保育者のバーンアウト2011/11/30

尾木まり先生が監訳された本が出版されました。

保育者のバーンアウト
     ジェフ・A・ジョンソン著「保育者のストレス軽減とバーンアウト防止のためのガイドブック」
      尾木まり監訳、猿渡知子・菅井洋子・高辻千恵・野澤祥子・水枝谷奈央訳 福村出版



筆者は、自分も妻も、バーンアウトした経験から保育者のストレス軽減やバーンアウト防止の研究・啓発活動を行っています。保育のエピソード、家庭でのトラブル・・・国が違っても、保育者のストレスって実に似ているなあと納得。

ちょっと長くなるけど引用します。

「いずれにせよ、私たちには皆少なくとも一つの共通点があります。それは保育者であるということです。それは職場においてだけではありません。私たちのほとんどは、習慣的に他の人のケアをしています。共感し、愛情を注ぎ、思いやりをもって養育しています。そして、私たちはケアを必要としているどんな人にも『できません』と言うことができません。子どもの保育だけではく、子どもたちの家族、自分たちの家族、近所の人々、宗教的な集まりや市民グループ、知らない人、迷子の犬、そして巣から落ちてしまったひなの世話もします。それが私たちの姿です」
「多くの時間とエネルギー、そして自分たち自身のとても多くのものを他人に与えてしまうため、自分自身の欲求を無視する傾向があります」
「あなたが行くところはどこにでも、保育する子どもたちとのかかわりがついてきます」「休暇中でさえ、あなたは、子どもにみせるために光る石や、まつぼっくり、はがきを持ち帰りたいと思ってしまいます」

筆者は、バーンアウトの一番の要因は、「自分よりも他の人のケアに (多分はるかに多く) 時間とエネルギーを使う習慣」 だといいます。また、仕事に対して良いフィードバックを受けることが少ないこと、社会的な評価の低さと低待遇、仕事量が多いこと、過度の身体的負担などを挙げます。
保育という職務の大変さを理解してもらえるうれしさと、保育者へのあたたかいメッセージの数々に、涙ぐんだり、励まされたりしながら読み進めると次第に元気がわいてきます。後半は、ストレスを軽減するためのヒントが満載です。


この本を読みながら思い出すのは、私自身もう保育を続けるのは無理だと思った日々のこと。日中の子どもの保育で心も体も遣い尽くした後に、お迎えに来られた保護者の話を心をこめて聴き、ぼろぼろになって自宅の玄関で倒れこむ毎日を送っていました。まじめにカウンセリングなどの本を読み、保育に加えて保護者の心理支援までやろうとしていました。私の過労状態に周りの人が気づき「仕事を辞めなさい」と強硬に勧められ救われました。
在職中は、子どもと保護者の気持ちをうけとめきれない自分の非力を責めてばかりでしたが、退職して冷静になってみてから、「過酷な保育体制のなかで乳幼児の保育を行うことだけでも過重労働であるのに、加えて保護者のカウンセリングもなんて無理!」、「保育士は心理の専門職ではない」と、やっと怒りを感じることができました。(保育の条件が揃っていて10人の3歳以上児に3人の保育者がいる園ではできるのかもしれません)
子育て支援を経て保育の専門性を生かした無理のない保護者支援の方法にたどりついたところです。

著者はストレス防止という切り口から保育者を支援しています。私は専門性の確立による誇りと社会的地位の向上という切り口から、保育者をエンパワーすることをめざしています。
国は違っても、保育者の仕事を理解し力づける人がここにもいるといううれしさで胸がいっぱい。
尾木先生、翻訳者の先生方、ありがとうございます。


まだストレスよりも不安のほうが大きいであろう学生の皆さんには「新人保育者物語さくら」を、お勧めします。
研究室からこの本を借りていった人、返して~~。

コメント

_ (未記入) ― 2011/12/02 09:57

木村@P研その他いろいろ、です。
なかなかどうにも追いつかない日々で本当に本当にごめんなさい。
本のご紹介ありがとうございます。
すぐに取り寄せて読んでみます。

_ 高山静子 ― 2011/12/05 07:45

木村明子様。いつもP研と木村さんの記事には学ばせてもらっています。いい本、いい園、いい人に出会うと幸せ感いっぱいになれます。木村さんとお知り合いであることにも感謝しています!!この本、全国で頑張る誠実な先生方が保育を続けていくために広めたい本です。園の風土や園長の役割にもふれられていました。

_ 高山静子 ― 2012/01/30 00:08

キムラ先生、コメントをありがとうございました。浜松へようこそ。また、たった一回きりの講義を覚えていて下さり検索してくださったことに感激しています。ありがとうございます。
先生のおっしゃる通り、保育士には、保育士だからこそできる支援があると思います。

大学にきてもうすぐ4年。今年こそは研究会を開きたいと思っています。またブログで告知しますので、そのときにはどうぞよろしくお願いします。

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