保育者の専門性「保育内容5領域の展開」2022/07/01

大変に長い間、お待たせしてしまいました。
やっと保育の専門性シリーズ「保育内容5領域の展開」が公刊となります。

高山静子「保育内容5領域の展開~保育の専門性に基づいて」郁洋舎 2022.7.19

今回は、文化の提供、活動の選択、行事のあり方が中心です。
環境だけ、関わりだけでは、いい保育にはなりません。
小学校以降との教育内容の連続性を確保するために、
5領域よりも細かい10の視点で発達と活動の体系化をめざしました。
たとえば小学校で文字が書けるようになるには、0歳ではどんな経験が必要なの?
という保護者のニーズにも応えるものです。

保育が変われば社会の未来が変わる

最近、環境の構成は保育の技術として認められてきましたが、
関わりや、保育内容の展開は、まだ保育者の技術と考えられていません。

私の仕事は、保育者がもつ実践知・経験知を言語化し理論化することです。
この本を読んだ保育者の皆さんが、
自信と誇りをもって堂々と胸を張る姿を想像しながら原稿に向かいました。

未だに保育は、誰にでもできる仕事と誤解されています。
私は保育所の保育士と大学教員を経験していますが、
保育の方が、大学の講義よりはるかに知識も技術も必要でした。
教育の対象を理解すること一つとっても、
大学生の理解は、経験や推測で何とかなりますが、
乳幼児の場合、専門知識がなければ行動を誤解し叱ってばかりになります。
集団の保育は、人柄がいいレベルではとてもできません。
また保育士が一人の子どもに与える影響は、大学教員が学生に与える影響よりはるかに大きいものです。

日本の保育実践者がもつ専門性を明らかにする研究が、やっと3冊目まで終わりました。
次は「子どもの把握と理解」(東京都公立保育園協会「広報」で連載中)、
そして「保育のマネジメント」(ただいま研究中)と続きます。

この暑い中で汗を流し、子どもたちのために心と体を尽くす保育者の皆さんを、心から尊敬しています。
保育者の皆さん、世間の誤解を超えられるように一緒に頑張りましょう!!

質問会を行います2022/06/19

この10年、保育の環境づくりに関する本がたくさん出版されましたね。
とくにここ数年は、さまざまな園庭づくりの本が出ていて、ワクワクしながら勉強しています。

ただ残念なことに、まちの大型書店では保育の環境構成に関する本には出会えません。書店には、環境構成のコーナーはありません。保育の質を高めることができる専門性の高い本が出版されても、保育者の皆さんの手元に届かないことをひたすら残念に思っています。

さて、今年は「オンラインライブ保育講座」の講師の順番が私に回ってきましたので、テーマを「保育環境について何でも質問会」としました。全部質問会にしたかったのですが、一応少しだけ講義をします。
90分ですし質問にすべてお応えすることは難しいと思いますが、質問の共通性を見つけながらお話できればと思っています。私にお応えできる範囲で実践を紹介したいと思います。

2022年7月23日(土)14時~15時30分


環境を構成しはじめて20年以上のベテランの先生でも、(環境づくりは難しい)と悩みがなくなることはありません。
それは、環境の構成には前提となる専門知識と技術が多いためです。

「改訂環境構成の理論と実践」郁洋舎 p38

保育の質を高めるためには、物的環境のみを完璧にしようと追求するよりも、ある程度環境をつくったら、次は他の専門性を高めることがよいと思っています。たとえば物的環境を改善して7割上手くいくようになったら、次は時間の環境、そして次は人的環境、それもできたら文化の質を高める。このように保育の全体が高まるように、質のマネジメントを行うのはどうでしょうか。

今回は物的環境を中心にします。

園庭に「のっぱら」をつくった公立園2021/10/16

ソニー教育財団が主催する「科学する心を育てる」保育実践論文で
今年度最優秀園に選ばれた
世田谷区立希望丘保育園さんの実践発表会に参加しました。

子どもと話し合って園庭に虫が集まる「のっぱら」をつくり、
子どもの探究や探究を支援する職員の姿が報告されました。

保育士のときに園庭に雑草を残してほしいと園長に嘆願し続けて
実現できなかった私には、うらやましい限りの実践でした。

家のまわりや公園では子どもが土も掘れない、草もちぎれない
という地域が多い中で、園庭にちぎっていい草がある、
虫が来る原っぱがあるのは何と豊かな環境でしょうか。

発見は、園庭の端に雑草を残すこと以外にも、
畑や花壇のような小さな雑草園をつくれるということでした。

園庭の一部に、虫が来る野菜を植えることがありますが、
雑草園では、花壇や畑以上に子どもが関わる頻度が高くなります。

園庭の一部に雑草を生やすのは、
木を植えるよりも取り組みやすい環境づくりですね。
また、子どもが虫と関わり探究する姿は、
大人から「子どもの学び」が見えやすいため、
子ども主体の学びに軸を移すきっかけにもなるでしょう。

詳細は、ソニー教育財団さんのホームページでご覧ください


実は、一番興奮したのは、
希望が丘保育園さんの二階は東京シューレで、
三階は若者の交流居場所だということでした。
いやあ、こんな複合施設ができているなんて
保坂市長、さすがです!

