森を開拓した保育者たち2022/10/31

「開拓」の文字は、北海道の歴史資料館では見たことがありましたが、
生きている人で「ぼくたちが森を開拓しました」と話す人に初めて会いました。
それも保育園の保育者たちがゼロから木を伐り、下草を刈り、園庭をつくったというのですから驚きです。

開拓者たちが集まるのは、札幌市の「富丘バオバブ保育園」と「富丘ニンニン保育園」。

一度、子どもがいない森を見せていただいたのですが、実は子どもの姿が想像できませんでした。
私はたいていの園庭や保育室は子どもがいなくても姿が想像できる自信があったのですが、
この起伏の豊かな森で、ゼロから年長までが遊ぶ姿が想像がつきませんでした。
そのうえ0歳児クラスの保育者たちは、急な坂を重いカートを押しても毎日この森に遊びに来たいというのです。

それで、もう一度子どもがいる日に見学に伺いました。


0歳児クラスから年長まで、なんとも自然に混じりあって遊んでいました。
保育者は子どもをゆったりと見守り、一緒に遊んでいます。
森に響く子どもたちの声が心地がよく、いつか座り込んで子どもの姿をながめていました。

日頃、「園庭を森に」、「保育室は森のように」とお話していますが、
やはり本物にはかなわない、と実感しました。
自然の複雑さ、多様さ、勾配の高さ、腐葉土の深さ、香り、風、命の豊かさ・・・・・・、
この森の豊かさを、認可保育園で日常的に享受できる子どもたちは、いや~幸せですね。

この森の開拓は、男性保育者が中心に行ったそうです。
この園は、男性保育者の割合がとても高いのです。(たぶん日本一、このことは別に書きます)
森を開拓するって、どれほど大変でしょう。
こんな貴重な園庭を作ってくださった先生方に感謝しかありません。
森を開拓してくださった先生方、見せてくださった先生方、
ほんとうにありがとうございました。

教材庫の工夫2016/09/01

最近、保育園は新設と改築のラッシュです。
新築や改築した園へ伺ったときには、
保育者の方に「どこが使いにくいですか」と尋ねるようにしています。
するとけっこう出るのが、「倉庫」なんです。
倉庫が少なすぎる、遠すぎる、物の出し入れがしにくい等々。
そのために、ロッカーの上が物置になってしまう園も。
そこで今回は、倉庫・教材庫の工夫を集めてみました。


まずは、日野の森保育園さん。右に見えるドアが保育室に作られた教材庫です。
日野の森保育園さんの実践は、「新幼児と保育」4,5月号でご紹介しました。
絵本を共有体験としたプロジェクト保育では、素材の準備が重要。
たとえば上のクラスは「ジャックと豆の木」の絵本の世界で遊んでいますが、
子どもが豆をつくりたいと言い始めてから、緑の毛糸や紙を注文するのでは遅い。
絵本を読んでいるときから、教材庫に素材や道具の準備を始めるとのことでした。
横にスライドする引き戸で、物の出し入れがしやすそうです。


次は「環境構成の理論と実践」で写真の掲載が最も多いながかみ保育園さん。
子育て支援のお部屋ですが、左右に天井までの大きな倉庫があります。
どの部屋も、こんな感じで天井までの物入れが充実しています。


こちらは、今年開園したくだま第二保育園さん。
二つの保育室から出入りできる教材庫。
広くて、棚が多く、保育者がとても使いやすそうでした。


こちらは大徳学園さん。
保育室には、こどもたちの遊びの世界が広がっていますが、
それは、棚にカーテンをかけて目隠しをしているからこそ。
先生方が工夫して遊びのイメージが広がりやすいようにしています。


優れた幼児教育の実践で私たちを驚かせてくれる和光保育園さん(千葉)も、
各保育室に様々な収納が組み込まれています。
食事の前に壁からワゴンを引き出し、そこから自分で椅子を取り出す子どもたち。


