ままごとと、ごっこ遊び ― 2025/10/05
幼児のおもちゃとして誰もが思い浮かべるのは、ままごと、ブロック、パズル、電車。
これらは、保育士資格や幼稚園教諭免許がなくても、誰もが知っているおもちゃです。
専門家がつくる保育室が、ままごと、ブロック、パズルコーナーでは残念ですよね。
保育者が心理学で学ぶのは、「ままごと」ではなく、「ごっこ遊び(虚構遊び・想像遊び)」です。
子どもの想像遊びは、一人での見立て・つもりから、平行遊びへ、そしてイメージを共有するごっこ遊びへと変化していきます。ごっこ遊びには、「ままごと」といわれるお家ごっこの他に、お店やさんごっこなど仕事のごっこ遊び、絵本等の物語のごっこ遊び、お祭りや運動会など印象的な出来事のごっこ遊び等があります。

ごっこ遊びの共通イメージには、子どもたちが地域でよく行くお店での経験、地域のお祭りなど印象的な体験、園で繰り返し読む共通の絵本、消防署見学などの園での共通体験があります。保育者は、それらの子どものイメージから、そのごっこ遊びのきっかけとなるシンボルを準備したり、子どもがシンボルを作れるように素材を準備したりして、遊びの広がりを助けています。
4,5歳児クラスでままごと用品しかないのはちょっと残念。
お皿とスプーンとプラスチックの食材しかない、人形もいないとなると、「どうぞ~」「いただきます」のやりとりばかりになります。木製の小さなお鍋やフライパンでは、お料理も作れません。
しかし残念ながら保育カタログには、遊びが広がりにくい玩具が掲載されていることも多いのです。

料理を作れず遊びが限られる保育用玩具

料理を作れない、料理を盛れない保育用玩具
以前ゼミで、上記の写真のような野菜やパンの玩具と、小さな木製ままごと用品を並べて、「これでできるだけ豊かに遊ぶ」という課題を出したら、学生たちは、「むずっ!!」と怒っていました・・・。(玩具が残念でも新聞紙や広告紙でバッグや財布をつくる、新聞紙の帽子をかぶり新聞紙を敷いたり、イスを使ってパン屋や八百屋になる、お店の看板や値札をつくる、スーパーのレジになる、実物カルタ遊びなど、できることもあります)
ごっこ遊びの環境を充実させるには、まず子どもと一緒に遊んでみましょう。
お家ごっこも、一緒に遊びに入ることで、お料理の具材がほしい、テーブルが狭い、人形を寝かせる場所がほしい、車に見立てられるものがほしいなどいろいろと発見があると思います。
保育は人間の能力をはるかに超えている!? ― 2025/10/13
看護師を対象とした研究では、仕事の達成感が低い(看護ができていないと感じている)人ほど「辞めたい」と考えている率が高くなる結果がありました。保育も退職者を減らすには、保育者が有能感を感じられることが大切でしょう。
しかし、子どもを大切に考えてよく学び、メタ認知(客観的に見る力)が高く、質の高い保育を行っている保育者ほど有能感や達成感を感じにくのが、保育という仕事ではないでしょうか。
保育は、乳幼児期という病気やけがをしやすい時期の子どもの命を守る仕事です。乳幼児期は、保護者がたった一人の我が子でさえ子育てが難しいと感じる時期です。保育者はその難しい時期の子どもを集団で保育します。幼児教育は、小学校の生活科や総合学習のような複雑な展開方法を用います。保育所と認定こども園(連携型・保育所型)の保育者は、教育機能に加えて食事と午睡も行い、保育時間も長時間のため長時間の緊張が続きます。また福祉ニーズも加わるためより高い専門性が必要になります。

高山静子「子育て支援の環境づくり」2018 P98 幅広く高度な専門性を求められる保育者
上記のイラストの下書きを書いたのが2016年、その後障害・貧困・外国籍・メディア漬けの子どもと保護者は増加し、保育者の職務は困難を増しています。