子どもが自分の身を守るためのクイズ2021/10/10

「保育内容の展開」(5領域の0歳から就学前の体系化)の研究では
具体的な活動が、大人中心になっていることに気づきました。

たとえば、
子ども自身が考える活動が少ない
子ども自身が決める活動が少ない
子ども自身が話す活動が少ない
などです。

子どもの安全に関しても、
保育内容健康のテキストやシラバスには、
大人がどうやって子どもの安全を守るかが中心で、
子ども自身が経験する「活動」が少ないのです。

大人が決める日常のルールや避難訓練を
子どもが自分の身を守るために、
子どもが考え、行動を決め、話す活動に変える必要があります。

保育園の送迎バスの事故を受けて、
RESCUE HOUSE レスキューハウス
というYoutube動画で
「車に取り残された時にはクラクションを鳴らし続ける」
という術を子どもに教えるべきと説明されていて、
なるほど!と思いました。

車に取り残されたらどうするか
地震が起きた時にどうするか
火事のときにはどうするか
大人の人に嫌な触られ方をしたときにどうするか
誰かにたたかれたりけられたときにはどうするのか
などなど、身を守るすべを考え話し、練習する活動が必要です。

昨年内容の展開の研究で自分の身を守ることにつながる絵本は
ずいぶん出ていることが分かりましたが、活動を集めることが大変でした。


さっそくゼミ生に、
「誰か子どもレスキュークイズの開発研究やらない?」
と誘うのですが、誰も乗ってくれません。

内容の指導法「健康」を教えている方
年長児を担任する先生方、
授業や園で取り入れてみませんか?

好き嫌いが多い子どもの援助2021/09/07

食事の指導で迷っているという保育者にお勧めしている本があります。

クレア・ルウェリン、ヘイリー・サイラッド「人生で一番大事な1000日の食事」ダイアモンド社 2019


子どもの食事についての様々な研究が紹介されています。

たとえば、

・子どもは「甘い物は栄養がある」と認識するために好きであり、「苦い物は毒がある」と認識するために、苦みのある野菜を嫌う。

・子どもは、生まれつき小食の子どもとたくさん食べる子どもがいる。食事量は子どもにより異なる。

子どもにプレッシャーをかけると、食事量は減り、好き嫌いが増える。子どもに強要しない食事指導は、科学的な指導である。


7月にある園の研究発表を聞きました。

食欲が薄い子どもへの働きかけで子どもが変わったという実践です。

その内容は、遊びや生活全体を通して、

食事への関心を促し、食事の意欲を改善するものでした。

食事の環境の改善や、野菜づくり、食に関する多様な教材研究が紹介されていました。


この実践を聞いて、上の図が浮かびました。

優れた保育者は、子どもを変えようとするのではなく、

食事の環境や関わり、教材、遊びなど、自らの保育を変えようとする。




もしも、保育者が子どもが食べないことにこだわり、

子どもを変えようとしたならば、

子どもは自分のネガティブな部分によけいにこだわるようになるでしょう。



また食の意欲は、自律神経に影響を及ぼす生活全体の現れです。

自律神経が機能していないと、食欲はわきません。

日中、光を浴び、走り回り、声を出して笑い、じゃれつきあい、

いきいきと心と体を動かす生活をする

保育者は、そういった生活全体で食の意欲を支えます。




食事場面の「指導」だけで、子どもの食の意欲を引き出すことには限界があります。

まずは、その子どもへのまなざしを変えることからはじめてみましょう。


「改訂保育者の関わりの理論と実践~保育の専門性に基づいて」郁洋舎2021 p44より



不安のコントロール2021/08/20

夏の実習がはじまりました。
実習は、不安との戦いですね。
いまだに授業で緊張する私には、学生の緊張が痛いほど分かります。
不安もちの私が、不安をコントロールするためにやっていることを書いてみますね。

【不安をコントロールするためにやっていること】
1 早く寝る
夜はできるだけ早く寝て、早朝に起きて仕事をします。
負の感情のコントロールには、寝るのが一番です。

2 太陽の光を浴びる
遮光カーテンを使わずに朝日で起きます。
朝も日中も太陽の光を適度に浴びます。

3 明るい音楽、元気が出る音楽をかける
音楽は、気分のコントロールに最適です。
朝は、ユーチューブで「元気が出る曲」をかけ、
夜はリラクゼーションの音楽をかけることが多いです。