最後はときわ保育園さん。
教材庫と、教材製作の場と、保護者の空間など多機能に使用できる空間がありました。


これまで見学させていただいた園のなかで
最も教材に関する空間が多かったのは、千葉の松の実保育園さんでした。
(すみません。写真はなしです)
コダーイ教育芸術研究所が出版した本に、数多くの実践を提供していらっしゃいます。
保育者が教材をつくる空間やお茶を飲む空間など、保育者のための空間も充実していました。

保育園では、同じ保育室のなかで
遊びと午睡と食事が行われることが多いため、
どんな素材を選び、それらをどの程度保育室内に出しておくかが、
子どもと保育者の暮らしの質に直結します。
また、保育者の労働の質と量にも影響します。

そのため、保育園は幼稚園よりも、
教材庫の機能性が重要になるかもしれません。
アトリエやレストランなど、機能別空間の確保で、
暮らしの質を保障する方法もあります。

新しい「幼稚園教育要領」のたたき台には、
教師の役割に「教材研究」が示されています。
子どもがイメージを広げ、創意工夫ができ、
深い学びを促す素材と道具選び、
そして教材庫が、今後ますます重要になりそうです。

コラボレーションからはじまる園2016/05/28

チャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さんよりご案内をいただき、今年4月、足立区に開園したばかりのレイモンド花畑保育園のお披露目イベントへ出かけてきました。

道路の向かい側は、広い自然公園です。


廊下には親子のベンチ。(を意図したけれど子どもが入って遊び場になっていると設計者は嬉しそうにお話くださいました)。設計者の石田さんとチャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さんのトーク、ワクワクしました。


さっそく廊下では、芸術家たちによる作品展が行われていました。お気に入りの作品が決まっていて、お迎えに来たお母さんに抱えてもらって毎日じっくり見て帰る子どももいるそうです。


保育室は、開放的な窓の部分と、閉じた壁とのバランスが絶妙です。オープンすぎでも閉じすぎでもない空間だと、イキイキとした活動と、落ち着いた活動の両方が可能になります。窓の向こうは近隣の人が通る道路と住宅です。下の窓から適度な交流も生まれるのだとか。


保育室は、腰の高さまで木の板が貼ってあるのをよく見かけますが、あれは汚れ防止なのだそうです。家庭では床まで同じ壁紙が普通ですね。この園の設計では、あえてこのデザインにされたのだとか。子どもたちがこの空間にどんな色彩を加えていくのか、楽しみです。


名古屋のレイモンド庄中保育園は、オープンスペース的なつながりのある空間設計でしたが、こちらは、各保育室は閉じた空間、そして上の写真のような、ひろがりとつながりのある空間が多く設けられていました。プライベートゾーンとコミュニティゾーンとでも言うのでしょうか、設計では、閉じた空間と開いた空間の両方を組み込んだことが説明されました。最近、改築、新築された園では、広い廊下や縁側的な空間をよく見かけます。空間も、玩具も、汎用性が高い方が、子どもも保育者も創造性を広げることができますね。

設計者の石田さん、チャイルドコミュニケーションデザイナーの平井さん、地域の人、子ども、保育者、保護者のコラボレーションによって、建物がコミュニティとしての活動を始める、そのスタートを見せていただくことができました。ありがとうございました。

手作りのアトリエ2015/09/08

中野区の陽だまりの丘保育園さんへ行きました。園長先生には何度も研修会でお目にかかっていましたが、園へ伺うのは初めてです。職員の皆さんは、様々な園へ見学に行き、学びを重ねていらっしゃるそうです。

今回、ブログでご紹介するのは充実したアトリエです。造形表現活動のための空間を、先生方が創意工夫して作っていらっしゃいました。


様々な素材と道具を、子どもたちの手の届く位置に準備しています。



(この飾り素敵!これは高いでしょう?)と思ったら、先生の手作りだそうです。材料は和紙。素敵ですね。



先生方の雰囲気もまた素敵ですね。チームワークの良さが伝わってきます。(右から二番目が曽木園長先生)


