本をまんなかに保育を語り合う2025/04/27

改訂版「保育者の関わりの理論と実践」を使って園内研修を継続的に行った園へ伺ってきました。
驚いたのは、先生方の本にたくさんのポストイットがついていたり、線が引かれていたりしたことです。
私が「あれは、何ページだったかな・・・」と探していると、先生方が先に「〇ページです」と回答。
こんなに読み込んでいただいているなんて、読み合わせ用に改訂して本当に良かったと思いました。


その園では、関わりの演習が終わったとのことですので、
次は物的環境についての読み合わせをしてみませんか?とお薦めをしてきました。

保育室や園庭の環境をつくる際にも、理論が真ん中にあると、膨大な玩具の中から玩具を選べるようになります。
手作りの玩具をつくる際にも、子どもがよく遊び込む玩具を作れます。

保育はチームで行いますので、一人だけ知識があるとちょっとつらい。
本を読み合い、本を真ん中にして保育を語り合うことで、よりよい方向が見つけやすくなります。
本が真ん中にあることで、それぞれの「人」に対する意見から、「本の内容」に対する意見となり、感情的な対立が起こりにくくなります。


学びのある話し合いは上の図の左側。経験が専門性へとつながります。
話し合いだけを重ねても、専門性の向上にはつながりません。

園内研修では、一つのテーマは1~2年程度としてテーマを変えましょう。
物的環境が6割か7割できたら、次は人的環境の向上へ。
人的環境が7割できたら、次は保育内容の展開(保育者が提供する文化・活動)の向上へ。
文化の提供もある程度よくなったら、子どもの把握と理解へ。
環境構成を5年も10年も探求するのでは研修時間がもったいないです。

また一人の保育者が環境構成も関わりも内容の展開も子どもの把握も完璧というのは非現実的です。
お医者さんも美容師さんも学校の先生も、技術は人によって違いがあります。

保育でも、(私は子どもをひっぱって集団ゲームをするのが好きだ)とか(私は環境をつくるのが得意)、(自分は絵本が大好き)とかそれぞれに自分の強みがあることでしょう。
自分が得意なことを伸ばして、補い合って助け合って保育ができるといいですね。

読み合わせをしてくださっている皆さん、いつもありがとうございます。

積み木と一緒に揃えるもの2025/04/20

環境の充実と共に、積み木を保育に取り入れる園が増えてきているように思います。
初めて積み木を取り入れた園では、どうやって遊びを援助すればよいのか、迷うこともあるようです。

たとえば持ち手のついた「はめ込み型パズル」は、子どもに遊び方を示してくれています。
しかし、白木の積み木は子どもが想像することで遊びが広がる素材です。
そのため最初の内は保育者が一緒に遊んだり、ときには本格的に何かを作ることで遊びが広がっていきます。

また年少のクラスでは、動物や魚、人間の人形などを置くことで、想像のきっかけになります。
近くに動物園がある園では動物人形、水族館がある園では魚など、子どもたちの体験に合わせて揃えると良いでしょう。年長クラスになると、紙や紙粘土等を使って必要なものは作ることが増えていくようです。

表情が無表情なのもよい。立てたり座ったり斜めになったり姿勢も表情豊かな人形。


人形や木を使って建物を表現。

動物人形を使って動物園を表現。小物は大きさがあり安定性が高いと遊びが広がりやすい。

感覚統合理論による大型遊具2025/04/13

見学に伺った園の保護者よりお手紙をいただき、ある公園を教えていただきました。
高崎市観音山公園にある「ケルナー広場」
ドイツのアトリエ・ケルナー社が提供する大型遊具が設置されています。
こちらがつくられた経緯や活動の内容はNPO法人「時をつむぐ会」のページをご覧いただきたいと思います。

ケルナー遊具は、エアーズの感覚統合理論を、遊具の設計に活用しています。
また形状の特徴は、自然の樹木や地形など自然の形に近いことです。
木村歩美先生がつくる大型遊具とも考え方が共通しています。

多くの園庭にある大型遊具は遊具の”引付け力”が強すぎて、子どもが遊具に遊んでもらう状態になりやすいものです。ケルナー遊具は自然物と関わるときと同様の動きを引きだす形状をもちながらも、人工素材を用いているため耐久性が高いのはうれしい点です。隣の遊園地の跡地には子どもを遊んでくれる遊具があり、様々な大型遊具と子どもの姿を見て、遊具のあり方を考えることができました。