高山静子 ここ最近の研修資料より
保育者は”人間をはるかに超えた能力”を求められています。
「一人の子どもと関わりながらも全員に注意を配りなさい」・・・人間にはそんな能力はありません。
「子どもにずっと注意を向け続けて安全を見守りなさい」・・・人間にはそんな注意の持続力はありません。
「集団の子どもたちを相手にしながら一人ひとりを受け止めなさい」・・・無理です。
「一人ひとりの子どもをよく理解しましょう」・・・人が他者を理解することは困難を極めます。
「子どもにずっと注意を向け続けて安全を見守りなさい」・・・人間にはそんな注意の持続力はありません。
「集団の子どもたちを相手にしながら一人ひとりを受け止めなさい」・・・無理です。
「一人ひとりの子どもをよく理解しましょう」・・・人が他者を理解することは困難を極めます。
長時間の集団保育を行ったことがない”専門家”から机上の空論を言われ、
行政からは、保育を見ずに書類ばかりの監査と指導をされ、
質の高い保育を行おうと努力を続けている園や保育者ほど、無力感を感じやすい状況があります。
保育者は、もっと自分のハードルを下げてよいのです。
今日、一人の子どもにぴったりの環境をつくれたら、「いい保育ができた」と喜びましょう。
今日、一人の子どもと上手く関わることができたら、「よかったよ」と自分をほめましょう。
100点満点の保育をめざさなくていい。30点で十分です。
保育者を、「ただ子どもを預かっているだけ」という目で見る人がいるかもしれません。
研修では、「もっと人間性を高めなさい」と言われるかもしれません。
「保育の質を高めるために文章を書きなさい」という、とんちんかんな指導があるかもしれません。
しかし保育は、個人の資質や人間性で行える職務ではありません。
保育者の職務は、専門知識を学び実践を重ねて修得する専門性で行うものです。
保育者の職務は、専門知識を学び実践を重ねて修得する専門性で行うものです。

保育者の専門性は幅が広く深い(研修資料より)
保育者自身も、保育は専門性の修得が必要な難しい職務だと自覚していないと、
「上手くできないのは、自分が保育者に向かないからだ」と誤解してしまいかねません。
高い専門性をもち何十年も経験があるベテランでも、子どもは一人ひとり違い、子どもの家庭環境も変わるため、日々悩むのが保育という職務です。
書店には「人間関係」に関する本が並んでいます。それだけ人は人に悩んでいます。
小さな子どもたちを一人の人間として大切に考える保育者ほど、悩みが生じるのではないでしょうか。
「上手くできない」と感じているあなたは、よく頑張っています。
毎日、子どもたちに笑顔を向けているだけで、あなたは素晴らしい保育者です。
幼児クラスの遊びの素材と道具選び ― 2025/10/20
遊びが幼児教育になるためには、遊びの素材と道具選びが肝。
子どもが遊びを広げる素材には、砂や草花等の自然物、玩具(市販・手作り)、紙などの人工的な素材、廃材等があります。素材に働きかけるための道具には、玩具、生活用品、用具・工具等があります。(「改訂環境構成の理論と実践」p58)
しかし、保育カタログから、子どもが遊びを広げることができる玩具を選ぶことは至難の業です。
そこで、保育室の環境を充実させる具体的な方法を提案します。
まず準備するのはこの本です。同僚と一緒に検討できるとよいですね。
高山静子「学びを支える保育環境づくり」小学館、2017

(準備 第2章の「保育環境で保育が変わる」は環境構成の基礎知識ですので、各自で読んでおきます。
基礎が分かっている場合にはここは省略でかまいません)。
1 第1章の「保育環境最前線」の写真と見出しをざっと見ます。
2 p38のコラムを交代で声を出して読み、実践を振り返って意見を交換します。
3 第3章の「幼児期の学びを支える保育環境」を一緒に見ながら、一つひとつの項目(話し言葉、数量感覚など)の見出しと写真を見ながら自分のクラスに加えた方がよいものに付箋をつけたり、書きだしたりします。
4 第4章の「遊びを豊かにする保育環境」の見出しと写真をながめながら、クラスの子どもの遊びが豊かになるための玩具や空間づくりを考えます。
5 コラム(「遊びで自己制御を育む」等9つある)は、一つのコラムを交代で読みお互いの意見を聴き合う、幼児教育の意義を保護者に説明しやすくなります。言葉での表現力を高めるために声に出して読む、意見を話すことがポイントです。
これらを自分たちのペースで、できるときにできるだけ積み重ねてみましょう。
きっと子どもの姿が目に見えて変わってくると思います。