職員の皆さんは、様々な園へ見学に行き、研修に参加しながら、創意工夫をして保育を変えていらっしゃると伺いました。質の高い学習が実践の背骨ですね。実践に、質の高い学びが加わった時に保育の質は急激に変わる。学び続ける専門職は素晴らしい!と感動して帰ってきました。

次回は、研究会のメンバーで園におじゃまさせていただく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

学びの土台となる「自律」2015/04/30

小学館「新幼児と保育」6・7月号(5月2日発売予定)の「学びの土台となる保育環境」のテーマは、「自律」です。

取材のために伺った園は、千葉県富津市にある「和光保育園」。二度目の訪問です。
取材記事では幼児の生活が詳細に写真で紹介されます。入りきれない内容と補足説明を、ここに書きますね。


取材した日は3月半ば。引っ越しの会が終わり、新しい部屋へ子どもたちが移動して3日目でした。新入園児が入ってくる前に、一足早く進級する部屋に引っ越しをして、生活になじんでから新しい園児を待つことにしていらっしゃるそうです。「まだ落ち着かない状況ですが」と言われましたが、なんのなんの。生活場面の落ち着きには驚きました。

1歳児クラスに移動したばかりの子どもたち。先生のお手伝いをしたくてたまりません。

1歳(正確には0歳児の3月)のクラスでも、子どもたちが食事の時間だとわかると、自分で椅子を運んで来たり、保育者の手伝いをしようと、それぞれの子どもが、自分なりに考えて食事をしようと準備をしていました。どの子どもも自分で椅子に座ります。何と誇り高いこの姿。この子どもたちは小学校でもレストランでも、まわりの状況を自分で判断して行動することができるだろうと、うれしくなりました。

0歳のクラスから1歳の部屋へ移って3日目の食事の様子。普通の1歳児クラスの食事場面とどこが違うでしょうか?

先生や大人に、指示をされて生活する習慣をつけている子どもは、こうはいきません。指示されるから、怒られるから行動するという心の癖がついている場合には、新しいクラスになるとひっちゃかめっちゃか、怒られない場所だと大騒ぎ、小学校へ行ったとたんに先生の話を聞かなくなります。

先生方は大きな声で指示を出しません。子どもたちが生活の主人公になるように、環境をつくり必要な援助をされていました。これは、自由放任や放縦とは違います。子どもたちの様子を大らかに見守りながら、余裕をもって保育をされる姿が素敵です。また先生方は、子どもたちの育ちに合わせて、食事の準備の方法や、集団で食べるタイミングを変えていらっしゃいました。


3歳児クラスに移動したばかりの2歳児の子どもたち。幼児クラスの詳しい生活の流れは「新幼児と保育」の記事で。


日本の学力観は、知識・技能を習得することから、知識・技能を使った「思考力・判断力・表現力」へと、変化しています。学習指導要領でも、基礎・基本を使って、「自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力」が重視されています。このような学力の土台をつくる幼児教育では、子ども自身が自律的に行動する生活と、子どもが工夫し創造できる教材や活動が大切になります。

昭和の高度成長期時代に求められた能力と、国際化し変化が激しい時代に持続可能な福祉社会をつくる能力は異なります。先生から言われるまでじっと待っている、先生から言われたことしかしない心の習慣をつけてしまうと、学童期以降は大変です。また、幼児期に、遅い子どもは悪い子(先生に叱られる子)、みんなと違うことは悪いことという価値観を獲得させることは、いじめの種を蒔くことにもなるかもしれません。

以前授業で、動画サイトにアップされた様々な保育を見て、「その保育を受けた子どもはどのような価値観を持つようになるか」、「その子どもたちに向く職業はどんなものか」を考えたことがあります。0歳からの一斉活動に一斉排せつ、自分で考え工夫すると叱られる保育内容の場合、「先生の言うとおりにしなくてはいけない」、「みんなが同じで一緒であることがいいこと」という価値観をもち、向く職業には、「ブラック企業」という声が上がりました・・・。

