経験を広げる手作り玩具2025/06/22

どの園からも相談が多いのが、興味や関心に強い偏りがある子どもたち。
発達障がいと診断される子どもも年々増えています。

生まれつき脳に障害があってもなくても、脳は環境に合わせて変化する臓器です。
乳幼児期は脳が著しく発達する時期ですから、その時期に人や環境と関わり、脳が発達できる生活が欠かせません。しかし家庭では朝も夜も映像視聴、園では寝っ転がって電車を横から眺めているとなると、脳は発達のしようがありません。

子どもの興味をいかして、子どもの経験を広げようと玩具や遊びで工夫している園があります。
たとえば愛恵保育園さんでは、車好きの子どもが指先の遊びができるように手作り玩具を作っていました。



手作り玩具に一人ひとりの子どもへの思いが感じられますね。

頭の中にトーマスや働く車の動画のイメージを強くもっている子どもは、電車の玩具を置いておくと一人遊びが続き、年齢と共に他の子どもと発達の差が広がることが心配されます。

映像イメージが強く遊びが極端に偏る子どもがいる場合には、電車の玩具は相談室や病児保育室へと移してしまうことも一つの手。保育室にはシンプルな段ボール箱や、牛乳パックの積み木を置いて、保育者や子どもたちで一緒に電車ごっこや自動車ごっこをすることもできます。

こちらは他の園のゼロ歳児クラスです。

単純な段ボールの方が自動車、お風呂などに見立てやすくなります。
大人の感覚で、ハンドルやタイヤやクマちゃんなどの飾りをつけないことが大事。
これなら保育者の負担はゼロでいつでも準備できます。


こちらは城南区こどもプラザの牛乳パックの手作り積み木。

牛乳パックの積み木は、押して走り回ることや、上を歩く、自動車を作って座るなどを想定して重く作ります。
また幅や高さは子どもの体の大きさに合わせ、細長すぎたり大きすぎたりしないようにします。
4個の横並べなど単純な形の方が、子どもが積み重ねたり動かしたりして試行錯誤ができます。
押すときに段ボールよりも姿勢が低くなるだめ、雑巾がけやハイハイと似た負荷がかかります。

弱い刺激では届きにくい子どもには、大声ではしゃぐ活動が必要です。
先生がトーマスになって「出発進行!」と牛乳パック積木を押して走り回れば、他の子どもたちが一緒に大はしゃぎで走り出すでしょう。療育施設と違い、園には子どもたちがいます。映像のイメージを、他の子どもと先生によって身体運動や人との関わりが伴う遊びへとつなげることができます。

療育機関は月に一度か二度。園は週5日、家庭は毎日、園と家庭が変われば子どもは変わります。

各園への訪問指導はあっても、その子どもと関わって一緒に遊ぶ指導者はなかなかいないと思います。
保育の専門性研究所では、療育のプロである今井寿美枝先生に実際に園で子どもたちと遊び、保育者や保護者への研修をするお手伝いを始めました。その子をもっと理解したい、具体的な関わり方や遊び方を知りたいという先生、保育の専門性研究所へご相談下さい。


乳幼児期の運動は、食事や睡眠と同じ2025/05/18

最近2つの園の保育者から、「公園が危なくて子どもを遊ばせることができない」という話を聞きました。

車道へ子どもが飛び出すことが予測される公園の例

共通していたのは公園の隣が道路なのに子どもが飛び出さない仕組みがないこと。
それでは保育者も保護者も安心して子どもを見守ることができないでしょう。

こういう話をすると、「親や先生がちゃんと子どもを見るべきだ」と言う人がいますが、
元々人間には、複数の子どもを同時にどこで誰が何をしているかを見る注意力は備わっていません。
10人、20人の子どもの行動を一人で見守ることは元々無理なのです。
そのため幼稚園や保育園では、門に鍵を二重にかけて子どもが道路に飛び出さない仕組みがあります。
車道に飛び出す公園はプールと同じ。人の注意に頼って安全を守ことには限界があります。

園庭が狭く、公園でも遊ばせることが危険となると、子どもの育ちには不利益が生じます。
乳幼児にとって、体を動かすことは発達に不可欠であり、
食事や睡眠と同じように毎日欠かすことができない生理的欲求です。
「昨日は公園で走り回ったから、今日は静かにすごそうね」なんてできません。

乳幼児期の子どもに、「じっとしていなさい」と言うことは、
「あなたは脳を発達させていけません」
「あなたは能力を獲得してはいけません」
と言うことと同じ
です。

乳幼児は動くことによって新しい能力を獲得します。
1歳の子どもは高いところに繰り返し登っては、高いところに登る能力を獲得し、
2歳の子どもは走り回って、走る能力を獲得します。
大人は登る能力を獲得しているため、高いところを見つけても、いちいち登りません。
人間の子どもは、複雑な脳のシステムをつくるために、起きている間中、活動を欲しています。

昔は「放っておいても子は育つ」と言われ、子どもが動き回れる地域がありました。
しかし今地域は車中心のまちづくりであり、
多くの親は子どもを遊ばせるためだけに公園へ連れていきます。

