保育内容の幼小連携 ― 2012/01/03
保育士をしていたときには、「小学校学習指導要領」を購入して読んでいました。何に使っていたかって、主に懇談会の資料です。幼児期の遊びや環境構成が小学校以降の学力にどうつながるのか、それを説明するのに要領を見ながら知恵をしぼっていたのでした。
「学習指導要領」は、今は文部科学省のページで簡単にダウンロードできますね。
ゼミ生のOさんが、幼児期の数量経験を卒論テーマにしていることもあり、研究の合間に、改定された小学校の指導要領に関する資料を読み込みました。いろいろ読んでみましたが、保育者が小学校の算数を理解するために一冊読むとすれば以下がお薦め。 金本良通「小学校新学習指導要領の展開 算数科編」明治図書出版 2008

ここで、数量図形に関する年長のねらい、内容と、小学校一年生の算数の目標、内容を比較してみましょう。
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「幼稚園教育要領」 領域 環境
1 ねらい
(1) 身近な環境に親しみ,自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心をもつ。
(2) 身近な環境に自分からかかわり,発見を楽しんだり,考えたりし,それを生活に取り入れようとする。
(3) 身近な事象を見たり,考えたり,扱ったりする中で,物の性質や数量,文字などに対する感覚を豊かにする。
2 内容
(2) 生活の中で,様々な物に触れ,その性質や仕組みに興味や関心をもつ。
(4) 自然などの身近な事象に関心をもち,取り入れて遊ぶ。
(7) 身近な物や遊具に興味をもってかかわり,考えたり,試したりして工夫して遊ぶ。
(8) 日常生活の中で数量や図形などに関心をもつ。
3 内容の取扱い
(4) 数量や文字などに関しては,日常生活の中で幼児自身の必要感に基づく体験を大切にし,数量や文字などに関する興味や関心,感覚が養われるようにすること。
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「小学校学習指導要領」 第一学年 算数
1 目標
(1) 具体物を用いた活動などを通して,数についての感覚を豊かにする。数の意味や表し方について理解できるようにするとともに,加法及び減法の意味について理解し,それらの計算の仕方を考え,用いることができるようにする。
(2) 具体物を用いた活動などを通して,量とその測定についての理解の基礎となる経験を重ね,量の大きさについての感覚を豊かにする。
(3) 具体物を用いた活動などを通して,図形についての理解の基礎となる経験を重ね,図形についての感覚を豊かにする。
(4) 具体物を用いた活動などを通して,数量やその関係を言葉,数,式,図などに表したり読み取ったりすることができるようにする。
2 内容
A 数と計算
(1) ものの個数を数えることなどの活動を通して,数の意味について理解し,数を用いることができるようにする。
ア ものとものとを対応させることによって,ものの個数を比べること。
イ 個数や順番を正しく数えたり表したりすること。
ウ 数の大小や順序を考えることによって,数の系列を作ったり,数直線の上に表したりすること。
エ 一つの数をほかの数の和や差としてみるなど,ほかの数と関係付けてみること。
オ 2位数の表し方について理解すること。
カ 簡単な場合について,3位数の表し方を知ること。
キ 数を十を単位としてみること。
(2) 加法及び減法の意味について理解し,それらを用いることができるようにする。
ア 加法及び減法が用いられる場合について知ること。
イ 1位数と1位数との加法及びその逆の減法の計算の仕方を考え,それらの計算が確実にできること。
ウ 簡単な場合について,2位数などの加法及び減法の計算の仕方を考えること。
B 量と測定
(1) 大きさを比較するなどの活動を通して,量とその測定についての理解の基礎となる経験を豊かにする。
ア 長さ,面積,体積を直接比べること。
イ 身の回りにあるものの大きさを単位として,その幾つ分かで大きさを比べること。
(2) 日常生活の中で時刻を読むことができるようにする。
C 図形
(1) 身の回りにあるものの形についての観察や構成などの活動を通して,図形についての理解の基礎となる経験を豊かにする。
ア ものの形を認めたり,形の特徴をとらえたりすること。
イ 前後,左右,上下など方向や位置に関する言葉を正しく用いて,ものの位置を言い表すこと。
D 数量関係