深い理念と経験をもつ世代と、若く心優しい世代が一緒になって、競争のパラダイムから共創のパラダイムへと保育を変えていきたいものです。

地域に開いていく保育園2015/01/07

浜松市のなごみ保育園さんが、12月17日にオープンした「Ncafe」を見せていただきました。

保育園のお隣に、子育て支援の空間として子育て支援ひろばと、カフェ、絵本とおもちゃのお店ができ、これから小規模保育事業所もオープンするのだそうです。
幼稚園の隣に玩具屋さんが並んでいたり、保育園にテナントでカフェが入ったりするのは見たことがありましたが、保育園が運営する施設としては、たぶん日本では初めてではないでしょうか。


子育て支援ひろばCIRCUSの全景。


そんな大胆な試みを実現させたのは、若き園長、志賀口大輔先生。名画が表紙のシール帳や入園した保護者に保育を説明するファイルなど、これまでもその発想の斬新さには驚かされてきましたが、今回は一段と驚きが大きい。



Ncafeの中はこんな感じ。靴を脱いで上がるカフェはとてもくつろげる空間です。







絵本とおもちゃのお店は、浜松こどものとも社さんが担当されるそうです。


子育て中ではない人が気軽に園に来ることができる仕組みを作りたかったとお話しされる志賀口園長先生。
このNcafeから、新しいつながりやかかわりが生まれていきそうです。


アトリエスタの発想2014/12/21

今年は、レッジョ・エミリアの実践で知られるオルト保育園さんの造形展へ行くことができました。

オルト保育園の実践は戸塚陽子先生の講義でお話を伺っていましたが、訪問するのは初めてです。
オルト保育園には、レッジョ・エミリア同様、芸術を専門にするアトリエスタの方がいらっしゃいます。アトリエは、素材と道具の充実度が素晴らしい。やはり、芸術を専門とする方は、保育者とは発想が違います。素材選びや展示の手法なども参考になりました。






上が「レインボーくわがたとにじいろおおかぶと」、下が「91ほしてんとう」だそうです。
作品の前では、そこかしこで、子どもがお父さんやお母さんに説明をする姿が見られました。


作品を創るまでのプロセスが、ドキュメンテーションとしてまとめられ、作品のそばに置かれていました。
子どもたちの会話、豊かな発想、思いがけない展開・・・その内容が実に楽しいこと!





日本の幼児教育は、熱心な私立保育園を中心に、日替わりの細切れ保育から、継続的で協同的な学びのある環境を通した保育へと変わり始めています。養成も、現場についていかなくてはと心しました。


いやあ、勉強になりました。オルト保育園の染谷園長先生、先生方、ありがとうございました。


運動の質と量を高める工夫2014/10/20

雨や雪が多い地域、夏の日差しが強い地域、車で登園する地域、その他子どもが外で遊びにくい地域では、運動の質と量を高める工夫をしている園が多くあります。

この夏、G3(保育環境委員会)で、園長先生方と一緒に園見学へ伺いました。
そこで大変におもしろい実践を発見。ホール全体を改装して回遊性を高め、運動の質と量が変わるように工夫されていました。他の幼稚園でもこのような設計は見たことがありましたが、(改装でもできるんだ!)と、目からうろこが落ちました。


ホールの元の壁の前に、木の壁が張り巡らされ、壁が二重になっています。


ホールの一部は坂が設けられています。この坂の角度と広さが、子どもたちが集団で登ったりすべったりするのにちょうどいい。幅が広いため、先生が「じゅんばん」「下から登ったらだめ、上から降りてきているでしょ」と言う必要がありません。


ホールの端には大きなマット、鉄棒など、さまざまな動きを経験できる環境が設けられています。


この広いホールでは、それはそれはにぎやかに子どもたちが遊んでいました。ホールといえば、巧技台や大型積み木などをよく見かけますが、こちらの園では、大小のボールなど可動の遊具を使って、子どもが自由に遊んでいました。


