「直そうとしない」という原則2019/12/01

脳の可塑性に関連する本を読み漁るなかで、
久しぶりに興奮させられる本と出合いました。

アナット・バニエル『限界を超える子どもたちー脳・身体・障害への新たなアプローチ』
翻訳伊藤夏子・瀬戸典子、太郎次郎社エディタス、2018 
う~ん、中身も編集も、太郎次郎社っぽい。

特別な支援を必要とする子どもの心と体へと働きかける
「アナット・バニエル・メソッド」。
そこで大事にしている9つのことを
実践と結び付けて紹介しています。
動作法や、ムーブメント教育、演劇療法、感覚統合療法とも違う独自の実践です。

「9つの大事なこと」は、以下の通りです。
1動きに注意を向けること
2ゆっくり
3バリエーション
4微かな(かすかな)力
5内なる熱狂
6ゆるやかな目標設定
7学びのスイッチ
8想像すること、夢みること
9気づき


その内容は、まさに保育に応用できることばかり。
「保育で大事にしたいこと」として以下のような言葉が浮かびました。

大人が、子どもを直そうとせず
できないことを訓練しようとせず、

自分に引き付けようとせずに
子どもに注意を向け、

セカセカ早くを、ゆっくりに
ハキハキ元気を、少し力を抜いて。

子どもがほのかやかすかを感じられるように
わずかな差異に気づけるように
自分に注意を向けられるように。

身体を使うバリエーション豊かな活動と
人とのつながりと喜びのなかで
子どもは学び育っていく。



今井寿美枝先生の「はう運動遊び」は、なぜ驚くような効果が出るのか、
この本を読むと、意味がわかる気がしました。
メモだらけになる本でした。

新入園の子どものストレスを軽減する4月の保育2019/04/01

新年度を迎えました。

新入園児の保育と、一時預かりは、保育のなかでも最も難しいもの。
とくに1歳前後の子どもは、親との信頼関係ができており、
かつ時間の見通しがつかない発達段階にあり、
後で、お父さん、お母さんがお迎えに来ることを理解するまで時間がかかります。
(最近は、親と離れても泣かない子どもが増えていると聞きますが・・・)

子どもたちが園の生活に慣れるために保育者にできることをまとめました。

まず保育者にできること。
1)物的環境の工夫

・物的環境は、保育者を助ける。4月は生活習慣より子どもが楽しく遊ぶことを優先。
・室内は、家庭では体験できない楽しい遊びの素材や道具を準備する。
・室内の遊びの素材や道具をたっぷり置く。
(以上児クラスから借りる場合は、大きさや形状など安全性を再確認)
・パズル、絵本、自動車など、情緒が安定しなくても遊べる分かりやすい玩具を多く置く。
・自動車や電車、その絵本は取り合いになるため、置くのであれば大量に置く。または一人遊びの場に置く。
・絵本は子どもの手の届くところ、よく見えるところにたくさん置く。家庭で読んだ経験がある絵本の名作を揃える。
・体育館では子どもは不安。空間が分けられていない保育室は、午睡用の絨毯や、食事用の机を置き、そこにできるだけ多くの安全な玩具を置く。
・パーソナルスペースをつくる。段ボール箱、枠、一人用絨毯、など自分のスペースを確保できる空間をつくる
・壁の飾りや誕生表より、子どもの手の届くところの環境づくりを優先する。
・できるだけ室内が混み合わないように、グループで散歩、園庭、室内、ホールなどに分かれる。
・柔らかいものを置く。柔らかい空間をつくる。
・できるだけ外に。砂場の道具は取り合いにならない量を出す。
・動物や虫がいる園では、それらも活用。

2)子どもとの信頼関係をつくる工夫
・赤ちゃんでも、子どもに自己紹介をする。「私は〇〇だよ。・・・・・」
・赤ちゃんでも、泣いていても、子どもに場所の紹介をする。
「ここにはね、木の自動車が置いてあるんだよ。ここでね、ブイーンって自動車を走らせるんだよ、
あっちまでブイ~ンって走らせることもできるね」と遊んでみせる。
・赤ちゃんでも、子どもが見ていたら、その人の紹介をする。「〇〇先生だよ」、「〇〇ちゃんだよ、おんなじ1歳だよ」
・黙って抱っこしているだけでは不安。子どもの体をさわるときは話しかけてから行う。