足元は小さな砂利で風の強い高崎でも砂が舞いにくくなっています。

とても勉強になりました。
教えていただきありがとうございました。

物語絵本・科学絵本から広がる遊びの世界2025/03/21

退職にあたり、ほとんどの本をスキャンしてパソコンへ入れましたが、研修で紹介するために数冊だけ手元に残しました。そのなかの2冊がこの本です。

物語絵本を使ったプロジェクト保育、テーマ保育の実践紹介集です。
絵本のカリキュラムが掲載されているのも押しの理由です。



つづけて2024年に続編として科学絵本、図鑑を使った保育実践が紹介された本が出ました。
4つの園の保育実践をじっくり読めます。

物的環境と人的環境にプラスして、保育者が提供する文化や体験によって
子どもたちの豊かな遊びのイメージが広がります。
環境は構成してみたけれど、玩具に遊んでもらっているばかりで
遊びが広がらないという場合には、絵本を見直してみるとよいかもしれません。

学生さんたちにもぜひ読んでほしいと、学習室用にも3冊購入しました。
保育ってなんてクリエイティブで面白い仕事なんだろうと、ワクワクが止まらない本です。

領域「環境」の視点から園に準備したい科学絵本・図鑑・写真集は、
拙書「保育内容5領域の展開」郁洋舎のp119~121の絵本リストをご活用下さい。

2025年3月末で大学を退職します2025/03/10

公募情報などでお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、
定年よりも2年早く、大学を退職することにいたしました。

退職しても保育の専門性の探求を続け、10年以内には5冊目をまとめたいと思います。
日々現場で頑張っていらっしゃる皆さんと一緒に自分にできることを続けていく所存です。

研究室の整理を続けて最後まで残ったのがこれまでいただいた色紙や手紙の数々でした。

在職中にお世話になった皆さま、ありがとうございました。
そして、これからもよろしくお願いします。
このブログを読んでいるまだお会いしていない皆様、お会いした時には声をかけてくださいね。
講演や園内研修は、地域のこどものとも社さんか郁洋舎さんにご相談下さい。

環境を構成している園ほど偏差値が高くなる!?2024/12/18

教育経済学者の中室牧子先生の12月11日発売の著書
「科学的根拠(デビデンス)で子育て 教育経済学の最前線
ここに全国の園長先生方が大喜びしそうな研究が紹介されていて慌ててブログを書いています。
きっと来年、中室先生は全国の園長研修に引っ張りだこになることでしょう。

本には、「質の高い保育所や幼稚園に通うと、小学校入学後の学力が高くなる」という研究結果が紹介されています。この研究では質の高さを測るものとして「保育環境評価スケール」が用いられています。
日本の園を対象とした中室先生らの研究によると、「保育環境評価スケール」の評点が1点高くなると、小2時の算数の学力テストの偏差値が5.2高くなり、国語でも5.5高くなる(p221)というのです。

さらに園長先生の信念と、「保育環境評価スケール」で測った幼児教育の質の関係として
園長の「基礎学力重視」の信念が強いと幼児教育の質が低く、
園長の「関心・経験重視」の信念が強いと幼児教育の質が高いということもわかったそうです。
(ここまで読んでAmazonへ行ってしまう方も多いと思います)。

保育者たちが、保育の質を高めようとすると、保護者からの抵抗があります。
先の研究は改善の根拠を明快に示すものであり、保護者への説明がしやすくなるでしょう。
また、「親は、質の高い保育所や幼稚園を見抜くことができない」(p227)という内容もあり、
保育を変えることをためらう保育者の背中を押してくれそうです。
この本を追い風に、日本の保育園・こども園・幼稚園の保育環境の改善が一気に進みそうだと希望を抱きました。

「第9章 日本の教育政策は間違っているのか?」からぜひお読みください。

保育者の専門性第四弾が出版されます2024/09/08

大変にお待たせしました。
保育の専門性シリーズ第四弾
「子どもの把握と理解」がやっとやっとやっと出版となりました。
この本の主な特徴は4つ。
1.子どもを理解する前に、把握することの必要性を示したこと。
2.子どもの「心」以外を把握し、理解する視点を示したこと。
3.記録と話し合いよりも、日常の保育のなかで子どもを把握する方法を示したこと。
4.援助の方法として、関わり以外の方法を示したこと。

特に、保育者の記録の負担を増やし、
推測で子どもを理解したつもりになるトレーニングが
保育者に推奨されている現状を何とかしたいと、
研究を続けてきました。


学びのない振り返りが推奨されるのは、
保育は人間性でできる仕事だと誤解されているから。

保育者自身が、独自の専門性に気づき、
それらが養成・研修されるようになれば、
保育の質は格段に変わることと思います。


こどもになって世界を見る「こどもの視点カフェ」2023/06/27

院生たちと一緒にITOCHU SDGs STUDIO KIDS PARK
併設された、こどもになって世界を見る体験型カフェ
「こどもの視点カフェ」へ行ってきました。


昨年行われた「こどもの視展」の展示物の一部が
KIDS PARKと共にオープンしたカフェのなかに常設展示されていました。
カフェは予約は不要です。
イキイキ感とくつろぎが感がほどよくて赤ちゃん連れでも使いやすい、さすがのデザインでした。