ビリボで遊ぶ子どもたち。ビリボは移動が少ないけれども運動量が多いため、子育て支援などでも使いやすいですね。

他にも、ロディ(柔らかい馬)にまたがって動いている子どもや、ソフトボールを投げあっている子どもなど、それぞれの発達欲求に合わせた遊具を、自分で選択し遊んでいました。

「体操教室よりも自由遊びの方が運動の質と量が高い」という研究がありましたが、この園の子どもたちの姿を見ながら、ドッジボールよりも自由遊びでのボール遊びの方が、子どもの運動量は大きいと直感的に感じました。またどのような遊具を選択し準備するかによって、子どもの運動量は大きく変わると感じました。

たばる愛児保育園の園長先生、先生方、大変に勉強させていただきました。ありがとうございました。


自然素材のみで遊ぶ乳児保育園2014/09/12

済生会松山乳児保育園へ行ってきました。一度自分の目で確かめてみたいと思ったのは、「げんき」(エイデル研究所)の長谷光城氏の連載で、その実践内容を読んだことがきっかけでした。長谷氏は芸術家であり児童の絵の専門家です。この園では、長谷氏から指導を受けて、園庭から人工的な遊具をすべてなくし、自然素材だけの遊びをしているとありました。私自身、斉藤公子氏のさくらんぼ保育を学んでいたので、子どもが水、砂、土で遊ぶことは、なじみ深い実践です。しかし、最近保育者の体力が落ちてきていることや、けがや汚れに対する保護者の許容範囲が狭くなっていることから、どのような工夫をされているのかに関心がありました。






済生会松山乳児保育園の園庭は、0、1、2歳児だけの園庭です。異なる種類の砂、土を園庭に入れ、人工物を使わずに、複数の砂場・泥場を作っていました。スコップやバケツなどの道具は一切使わせず、手と体を使って素材に働きかけることを大切にしているそうです。「2歳児が水や土をどうやって運ぶのか?」・・・それは、想像してみてください。

自然物、とくに砂と土は、常に手入れと補充が必要な素材です。園庭から砂が流れ出ないようにしっかりとした塀がありました。しかし、どうしても非常口からは流れ出てしまうそうです。土や砂の補充は、その性質を指定して購入されているそうです。園庭で十分に遊べるように、広葉樹を植え、タープを使って夏の日差しをカバーする工夫も行われていました。

朝の受け入れは室内で、おやつは外で食べるなどの工夫をして、午前中に何度も着替えなくてよい生活の流れになっていました。1歳児までは、園の共用パンツを使い、園で洗濯をします。2歳児は水着で遊びます。汚れた服は、園で洗濯機にかけてからお返ししているそうです。見学して園の方針を理解してから入園するので、保護者とのトラブルも起きにくいそうです。なるほどと納得することが多くありました。

園庭で遊ぶ子どもたちを見て新しい発見がありました。「泥は抵抗があり重い」ということです。



自然物は、複雑で多様性が高く、子どもたちの行為に対する応答性が高く、見立てやすく、子どもたちが遊びを作りだせる非常に優れた素材です。それに加えて、抵抗があり重いものは、子どもが力いっぱいの体験をしやすく、得られる効力感が大きいと考えられます。

1、2歳の粗大な運動が育つ時期には、重くて抵抗感があるものが大切ですが、室内の遊びの素材で、重くて安全な素材を保育カタログでは見つけることができません。そのため牛乳パックを重く詰め込んだ積木や、豆袋や、あずきで重くしたお手玉など、重さを確保することを苦心して手作りをしていました。またリズム遊び等で力いっぱい体験を入れていましたが、泥の場合、素材自体が重いので、普通にお団子を作っていても運動量が高そうです。