3)保護者に安心を伝え、保護者の信頼を得る工夫
・保護者には、「泣くのは、信頼関係がしっかりできている証拠で、とてもいいことです」と伝える。
・とても不安そうで離れられない保護者がいた場合には、「一緒に園庭や室内で遊んで、園の楽しさをたくさん伝えてあげてください」と、親にしばらく遊んでもらう。
・保護者と親しげに話し、子どもが、保育者のことを信頼できる人だと感じられるようにする。
・初対面では見た目が大事。保護者が信頼して預けることができる服装や話し方を心がける。
・机等には、ふだん読んでいる専門書(表紙が幼稚でないもの)を置いておく。
・「3000万語の格差ー赤ちゃんの脳を育てる保護者と保育者の話しかけ」を生活表のところなどにおき、保護者が赤ちゃんに話しかけて、情緒が安定した状態で園に来ることができるようにする。
(線を引いた本を置いているだけで、保育者の専門性の高さが垣間見える)

4)その他
・01歳の新入園児は、子ども一人に大人一人が必要。保育者だけで頑張ろうとしない。
・園長、事務員、ありとあらゆる園内の人に助けを求める。
・保護者にも協力を求める。
・保育者自身が、高い専門性が必要な難しい職務についていることを自覚する。
三つ子や六つ子を保育できる人は、超プロフェッショナル。
上手くできなくても、自分を絶対に責めないこと。
・保育者同士で、「今日もよく頑張ったね」とお互いに褒め合う。


保護者に行えること(保育者が、保護者に伝えること)
・子どもの前で、先生とニコニコと話す。
(先生は信頼できる人だということを子どもに見せる)
・絶対に子どもの前で園や保育者の悪口を言わない。
・園のなかでは、子どもに(赤ちゃんでも)、「ここが〇ちゃんの靴箱だね、ここが〇だね」と子どもと一緒に見る。
・泣いているときには、保育室のなかを見て
「ここはおままごとだね、〇ちゃんの大好きな絵本があるよ、わあ、砂場があるよ、すべり台があるね」と子どもと一緒に室内や園庭の楽しさを伝える。
可能であれば、室内で一緒に遊ぶ。
・別れるときには、保護者が不安を抱かない。
(不安は子どもに伝わる)
・お迎えに行ったときに泣いていなくても、できるだけ早く迎えに行く。
・体を動かすことが、子どものストレス解消。公園へ連れて行く。
・どんなに先生がいい人でも、保育者は子ども数人に一人で関わりには限界がある。
家庭の朝夕の短い時間で、濃い関わりをすることを意識する。
・夜はテレビを見せたりゲームをさせたりせずに、できるだけ会話をする。
(ストレス、脳を疲労させるものはできるだけ避ける)
・夜は早く寝かせる。親もいつもより早く寝てストレスをためない。
(寝かしつけようとすると寝ないので無理はしない)
・親子ともに、ビタミンCたっぷりの果物など、栄養を意識的にとる。
・朝は、テレビを消し、子どもと会話をしながらゆっくり支度をする。
・朝から子どもを怒らずに、楽しく園に行けるようにする。
・保育者には、感謝や肯定的なことをできるだけ伝える。
(保育者が精神的に安定していることと子どもにも伝わる)
・他の保護者や、他の子どもとも仲良くするようにする。
(他の子を知っていると家庭での会話もはずむ。わが子だけ幸せになることはありえない。わが子の友達が健やかに育つことでわが子も幸せになれる)

慌てて書いたので、読みにくくてすみません。


4月1日の黒目川の桜。入学式を待ってくれているようです。


進級による子どもの負担を軽減する3月の保育2019/03/06

実習訪問の行き帰りに「遊育」の読み落とした号をまとめ読みしていると、
「データで明白、入園直後の乳幼児は強いストレス状態」
という記事を見つけました。(11月26日号)

