縦抱きと歩行器2014/03/12

ひざや足首をまっすぐにして座る赤ちゃん、その後保育園でゼロ歳児クラスへ入らせていただいたら、目の前に座っていました。

さて、本日は縦抱きと歩行器のお話。
育児にはブームがあります。ミルクが母乳よりも良いと言われた時期、おしゃぶりが流行した時期など。今の時代は、後から振り返ると、外国製のベビーカーが流行し、エルゴ、バンボ、スイマーバ、ジョリージャンパーなど輸入育児用品が流行した時期と言われるのかもしれません。

縦抱きについて調べていると、抱っこやおんぶ用品でも、スリングでも、「新生児期から縦抱き」の抱き方が説明してある動画が多くて驚きました。輸入抱っこ製品の流行によって、「新生児は横抱き」という常識は、ここ数年で消えてしまったのでしょうか
赤ちゃんの姿勢を長く研究しているベビーカーやチャイルドシートを製作している会社のホームページには、次のような文言が書かれています。「首のすわらない赤ちゃんを座らせて、首が曲がっていると、気道が圧迫され、酸素飽和度の低下を招く場合があります。平らなベッド型なら、 頭と首の動きが安定します。 アップリカは赤ちゃんを危険から守るためにも、特に6カ月頃までは 「平らなベッド」を強くおすすめしています」
日本の老舗育児用品メーカーは、横抱きができる抱っこ紐を販売していました。

縦抱き・横抱きの研究では、西條剛央氏が、1か月の乳児とその母親を対象に縦断的観察を行った研究があります。横抱きから縦抱きへと移行するプロセスは、乳児が横抱きに抵抗を示し始めることと、乳児の首がすわるという体の状態が母親の縦抱きをアフォードし、母子間の相互作用を通して、母親は横抱きから縦抱きへと探索的に移行することを明らかにしています。
保育園の先生方から、「首がガクガクした赤ちゃんを縦抱きにしているのを見るとハラハラする」と聞きますが、保育者は、赤ちゃんと、赤ちゃんの首がぐらぐらしている状態を気にしない親を心配しているようです。


歩行器と運動の関係について、論文検索サイトでは以下の3つの論文がありました。

神田英男「歩行器の使用やハイハイの量と1~2.5才期の運動能力との関係について」

発表年:1979

調査対象と方法:保育園に入園する30名の子どもに対する複数の保育者による行動チェック

結果:歩行器の使用の有無と運動能力一般との関連はなく、疲れやすさのみ関連が出た。

ハイハイと12.5歳の運動能力には関連があり、0歳期にハイハイであまり動き回らなかった子どもは、12.5才期にはころびやすく、活発に動きまわらず、歩くのを嫌い、階段や坂道を登るのを嫌がる、歩行の姿勢は不安定で、つまづき易く、運動的な遊びを好まない傾向があった。リズム運動や体操の上手下手や走る速さとハイハイとの関連はなかった。

考察:ハイハイは足腰の強さや安定性には強く関係するが、技能的な側面の発達とはそれほど強く影響しない。

 

坂田知子・海老原修・斎藤歖能「乳幼児の"匍匐(ほふく)運動期間"に生活環境の及ぼす影響 

発表年:1989 

調査対象と方法:保育園入園の71名の保護者への質問紙調査

結果:歩行器の使用の有無とハイハイの期間には関連がなく、ベビーベッドとは関連があり歩行が遅れる傾向があった。

考察:匍匐運動が果たす役割は、直立二足歩行に必要な能力を身につけるためのトレーニングと考えられるが、ベビーベッドは匍匐運動を獲得した乳児にとって運動を制限する枠となり匍匐運動期間を長くする傾向にあると判断できる。

 

足立正、嶋崎博嗣、三宅孝昭、服部伸一、前橋 明「蹴動作の発現と発達に関する研究」

発表年:2004

調査対象と方法:601名の保護者への質問紙調査

結果:歩行器を全く使用せずかつハイハイの機関が長かった乳児は、歩行を始める時期は遅くなるが、歩行から蹴動作が出るまでの期間は短い。

考察:乳幼児期に全身的かつ四肢の協調的な匍匐運動を十分に行うことは、立位において両足あるいは片足で身体を支えたり、足を操作したりするために必要な身体発育や運動発達にとって望ましい影響を与える可能性が示唆された。
海外の古い研究では「歩行器使用群に膝の屈曲(くっきょく)が低下」という結果がありましたが、乳幼児の身体や運動の研究を行う先生方に少し詳しくお話を伺ってみたいと思いました。
テレビで歩行器のコマーシャルが行われて以降、使用する家庭がまた増えているようです。テレビベビーシッターに子守をさせる育児よりも、探索的に動き回ることができる歩行器の方がよい気はしますが、歩行器に乗せなくても健康な赤ちゃんは本来ハイハイで探索活動を行うことができます。
発達に障がいがある子どもの歩行を補助するために、立位姿勢を補助する歩行器を使うことは必要だと思います。しかし健康な赤ちゃんが、腰を中心にした多様な全身運動をして、腰を据わらせ安定した歩行の準備を行っている時期に、わざわざ運動のバリエーションが限られる器具に入れてしまうのはもったいない気がします。
目くじら立てて「歩行器は絶対にダメ!」なんていう必要はないと思いますが、もったいないなあと思うのが保育者の性(さが)。ご飯や野菜が大好きな子どもに、わざわざお菓子を食べさせている感じです。
保育者はいつも子どもを見て、その子どもに合った環境を準備することが仕事のため、発達にそぐわない育児用品や育児グッズには敏感です。
見学させていただいた園の園長先生とは、乳児期の子育て支援が大事ですねと話しました。
保護者が検索するキーワードで、支援者が良質の動画や情報をアップするのが良いのかもしれません。やりたいことが多すぎです。

運動の中心は「腰」



コメント

トラックバック