4 動く、笑う、話す
動きながら落ち込むのは難しいので、動きます。
笑いながら落ち込めないので、気分が落ち込んだら口角を上げます。
オンラインでも家族や友人と話すと気持ちが楽になりますね。

5 甘い物やお菓子はちょっとだけ
私はお腹が空いたり甘い物を食べたりするとイライラする体質なので、
甘くて美味しい物は、ちょっとだけ食べます。

6 練習する 
本番で緊張しないためには練習が一番。
練習をすると自信がつくので、緊張が少しはましになります。


今年は実習前に外出できないのでとくに不安になりやすいと思います。
実習前二週間は、実習で出会う子どものために使ってみましょう。
実習に不安を感じている皆さんの参考になれば幸いです。




モンテッソーリの空間や教具など2021/06/21

今日は保育原理でルソーやモンテッソーリなどの
思想を紹介する日、で思い出しました。
また下書きに入れっぱなしでした。

日本モンテッソーリ教育綜合研究所附属の 
子どもの家&小学部の主任教諭をされている
松尾博也先生より、ホームページ更新のご連絡をいただいていました。
紹介が遅くなってすみません。

子どもの家の保育室の環境の写真と
教具の使い方の動画が掲載されています。

福岡県の子どもの家の360度ツアーはこちら。

どちらも充実したページです。

理系のモンテッソーリが考案した教具には、
とくに操作遊び中心の1歳児クラスの子ども、
発達障害の子ども、
ギフティッド(天才児)、
家庭でしつけを受けられない子どもに
ぴったりの教材が揃っています。

モンテッソーリ教具には
小学校でも活用できる教材が多くあります。
家庭のモンテッソーリ商品は購入されているようですが、
教育機関にはなかなか広がりません。

ある保護者が「モンテッソーリとかやらないんですか?」と
幼稚園の先生に聞いたら「何ですか?それ?」と
言われたのだとか・・・う~んその回答は残念。

今日も学生たちと充実した学びの時間をつくりたいと思います。


写真はゼミ生がモンテッソーリ教具でつくった作品。
教具を組み合わせる発想はなかったかも。

森のようちえんが認定こども園に2021/05/27

4月26日・5月10日号の「游育」を読んでいると
嬉しいニュースが飛び込んできました。


長野県松本市の
「里山保育ひなたぼっこ」さんが、
令和3年4月から、
地方裁量型認定こども園になったそうです。
おめでとうございます。

幼児教育の無償化後、
森のようちえんや、公園での自主保育のような
自然の場を中心とした保育が、
ますます意識が高く経済的・時間的にゆとりがある家庭の
ものになってしまうのではと危惧していました。
この政策決定の背景には
保護者と関係者の努力があったものと思います。

記事によれば地方裁量型認定こども園は、
全国で82園あるそうです。
行政担当者の意識によっては、
地方裁量型認定こども園は良い方向に使えるのだと、
新たな学びをいただきました。

游育さん、いつも貴重な最新情報をありがとうございます。

内容を改訂しました2021/05/14

ついに三冊目の保育者の専門性、
5領域の体系化である「保育内容の展開」を出版します!
と書きたいところですが、
今は大変な編集作業をしていただいている途中です。
もう少々お待ちください。

代わりに、
「環境構成の理論と実践」改訂の
お知らせをします。

高山静子「改訂環境構成の理論と実践 保育の専門性に基づいて」 郁洋舎 2021

これまで一緒に本をつくってきた編集者が
昨年の状況のなかで出版社を立ち上げました。
独立ってどれほど勇気がいることでしょう。
応援企画といっては何ですが、
改訂版を郁洋舎さんから出版しました。

改訂で意識したのは、
「園内研修や授業内での
短時間での読み合わせのしやすさ」です。

学生は、私が講義ばかりすると
学び続ける専門職としての学び方を身に着けにくい。
集合研修に参加し、一人で本を読んでも
チームの質上がりにくい。
園内で振り返りや話し合いを重ねても、
古い知識のままでは保育は変わりにくい。

園内やクラスで読み合わせをして、
新しい知識、学びを元に保育を議論する、
専門職としての主体的な学び方、
短時間や週に数回だけ働く保育職員も含めた
チーム全体の知識をアップデートする
そんな学びを推進する教材としての使いやすさを考えました。

本を使った園内研修を続けてきた園が
今度、保育の変化について発表されると伺いました。
とても楽しみです。


新しい出発2021/04/02

4月1日、サバティカルを終了して復帰しました。
大学と、同僚の先生方に心から感謝。
本当にありがたいことでした。

4月から大学がキャンパスを引越したため、赤羽台キャンパスへ通勤します。


予測不可能な変化の激しい時代に向かって
保育同様、授業も変わらなければ、
と書いていたら、ご飯が焦げました。(鍋で炊いてます)

ICT活用の授業コンテンツづくりは、保育者の学びの素材にもなりそうです。
その気持ちでがんばってみます。