そう、来月4月は入園と進級の季節
クラスが変わったり、担任の先生が変わったりと
小さな子どもにとっては、負担が大きい季節です。

今の時期に各園へお伺いすると、
0123歳児の進級によるストレスを軽減する工夫を見つけることができます。

ながかみ保育園
雛人形が飾られた食事の空間 ながかみ保育園にて

進級する012歳が、新しい部屋に慣れる工夫として
3月の間に慣れた担任の先生とともに移動して
新しい部屋で生活する
園があります。

とくに4月に1歳児、2歳児に新入園児がいる保育園では、
進級する子どもが安定して4月を迎えられるように
3月から移行の準備をはじめる園も多いようです。

新入園児も、3月から親子通園を行い、
保護者と一緒に安心して
園の生活になじむことができるように配慮する園があります。

0歳から1歳と、2歳から3歳は、
補助金上、保育者の人数が激減しますが、
4月に一度に進級するのではなく、
1歳、3歳の誕生日から年度途中に
担任と一緒に移行する園
もあります。

これまでで最も驚いたのは
乳児クラスでは保育室と保育者が変わらない園です。
1歳児クラスが、翌年は2歳児クラスとなり
担任も継続するのだそうです。

いずれも園独自の取り組みとして行われています。
日頃から子どもを一人の人間として
大切にしているからこそ生まれた実践だと思います。

また、ちょっとした工夫ですが、
先日伺った園では、0歳児クラスのキーハウスに
新しく担任する先生の顔写真を入れたのだそうです。
時々新しい担任の先生が入ってくると
子どもが写真と同じだと、「あー」と指さすのだとか。
これには、とても感心しました。

様々な使われ方をしているキーハウス。写真は他の園です。

先生方の子どもたちへの愛情が感じられますね。

保育者の役割と、「言葉がけ」「言葉かけ」2018/12/16

夜中に、「言葉がけ」で、目が覚めました。

思い悩んでいると、夜中に思い出して目が覚めるという困った習慣があります。
夜中に、枕元のポストイットにメモした「けんさく」という文字を見て、
朝一番に、自分のパソコンに「言葉がけ」と、検索をかけてみました。
やはり「言葉がけ」は、人が作成した論文と文書にしかありませんでした。

「言葉がけ」や、「言葉かけ」は、
保育では、よく使われる言葉です。
しかし、私は悪い関わりの例でしか使いません。
実習指導でも、計画や記録には使わないように指導しています。

しかし、学生は、「言葉がけ」「言葉かけ」と連発するのです。

今、2年の学生数人と、4年のゼミ生が、
食事場面での「保育者の言葉」を研究しています。
そのなかで何度も、「言葉がけ」が出てきます。
「どうして、みんなは『言葉がけ』と使うの?」と聞くと、
「『言葉がけ』は、高山先生が言っていると思います」との答。

(えっ!私なの!?、無意識に使っているの?)
と、ずっと気にしていたのでした。
それで、夜中に目が覚め、パソコン検索をし、
やはり「言葉がけ」は使っていないと確認して安心しました。

友達に、「言葉がけをする」とは言いません。
家庭でも、「子どもへ言葉かけをする」とは使いません。
なぜ集団保育だと、「言葉がけ」「言葉かけ」になってしまうのでしょうか。

「言葉がけ」ではない母と子の光景。

応答性が、保育者の基本姿勢のはずです。
指針の「言葉がけ」の文言を、次の改訂では無くしたいものです。

1月4日の追加です。
言葉がけについて、ある先生より、
「『話しかける』は意図が薄く、
『声をかける』『言葉をかける』は意図があるときに使うのではないか」
というご意見をいただきました。なるほど。

「声をかける」「言葉をかける」と
「言葉がけ」「言葉かけ」の違いはどこにあるのでしょうか。


1歳は手をつないで散歩ができるのか2018/12/02

質問をいただきました。

今悩んでいる事があります。1歳児同士が手を繋ぎ戸外を散歩中、お子さまの気持ちが逸り、急に1人が走り出すと、もう1人が引っ張られそのまま転倒。繋いだ手を離せないので、手をついても片手になり支えきれず顔面を打撲し前歯を怪我するというケースが数件続いています。ひどいケースでは乳歯が抜け落ちてしまい、保護者もかなり心を痛められています。

そもそも、1歳児同士が手を繋ぎ戸外を歩く事自体、本来は無理のある行為なのでしょうか?