「2歳の朝食」では2歳から見た牛乳やコップの大きさや重さを体験。
う~ん大きい。



「4メートルの大人たち」では、
子どもから見た大人の大きさを実感。
ランドセル体験は、予想以上に重くてとても歩けません。


乳児保育の授業では、
「赤ちゃんから見たら保育者は巨人だから、
子どものそばをガサガサ歩き回ったり、
巨人同士で大声で話したりしないでね」と説明していましたが、
まさにここでも「巨大生物」と表現されていました。

上田女子短期大学の幼児教育科の学生さんたちは、
この展示を自分たちの地域でも体験してもらいたいと
手作りで、4メートルの大人人形や
ランドセルを手作りし、ショッピングセンターでのイベントを開いたそうです。
会場では、保育士の知恵なども展示したのだとか。

上田ケーブルビジョンの6月12日UCVリポートで内容が紹介されていました。
https://ucv.co.jp/program/report/22649/

すばらしい取り組みですね。

地域に向けてのイベントの準備は
学生さんも教員の皆さんもほんとうにお時間を使っておられると思います。
準備される先生方、学生の皆さんを心から尊敬します。

7月2日(日)13時から16時まで、アリオ上田で、
第二回目の「こどものミカタフェス」をされるそうです。
応援しています!

保育環境ビフォーアフター2023/02/27

木村歩美先生が環境づくりについて解説するYouTube動画を発見しました。
動画をアップしたのは、「保育士チャンネル」【仕事Live】。
このチャンネルは、藤原里美先生の動画が面白いよと
人に教えていただいて、よく拝見していました。

この動画では、園長先生が
環境改善のプロセスを語り、
木村先生が解説を行っています。
保育室をたっぷりと見ることができるのも魅力です。
9分間ですから、昼休みにクラスで見るのにぴったりですね。

チームで保育をする保育では、
園内研修で全員が同じ情報を共有することで
保育の質を高めていくことができます。
たとえば
同じ本の読み合わせをする。
同じ動画を見る。
それを題材に、「自分の園ではどうするか」を話し合う。
このような主体的・対話的な学びを継続的に行うことで
学び合う文化、対話の文化がつくられていきます。

この動画も他園の保育室や改善のプロセスを知ることで
自園の環境づくりを考えるきっかけとなりそうです。

ただネットの保育関連の動画には、
昭和の時代のような残念な保育室や
昭和の時代はよくても、
今では「幼児期にはふさわしくない」と言われる実践も
数多くアップされています。
情報を、取捨選択しながら使いたいものです。

不適切な保育と不適切な関わり2023/01/31

もう不適切な保育のお話は書きたくないのですが、
今、このテーマでの研修が各地で行われているため、
情報を書いておきますね。
またこれからの時代、AIが文章を収集して知をつくると考えると、
ネットに書くことにも意味があるように思えてきます。

さて、ニュース等では、不適切な関わりを不適切な保育と呼んでいますが、
私の研究では、不適切な保育不適切な関わりは違います。
図で表すと以下の通り。
不適切な関わりは、不適切な保育の一部です。



不適切な保育には、
(1)重大な障害や死亡事故が起きる可能性が高いもの
(2)教育の放棄、ネグレクト
(3)子どもの人格を尊重せず、人権を侵害するもの
(4)子どもの意欲を奪い、劣等感や無力感を与えるもの
の4つがあります。(「保育内容5領域の展開」p38~43)

不適切な関わりには、
保護者への不適切な関わり
子どもへの不適切な関わり

関わりの本では、保育者と子どもの関わりの質を高めるために
時間・空間の環境を変えることを提案していました。

しかしニュースになるような事例の場合には、
時間、空間以外にも、要因があります。

         図 不適切な関わりの要因


子どもへの不適切な関わりが起きやすい園、それは、
子どもに何かをさせることが中心になっている園
物的環境・時間の環境が悪く、先生が忙しい園
関わり方の学習が行われていない園
不適切な関わりが許される風土(雰囲気)がある園です。

私は、保育の質を高めるために、
園の代表者だけが講師の話を聞く集合研修よりも、
園の全員が参加し本を読み合う園内研修を推奨しています。
これは、上記の図の3の「学習機会の少なさ」と
4の「不適切な関わりが許される文化」の改善をねらうためです。

園内研修で本を読み合うと、
不適切な行為を全員が認識できます。
そして、「よく怒る先生は、発達が分からない先生」
「よく怒る先生は、関わり方が分からず困っている先生」
という情報が全員に共有されます。

そうすると、優しい先生たちが元気になり、
それまで怒鳴っていた先生が怒りにくくなるのです。

上記の図の不適切な関わりの要因である1、2、3、4は、
いずれも園長、主任のリーダーシップで変えられるものです。

もしも保育者の言葉がきつい、
優しい先生から辞めていくという状況がある場合、
これらの要因を改善してみるのはどうでしょうか。

研修講師の皆さん、
図は、研修等で引用してぜひお使いください。

の、p38~42と、p171(音楽表現)p183(造形表現)をご参照ください。