保育士が働き続けられるために ― 2015/04/07
保育士不足が深刻です。その最大の原因は、職務内容に比べて待遇が低すぎることだと言われています。
命を預かる責任は重く、肉体的にも重労働でありながら記録や計画といった頭脳労働も多い。幅広い知識、教育とケアの専門性と自己研さんが求められる福祉の専門職です。毎日が総合学習であり、個々の保育士の裁量の幅が広い仕事。創造的で自律的な人が、やりがいを感じられる仕事です。
保育所の場合、福祉ニーズの高い家庭が利用するため、特別な支援を必要としている子どもと保護者もいます。保育士に求められる職務内容と専門性は高いけれども、記録と準備の時間は幼稚園のように確保されていません。夏期休暇や年度末休暇も交代制です。保育士の待遇は職務内容とは見合わず低いものです。
保育士の待遇は、今後わずかに改善される見込みがありますが、過重な仕事量は、各園で工夫して減らす必要があります。保育所は長時間保育になり、特別に支援を必要とする子どもが増え、計画や記録の量も増えています。1歳児でも20人以上などクラス規模も大きくなっています。この状況のなかで仕事を減らさなければ、保育士の負担は増える一方です。今回は、保育士が保育を続けることができ、就職希望者が増えるために、園長・主任が中心になって行っている各園の工夫を紹介してみます。
保育士の「しなくてもいい苦労」を減らす
〇保育室・園庭の保育環境を変える。物的環境は人的環境をカバーする。
〇子ども主体の保育に変える。子どもに指導をし続ける保育は、保育士の精神的・肉体的な疲労が大きい。
〇一人ひとりの差異を受け止められる流れる保育に変える。発達に合わない一斉保育は保育士の負担が大きい。
〇ゼロ12歳児の保育を、担当制にする。
〇ゼロ123歳のクラス分けを年齢別ではなく、その年度の子どもの様子に合わせて柔軟に変える。クラス集団の大きさが小さくなるようにする。
〇発達に合う行事に変える。保育士の過剰な指導が必要な行事は発達に合っていないため改善する。行事は、日常の保育を見せることを重視し、行事前に連日残業をして飾りや衣装を作ることを防止する。
〇計画と記録を省略化する。実践に使いやすい計画や記録を作る。前年までの記録や計画は閲覧可にする。
〇計画と自己研さんに必要な参考資料を貸出し、園での遊びや活動を蓄積、ファイル化する。
〇園に遅くまで残ることがいいこと、という雰囲気があれば、それをなくす。
〇作り物を減らす。壁面飾りは作らず本物の季節飾りを置く。準備が必要なお持ち帰り型の工作は減らし、準備が不要な日常的に使える造形の素材をたっぷりと準備し、日常的な造形表現を写真で残す。
〇国の最低基準以上の保育士を配置する。(そのため一人当たりの給与が低くなっている園もある)。
〇必要な計画・記録・製作時間の確保のために、パート職員を雇用する。
〇保育士の業務内容を減らす。製作や掃除等委託できる作業はボランティア希望者や無資格者の雇用で補う。
〇洗濯乾燥室など、保育士の労働が軽減できる機械を整備する。
〇職員会議で「残業を減らすには」、「就職希望者が増えるには」と、ブレーンストーミングで意見を出し合う。
保育士の過剰なストレスを減らす
〇職員が辞める原因となる職員の行動がある場合は、園長と主任、園長と理事長など複数で対処し放置しない。
〇保護者の相談は、主任や園長が中心に受ける。
〇保護者には、入園時に国の保育士の配置基準を説明し、理解を得ておく。
〇お迎えの時間には、園長か主任が園内や園庭に出て保護者に声をかけていく。
〇保護者とのトラブルや事故対応は、主任や園長が責任をもって対応する。
〇人格障害に対する基本的な知識を学習し、職員集団が振り回されないようにする。
〇福祉ニーズが高い家庭の割合が高い園は、保育士の増員やソーシャルワーカーの配置を市に要求する。
〇それぞれの保育士が得意なことを発揮し、お互いに補い合い、助け合うことを推奨する。全員に一律の能力を求めない。ピアノが得意な人、手作りが得意な人、研修・研究が得意な人など強みを発揮できるようにする。
保育士がリフレッシュできる仕組みをつくる
〇まとめて休みがとれるようにする。4月~6月の間に一週間続けて休みを取る仕組みを作っている。
〇仮眠、休憩、保育中にお茶を飲むなど、保育士がリフレッシュすることは良いことだという文化をつくる。
〇保育士が、子どもと離れてゆっくり休憩ができる場所を複数作っている。
〇保育士の休憩室には、仮眠ができる機械が置かれている。(休憩室にマッサージ機があれば、肩こりによる頭痛がどれだけ減るだろう)
〇園長が落ち込んでいる職員に、ボケたりつっこんだりする。(状況と相手によっては逆効果の場合も?)
〇園の慰労会では、園長先生のポケットマネーでビンゴ大会を行っている。
保育士が、自分で自分の仕事をコントロールしている感覚をもてるようにする
〇保育士たちが最も保育に合った週日案、記録を考え、書式を柔軟に変更する。図を使う。マインドマップをそのまま計画にしている。文章に書き替えない。
〇保育環境は、知識を持った上で保育士たちが話し合って決め、変えることを推奨する。
〇絵本、遊びの素材等は保育士が購入できるようにする。カタログ等は保育士が閲覧する場に置く。
〇当番研究やテーマが固定された研究には希望者が参加し、自分たちが必要な園内研究をする。
自己肯定感や、やりがいを感じられるようにする
〇できるだけ多くの保育士が、質の高い研修に出られるように工夫する。
〇質の高い保育を行っている園を、保育士が見学する研修を組む。
〇外来者(研究者や小学校教員等)、保護者の前で、その保育士の良い面を話す。
〇手柄は、保育士のものにする。
〇職員の名前を書いた手帳に気づきを書き込み、いいところリストをつくっている。
〇子どもが日々幸せにすごせる保育への改善を推進する。
〇保育士が誇りをもてる質の高い保育への改善を推進する。
これまでの園訪問で、園長先生方や主任の先生方から教えていただいたことをまとめてみました。
いきいきと保育者が働いている園は、意外に園長先生が保育経験がない場合がありました。自分が経験がないために、本気で(大変だよね、頑張っているよね)と感じている、そして(どうすればもっと保育者が楽しく仕事ができるだろう)と試行錯誤されている園長先生方と出会い、経験がないことがプラスに働く部分もあると気づきました。
子どもの保育も、保護者の支援も、保育士の労働のマネジメントも、当事者の力量で考えることが基本です。現実の今の保育者集団の力量を捉えて、どこをどう変えればよいかを考えていく、また保育士が頭を突き合わせて考えていけば、その園にちょうどいいやり方が見つかるかもしれません。