5歳児が片道5分程度の道のりも、1歳児の1期中は、ぐずったり座り込んだりで、40分くらいかかる現状を見ていると、そこまでして、手を繋いで歩かせないといけないのか?と疑問にさえ思います。ただ、おそらく保育士さん達は、1歳児は手を繋いで歩かせないといけないと思っていて、それが当たり前になっているから、悪戦苦闘しストレスを抱えながらも頑張られています。

乳児は歩ける様になってもまだまだ頭が重く、両手でバランスを取りながら歩行を安定させ、身体を作る時期かと思われますが、同年齢のお子様同士が手を繋いで散歩する習慣を身につける最適な年齢(時期:体の状態・心の状態)はいくつくらいからなのか?と考えています。身体と歩行バランスの安定で、何か目安の様な物があれば教えて頂きたいと思います。2歳児への移行も踏まえ、アドバイス頂ければ幸いに存じます。


文面から、園長先生だと推察しました。

結論から。1歳児同士に手をつながせて散歩させることは妥当か→いいえ発達に合いません。

「環境構成の理論と実践」に、発達のステージ毎に経験したいこと、環境を示しています。

調整機能の発達は、3歳半~5歳頃

人に合わせて自分を調整する機能が発達するのは3歳半以降です。

他者に合わせて、がまんしたり調整したりする1歳や2歳がいたら心配ですね。
「私のもってるおもちゃがほしいの?はいどうぞ」とか。
「ママ、今日は急いでいるんだね、じゃあぼくも急いであるくよ」とか。
「今ぼくはこの石を見たいんだけど、君はあっちへ行きたいんだね、じゃあぼくががまんするよ」とか。

身体機能も、リズム感をとったり、相手に合わせて調整が次第にできるようになるのは3歳半以降です。
二人組でリズムよく、「なべなべそこぬけ」をする1歳がいたら天才です。

他の子におもちゃをとられても平気、
ほかの子に手を握られたままその子についていく、
散歩では先生の指示にしたがって歩く、
そんな1、2歳児がいたら、自我が発達していない可能性があり、むしろ心配。

子どもの姿に合わせて環境をつくるのが保育者の役割です。
環境の構成は、散歩や、園外の行事でも行います。
どのような場を選び、どのような散歩をするのか、保育者はどんな服を着てどんな声で何を話すか。
これが散歩の環境構成です。

自然豊かな森のなかでも、子どもに手をつながせ急いで歩かせれば、その体験は貧しくなります。
歩き始めの子どもは、自由に歩き回り、しゃがんだり立ったり、登ったり降りたりを、何度もくり返すことで、自分の身体を守る能力を獲得します。

保育は、このケースでは、この場面ではと、ノウハウで判断することができません。

「何のために散歩するのか?」、「散歩では子どもにどんな経験をしてほしいのか?」
「散歩では何に困っているのか?」、「何のために手をつながせるのか?」
「ほかに、どんな方法があるか?」など話し合うと、いい解決方法が見つかるかもしれませんね。

保育は、今ある条件のなかで、柔軟に考えるしかありません。
保育者が、判断の基準にするのは、根拠となる専門知識です。

関わるための話し方とは2017/08/28

保育者の関わりに関連するさまざまな文献を読んでいて、
ますます大きくなっていく疑問があります。
それは、保育者の声の出し方、話し方

幼児の歌唱指導で、「大きな声で」「元気よく」と
歌わせる指導方法に、賛否両論があるように、
保育者の話し方と声の出し方も、園によって異なります。

ある園では、新任の保育者は、
「大きな声で、子どもたちを引きつけられるように」と、
オーバーな話し方をするように指導を受けます。
先生は、騒音の中で聞き取れる、甲高い裏声を使って話します。
絵本も、声色を使い演劇のように感情をこめて読みます。