遊びの素材には、①水・砂・土・草・木などの自然物、②新聞紙、ダンボールなど自然物から作られた素材、③遊びを目的として作られた見立てやすい素材玩具があります。それらの素材をどのような割合で活用するかは、その地域と気候、園庭・保育室やホールなどの広さ、人的配置など、園の条件によって選び方が異なります。

大事なことは、自然物であれ、人工物であれ、子どもの発達と保育の目標・方法原理という根拠に基づいて、現実的制約に合わせて選択することだと思いました。

済生会松山乳児保育園の先生方、勉強させていただきました。ありがとうございました。

美しさに心惹かれるということ2014/07/09

保育者をしていたときに、赤ちゃんが美しい色や形に惹かれる姿を不思議に感じていました。
1歳の子どもが、道端にしゃがみこんでいるので、何をしているのだろうと横にしゃがんでみたら、小さな黄色い花を見つめていました。3歳の子どもがじっと階段に座っているので横に並んで座ってみたら、「お月様がきれい」と、月をながめていました。生物には美しさに対する感性が埋め込まれているのだろうか。美しさに心惹かれるって、どういうことなのだろう、とずっと不思議でした。

環境心理学では、人が美しいと感じるものには、調和と、新奇性の量が関係していると考えられているようです。
不調和なもの、新奇性が高すぎるものは、人は汚いと感じやすく、ごくわずかに新奇性があるときに、多くの人が「美しい」と感じやすいそうです。自然は互いに調和し合っていますが、人工的な環境では不調和な環境を作りやすいともありました。

この美しさを保育に活用したのが、マリア・モンテッソーリです。モンテッソーリは貧民教育に尽力した人としても知られています。モンテッソーリは、家庭で十分な教育を受けられない子どもたちを集め、環境を通して生活に必要なスキルや認識の学習を促しました。モンテッソーリ教具は、美しくシンプルであることが、特徴の一つです。
汚くそっけない石鹸ではなく、「私で手を洗ってみない?」と子どもたちを誘い、思わず手を洗ってみたくなるような石鹸。ほうきも子どもが思わず使ってみたくなるようなほうき。道具が示すアフォーダンスのなかに「美しさ」という要素を見出し、子どもが美しさに惹かれることを活用した人でした。

先日お伺いした園でも、美しさを活用した実践を発見しました。
埼玉県松伏町にある幼保連携型認定こども園 こどものもり まつぶし幼稚園・こどもの森保育園
見学者も多く、その実践が、全国の園へと影響を与えていらっしゃる園です。

園庭は子どもたちが自然と出会えるように作られています。(写真が下手で申し訳ないです)
多様性の美、調和の美が、各所から感じられます。


     
子どもたちが調理をする空間です。
どの空間も、「うわあ」と思わず声を上げてしまいます。子どもたちへの思いが随所にあふれています。



この廊下に置かれた園庭用の玩具を見つけたときには「これ、これがポイントですね」と思わず叫んでしまいました。

園庭用の玩具といえば、不調和な多色づかいのお砂場セットだったり、カニやクマの抜き型だったりと、遊びが広がりにくい玩具が多かったりします。こちらの園では、園長先生、副園長先生を中心に、インテリアや雑貨のお店で、子どもたちの遊びの素材や道具を選んでいらっしゃるそうです。


綺麗な足つきワイングラス! 「容器や道具が違うと、遊びが変わるんです」と説明して下さった若盛圭恵先生。
(先生方の「笑顔」も、「美」であり、「調和」ですね)。


美しいと感じる感性が、数学や科学の発展を支えたと言われます。
また、物を含めた環境が子どもの行動を規定し、子どもの習慣をつくります。
子どもたちを取り巻く環境は、その子どもの原風景となり、無意識の部分に生涯残ることでしょう。
たとえ狭くて古い保育室であっても、保育者の思いがあれば、あたたかさや、調和や、美を配置することは、きっとできるはずです。

一つひとつの物選びが大切なことを、改めて感じさせていただきました。
若盛正城先生、清美先生、圭恵先生、そして園の先生方、ありがとうございました。