている。

 □遊んでいるときに大声を出してじゃまをしないようにしている。 

 □子どもが遊んでいるときに、「これをして遊びなさい」と遊びを指示しない。 

 □子どもが探索の主導者と思い、大人は探索につきあうようにしている。 

 □泣く子に対して「もううるさい」とか「この子よく泣くよね」と言わない。

 □子どもに芸をさせない。ものまね、はやりことばなど。

 □こわい人形でおどしたり、こわがる言葉でおどしたりしない。 

 □おもちゃを出すときに、箱をひっくりかえして出したりしない。 

 □一人用の散歩ロープは使わない。

 □水遊びのときにいやがる子どもに水をかけたりしない。 

 □子どもの未熟さによることばや動作を、何度もさせて笑ったり、からかったりしない。

 □子どもの遊びをしらけてながめたり、からかったりしない。

 □子どもが休息が必要なときに、休息がとれる場所があり、それが許される。

 

基本的なこと

 □赤ちゃんであっても、意志と感情をもった一人の人間であると感じている。

 □赤ちゃんであっても、一人の人間として尊重しようと思っている。 

 □赤ちゃんの前で、その子どものことを言わない。

 □子どもの前で、親のことを言わない。

 □たたく、押す、閉じこめるなどの体罰は使わない。 

 □子どもの目線にあわせて話をする。

 □子どもと目をあわせてから話をする。

 □子どもが理解できるように、年齢に応じた短くわかりやすい言葉を選んで話しかけている。

 □いきなりひっぱったりしないようにしている。

 □子どもを叱るときにはなぜいけないのか、わかりやすく話す。

 □親のことや、家庭のことなどを興味本位で、子どもに聞き出したりしない。





遊びの素材を選ぶ2015/06/29

「放っておいても子は育つ」と言われた頃、家の周りには、草や土といった遊びの素材がありました。しかし今多くの地域はコンクリート。子どもが、草や土のような応答性が高く想像力を付け加えることができる素材と出合う機会は減っています。長時間保育、1,2歳児の保育需要の増加、人的配置の厳しさからも、保育室内に草や土のような遊びの素材を準備する必要性が増しています。

しかし市販の玩具は何百種類とあります。そこから子ども自身が遊びを作りだすことができるものや、乳幼児の細やかな発達に合ったものを選ぶことは至難の技です。

領域「保育内容環境」には、「物の性質を理解する」ことが含まれています。そこで授業では一回分を使って様々な種類の積み木やブロックと、それらの物によって生じる遊びの違いを考察する演習を入れています。ブロックや積み木は、幼稚園や保育園で、子どもたちが室内で最も日常的に使う玩具でもあります。

たとえば、複雑な形と人工的な色彩をもつプラスチックのブロックでは、どのようなものをつくりやすく、どんな遊びが生じやすいか?


シンプルな形と色のカプラでは、どのようなものをつくりやすく、どんな遊びが生じやすいか?
子どもは、そこで何を経験し、何を学習しているのか。

あれかこれかではなく、どんな子ども、どんな園、どんな状況のときに適しているかまで考えられればと思いますが、私の力不足で、そこまではいきません。

他にも、基尺の揃った和久積木と、基尺がバラバラの積木、フレーベル積木、シュタイナーの積木、文字が書かれた積木、レゴブロック、井形のブロックなど、様々な種類の素材を出して、その違いを体感する機会を作ります。
本当は反転授業(授業以外の時間で素材を使った遊びを体験・リポートして授業にもち合い話し合う)にしたいのですが、まだ日常的に、これらの素材を触る場がないため、今は授業内での体験が優先です。


一人当たりの量を少量にして「創造的な作品」をつくる課題を出すと、学生から「足りない」と言われます。幼児は「もう少し量が多ければいいのに」なんて言いませんが・・・。



ゼミで、基尺が合わない大型積木同士を組み合わせて何かを作る課題を出したときには、学生たちは「作りにくい!」と途中で怒り始めました。(幼児は「基尺が合っていないから作りにくい」なんて訴えませんが・・・)。
また、ふわふわの柔らかい大型積木を見つけると、学生たちがよく始めるのが投げ合いです。どうも年齢は関係がなく、素材自体に行動を引き出す要因があるようです。

素材選びの目を育む授業を研究中です。