反対にある園では、新任の保育者は、
「声は静かに出すように」と指導されます。
絵本は、「子どもたちが想像できるように」
声色は使わずに読みます。

関わりは保育者に任され、
一つの園のなかで、大きな声の先生と静かに話す先生が
混じっている場合もあります。

関わりの研究で観察したある園では、
保育者は、幼児の集団にも静かな話し方をしていました。
インタビューをすると、保育者は、
「子どもが自分で話に注意を向けて聞き取ることができるように
わざと普通の声で話しています」と、その意図を説明されました。

「キャピキャピした保育者」を求める園
(これは関わりに関する本に書かれていた言葉です)と、
「静かで知的な保育者」を求める園とがあり、
そこには子ども観、保育観の違いが現れていると考えられます。

私も中学生の頃、ピンポンパンのさかいお姉さんが大好きでしたが
幼児番組やアニメの話し方や歌い方は、
声が高い、テンションが高い、抑揚が大きいなどの特徴があります。
探索欲求の強い乳幼児を、平面の画面に引きつけるには、
このような話し方が、有効であると考えられます。
しかし、対面のコミュニケーションには向くのでしょうか。

保育者が追及するのは、
赤ちゃんと、情緒的に交わることができる話し方であり、
幼児クラスで、保育者と子どもの豊かな会話が成り立つ話し方です。

目の前の赤ちゃんと信頼関係をつくる話し方は?
目の前の子どもの心と体に届く話し方は?
幼児の集団に対する話し方は?
それらに共通する原則は?

原則づくりの旅はまだまだ続きます。

学びの二つの方向性2017/06/17

保育学会の発表で、印象的な質問を受けました。
ここ数年、0~6歳の保育内容を体系化する研究を発表しています。
今年は、「人間関係」の発達と、発達に合う教材や活動の体系化です。

「高山先生は環境の研究者だと思っていたので、
教材や活動とは、一番遠いと思っていたのですが」

(え~~!そうなの~!)と心のなかで叫んでいた私ですが、
「環境×文化→豊かな遊び」
自分だけの常識だと気づいた瞬間でした。

自然・物的環境を準備するだけでは、豊かな遊びは生まれません。
森のなかでも、テレビの再現遊びを繰り返す子どももいます。
保育者が、どんな文化を提供しているか、それによって遊びの質は変わります。
子どもは、自発的な活動の中でも学び、大人の指導からも学びます。
遊び中心の保育や、環境を通した保育は、自由放任の保育とは異なるものです。

保育者のもつ専門性は、まだまだ言語化・理論化されていません。
私の専門性言語化計画。

本当は、環境構成も、子どもの把握も、関わり方も、
発達に合った遊びと生活も、保育のマネジメントも
養成で教えられれば良いのですが、
言語化されていないために、科目すら設置されていない状況です。

専門性のなかでも、環境構成が、他者に見え、
子どもの行動に影響が強いため、
最初に、環境構成の理論化に取り組みました。
ほぼ、まとまりつつあるのが、2冊目の保育者の直接的な関わりです。

そして、保育者のときから研究を続けているのが
3冊目の子どもの発達と遊び。
名のない遊びも含めて
この時期には、こんな遊びが子どもたちから生まれる、
またこのような遊びを通してこのような学びを得る、
それらを保育者が知っていないと、
小学校の先取り教育か、
教育の意図のないお楽しみ会のような保育、になりがちです。
保育者が想定する遊びの幅が広いほど、子どもの活動は広がります。





保育者は、どんなに子どもへの愛情や思い(エンジン)を持っていても、
発達の理解や生活や遊びの具体的な知識(車輪)がないと、前へ進めません。

うた、踊り、リズム活動、体操、絵本など芸術的な文化の質や
伝承されるおにごっこ、わらべうた、手合わせ遊びなど遊びの質によって、
子どもの日々使う言葉が変わり、体が変わり、遊びが変わります。