(1) 加法及び減法が用いられる場面を式に表したり,式を読み取ったりすることができるようにする。
(2) ものの個数を絵や図などを用いて表したり読み取ったりすることができるようにする。
〔算数的活動〕
(1) 内容の「A数と計算」,「B量と測定」,「C図形」及び「D数量関係」に示す事項については,例えば,次のような算数的活動を通して指導するものとする。
ア 具体物をまとめて数えたり等分したりし,それを整理して表す活動
イ 計算の意味や計算の仕方を,具体物を用いたり,言葉,数,式,図を用いたりして表す活動
ウ 身の回りにあるものの長さ,面積,体積を直接比べたり,他のものを用いて比べたりする活動
エ 身の回りから,いろいろな形を見付けたり,具体物を用いて形を作ったり分解したりする活動
オ 数量についての具体的な場面を式に表したり,式を具体的な場面に結び付けたりする活動
〔用語・記号〕
一の位 十の位 + - =
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幼小連携で留意する点は、教育内容の連続性、子どもの経験の連続性です。
幼児期は、身体と五感を使った直接体験による学びが効果的です。自然のなかでの遊び、栽培や飼育、生活の活動を重視している園では、子どもたちはごく自然に数量体験を積み重ねています。
とは言っても「じゃがいも4こ」といった具体的・直接的な経験から、いきなり「2+2=4」なんて抽象的な概念の学習にとぶのはとても大変。そこで、幼児期や小学校低学年で具体と抽象をつなぐための玩具や教具がどれだけ揃っているかが大切になります。注目しているのがモンテッソーリ教具。具体と抽象をつなぐ年長後半の保育にぴったりです。ほかにも輸入おもちゃで良いものがいろいろありますね。これに、保育者の意図的な言語による援助が加われば、鬼に金棒です。
最近、私は環境構成の研究が多かったのですが、指導要領を読んでいると、久しぶりに保育内容の体系化をやりたいという欲求がムクムク。0歳から5歳まで発達段階と活動を体系化するというとっても楽しい作業です。実は、言葉領域は10年以上前に終わっているのです。次は環境領域を完成させたいな・・。いかん。研究にもどります。
コメント
_ 原田留美 ― 2012/01/12 11:47
_ 高山静子 ― 2012/01/15 18:08
資料は、授業や保育者向け研修会の資料として出していますが、公表したことはないんです。
論文も学会発表も、字数制限で研究プロセスも結果もごくわずかしか書けなくて困ってます。
本にしたくても、あまり専門的すぎる内容はなかなか。
この体系化は5領域全部必要だと思っています。原田先生がお近くでしたら、一緒に研究会をしたいのに残念です。。。
_ 原田留美 ― 2012/01/18 16:36
お忙しい中、ご返信ありがとうございました。
まだ公刊なさっていらっしゃらないとのお話ですが、発達の見通しを踏まえつつ保育の理論と実践を結びつけるとても価値あるご研究と思います。色々な文献で紹介されている多くの事例(保育現場の知)を、ばらばらの営みとしてではなく、一つの流れの中で理解することが出来るようになるのではと期待が膨らみます。
そしてそれはまた、保育の専門性の理解の深化、保育者養成の専門性の確立にも繋がるのではないかと思います。
いずれどこかで拝読させていただけます折を心待ちにしております。
本当に、私の住まいがもう少し浜松に近かったらと思います。12月11日の公開講座も聴講したかったのですが。距離もさることながら折悪しく勤務先の行事と重なりまして、伺うことが出来ませんでした。
先生のブログからは、明確な形をとらないまま頭の中に残ってしまっている様々な問題を言語化するヒントを多くいただいております。
これからもしばしばお邪魔させていただくかと存じます。
どうぞ宜しくお願いいたします。
過日、『保育における養護を理解するワークブック』をお送りいただいた原田です。その節はお手数をお掛けいたしました。
1/3の記事に、また強く心惹かれるところがありましたので、コメントさせていただいております。
「0歳から5歳まで発達段階と活動を体系化するというとっても楽しい作業です。実は、言葉領域は10年以上前に終わっているのです。」と書いていらっしゃいますが、どこかにおまとめ、発表なさっていらっしゃるでしょうか。サイニーで検索を試みましたが、該当しそうなご論文は見あたりませんでした。
1月、いろいろとお忙しい中度々申し訳ありませんが、お手すきの折にでもご返答いただければ嬉しく存じます。
なにとぞ宜しくお願いいたします。