何億年もの進化の過程を、遊びのなかで繰り返す子どもたちに
どの時期に、どんな環境をつくり、どんな文化を提供するのか。
それは、とても難しいけれども、創造的な仕事です。

実践の現場から、保育者の意図と技術を明らかにしたいと思います。

教材や活動選択の根拠2016/08/04

ゼミの学生たちが絵本を選ぶブログを読んで、
選択の基準ってあるのでしょうか?」と質問をいただきました。

私が園を見学させていただくときに必ず写真を撮るのが各クラスの絵本棚です。
各クラスの絵本棚には、そのクラスの保育内容が現れます。


また、絵本棚には、保育の専門性も現れています。
よく勉強している先生は、絵本棚に置く本のバランスが見事。

でも、何千冊とある絵本、
それも学童向けや大人向け絵本も多いなかで
選ぶのは難しいですね。

保育は、教材を体系化した教科書や
教師向けのガイドもなく、
保育者の自由度がとても高い仕事です。
保育者にもし専門性がなければ、
「私がいいと思うから」「私が好きだから」と
自分の好みや主観で教材を選ぶことになります。

極端な例ですが、その昔、先生の好みで、
キャンディーズの歌ばかり歌わせるクラスがありました。
親なら何の問題もないけれど、園の場合はちょっとまずい。
また「子どもを喜ばせたい」と偏ったメニューを作る栄養士
がいたら困りますね。

保育者は、大切な子どもたちを預かり
大切な乳幼児期の教育を行うため、
園でどんな教材を選ぶか
どの活動を優先するか、
専門職として選択の基準があります。

保育には、
「遊びを通して行う」「環境を通して行う」という
二つの大原則があります。

その他に方法原理として、
「発達の原理」
「経験の原理」
「自発性(主体性)の原理」
「個性化の原理」
「関係性の原理」
「相互作用の原理」
など、研究者によって分け方が異なりますが原則があります。
そしてこれらは、指針の「保育の原理」や、要領の「幼児教育の基本」に
文章で示されています。

園での時間には限りがあります。
そのため保育者は、
発達に合うもの、直接体験、身体感覚が伴うもの
自発的・主体的な活動、一人ひとりの個性が発揮できるもの、
人や物との関わりが生じるものなど、
保育の原理に合ったものを優先することになります。

指針の保育の目標には
「子どもが現在を最も良く生き、
望ましい未来をつくり出す力の基礎を培うために」
とあります。

大人が提供する文化である絵本や歌も
繰り返しその文化にふれることで何を経験するのか、
その後、どんな遊びが広がるのか、
そこで子どもたちがどんな価値を身につけるのかを
保育者は想像して選ぶことになります。

保育環境の研究でも、
意図的に環境を構成している園では、
保育者に「なぜこの人形ですか」
「なぜこの絵本ですか」と質問すると、
専門知識に基づいて根拠を説明することが特徴的でした。
「なぜ、その絵本ですか?」と尋ねられたときに、
「子どもが喜ぶ、好き、うける」以外の根拠がどれだけあるか、
そこが保育の専門性だとインタビューで学ばせていただきました。

でも最初は、
この本がこの発達段階の子どもに合っている
なんてわからなくて当然ですから、、
学生には、まずは学習を薦めています。
「保育と絵本」(瀧薫)など質の高い参考資料を読むことや
こどものとも社のカタログの年齢別お薦め絵本を参考にして
絵本をまずは読んでみることを薦めています。

こんな感じで質問の答えになったでしょうか?
ご質問、ありがとうございました。

オープンエンドの活動を考える2016/06/23

今年も、幼稚園教育実習の訪問の季節がやってきました。
実習訪問は、大学の教員にとっては、現場から様々な学びを得る時間でもあります。
学生の指導を行うことが最も重要な職務ですが、同時に園長先生のお話を伺い、各クラスの環境や先生方の指導、壁に飾られる絵などから、多くのことを学びます。

「父の日」の絵で、非常に個性的なお父さんたちの絵が並んでいるクラスと、同じようなお父さんの絵が並んでいるクラスがあると、(おお!指導によって、ここまで子どもの絵が変わるのか!)と心の中で大興奮していたりします。

学生が実習案として考える工作も、指導案の内容によって、できあがりが同じものになるか、違うものになるかがある程度予測できます。全員が同じ作品になるか、違うものになるか。終わりが閉じているか、開いているか。最終的に「できたー」と言うものができるだけ違うものになる活動や、終わりは保育者の予測がつかない活動ほど、子どもが考える、工夫する余地が多いと考えることもできますね。

実習で、指示をした通りに子どもたちが行って、スムーズに進んで、誰も何も話さず、トラブルも何もなく終わる活動は、たぶん子ども自身の経験は少ない活動。子どもが選んだり決めたり試行錯誤したりする活動では、とまどうことや迷うことも起きます。また友達との関わりが多ければ多い活動ほど、トラブルも起きて大変です。だからそういうことがあったからといって落ち込まないでほしいと思います。

幼児教育では、拡散的な思考を使う活動、開かれた問いを多く取り入れてみたいものです。そして、工夫したり探求し続けることを苦にしない学習者を育んでほしいと・・・ああ、これは大学教育でも同じですね。


大好きな散歩道がついに舗装され、土の上を歩く場所が減りました。残念。

「はう運動遊び」の今井寿美枝先生に2015/05/08

チャイルドハウスゆうゆうの施設長である今井寿美枝先生に、ゼミで「はう運動遊び」を教えていただきました。
「はう運動遊び」をテーマに研究する学生のため、そして今井先生の遊びを通して指導する雰囲気を、学生たちに直接味わってほしいと、先生にお願いして来て大学まで講義に来ていただきました。




先生は、この2冊の著者でいらっしゃいます。
今井寿美枝、『はう運動あそび』で育つ子どもたち、2014、 丸山美和子・今井寿美枝、生活とあそびで育つ子どもたち、2010、いずれも大月書店。

月に何十冊も本を読むけれども、めったに本を買わない私が、「これは絶対お薦めです」と、先生方に薦めている保育の本です。河添邦俊先生に生活リズムを学んだ保育者の皆さんには、なるほど河添理論がこのような実践になったのか、と納得していただけると思います。



本に紹介されている遊びを実際にみんなで体験してみました。私もやりたい、でも写真も撮らなきゃ…。写真左上が今井先生です。動きがお若い!


大人でもキャーキャー大騒ぎになります。子どもたちと一緒だと、どれほど楽しいでしょう。
最後は、「だいだいだーいすき」を歌って終わりました。この歌は子育て支援や懇談会で使いたいですね。

なぜ、子どもたちが劇的に変わるのか、直接先生のご指導を受けてわかりました。
それは、「はう運動遊び」が、「遊び」だったから本当に楽しいのです。先生のはじけるような笑顔と遊び心で、思わず子どもがやってみたい!と動いてしまうしかけがあり、やってみると面白い。

発達に合った動きが選ばれていて、オリジナルのうたも安定したリズムがあり模倣しやすい。そして何より人と関わる喜びが遊びのなかに組み込まれています。子どもは人間のなかで人に育つ、発達の本質です。みんなと一緒だと楽しいなあ、先生だ~いすき、子どもがそう感じられる遊びでした。

今井先生の遊びは、まず子どもへの熱い思いがあり、その思いを理論に基づいて活動にし、目の前の子どもに合わせて自在に応用する実践でした。今井先生には理論という確かな根拠がありました。理論という背骨のある専門家は現場に合わせて自由自在に動き回ることができる、そして人に説明できる・・・やはり学びは大切です。

雑巾も、腕の力が弱い子どもの場合には乾いた雑巾を使います。ここでも発達に則した教材選択が光ります。


気づきが多すぎて書きたいことだらけですが、私のブログより、ぜひ今井先生の本をご覧いただき、研修会に今井先生をお呼びいただければと思います。

今井寿美枝先生、貴重なお時間をいただいて後進のご指導をいただきまして、ありがとうございました。