まちのハードは、子どもと大人、両方の行動に影響を与えています。
まちと子育てについてはまたつぶやきたいと思います。


つかまり立ちから後ろに倒れる2017/10/26

つかまり立ちの子どもが、後ろに転倒してしまうことについてメールをいただきました。
メールへの返信をこちらに書きますね。

子どもが立ちあがった状態から後ろに転倒して後頭部を打つことは危険です。

後ろへの転倒は、腰と体幹が不安定なことが原因と考えられます。
腰がふらふらなのに、腕の力や、足の突っ張りで、つかまり立ちをすると、
その後も歩行が安定せず、顔から転び、長く歩けないことになりがちですね。

つかまり立ちで後ろに転ばないためには、
あおむけの遊び、ハイハイ、床からの立ち上がりで
安定した腰と体幹をもつことが必要です。
でも、早くお座りを、早く立っちを、早く歩いてと
発達の先取りをされて、
手をつかずに転びやすく、長く歩けない子どもがいて、
保育者を悩ませています。

入園した段階で、つかまり立ちで後ろに転ぶ子どももいるでしょう。
もしも私だったら・・・

①まずは、つかまり立ちする箇所には、
ぶ厚いマットなどを敷きます。

②保育室の床は、斜面と段差、でこぼこ、フワフワをふやし
手をついて四つ足での移動が増えるようにします。

③段ボールや、牛乳パックの手作り積木、布団やクッションなどを使って、
またぐ、入りこむ、乗り越えるなど、
四つ足での複雑な身体運動が繰り返しできるようにします。

④回遊性や、直線の空間、その先に新規性の高い物を置くなど、
子どもが思わずはいたくなるような空間づくりをします。
廊下や他の保育室も使い、できるだけ長くハイハイ移動ができるようにします。

⑤保育者はハイハイで逃げたり、追いかけたり、
いないいないばあをしたりして、はうことを促します。

⑥園庭や散歩先にゆるやかな坂があれば
そこでハイハイができるようにします。
広い園庭でハイハイすることも促します。
人手があれば、階段でのハイハイも促します。

⑦また牛乳パックの積木や布袋など、大きいもの、重いものを置いて、
運んだり、押したり、ひっくり返すことを促します。

⑧抱っこ~と来ることも多いでしょうから、
そのときにはひざのせ遊びや飛行機など
じゃれつき遊びをします。
体のマッサージもしたいですね。

そうして、安定した腰と体幹を育てます。

保護者には、つかまり立ちで転倒していること。
後頭部を打つと危険なことをお伝えし、
おうちでもハイハイやじゃれつき遊びをしていただけるように
慎重にていねいにお話すると思います。

入園時には、パラシュート反射を確認し、
「転んで身を守る能力」を身につけていない子どもさんの場合には、
しばらくは顔から転んでけがをする可能性があることを、
対応と共にお伝えするでしょう。

園で0歳時期の経験を取り戻すのは、とても大変です。
保護者が、子育てひろばなどを赤ちゃんのときに利用して、
適切な子育て情報を見聞きできることが大事ですね。

赤ちゃんの育ちを支える子育て支援モデルは、こちらがお薦め。
「ここでみんなで育ち合い ここみ広場」
http://kokomi.hamazo.tv/
支援者研修も行われています。

学びの二つの方向性2017/06/17

保育学会の発表で、印象的な質問を受けました。
ここ数年、0~6歳の保育内容を体系化する研究を発表しています。
今年は、「人間関係」の発達と、発達に合う教材や活動の体系化です。

「高山先生は環境の研究者だと思っていたので、
教材や活動とは、一番遠いと思っていたのですが」

(え~~!そうなの~!)と心のなかで叫んでいた私ですが、
「環境×文化→豊かな遊び」
自分だけの常識だと気づいた瞬間でした。

自然・物的環境を準備するだけでは、豊かな遊びは生まれません。
森のなかでも、テレビの再現遊びを繰り返す子どももいます。
保育者が、どんな文化を提供しているか、それによって遊びの質は変わります。
子どもは、自発的な活動の中でも学び、大人の指導からも学びます。
遊び中心の保育や、環境を通した保育は、自由放任の保育とは異なるものです。

保育者のもつ専門性は、まだまだ言語化・理論化されていません。
私の専門性言語化計画。

本当は、環境構成も、子どもの把握も、関わり方も、
発達に合った遊びと生活も、保育のマネジメントも
養成で教えられれば良いのですが、
言語化されていないために、科目すら設置されていない状況です。

専門性のなかでも、環境構成が、他者に見え、
子どもの行動に影響が強いため、
最初に、環境構成の理論化に取り組みました。
ほぼ、まとまりつつあるのが、2冊目の保育者の直接的な関わりです。

そして、保育者のときから研究を続けているのが
3冊目の子どもの発達と遊び。
名のない遊びも含めて
この時期には、こんな遊びが子どもたちから生まれる、
またこのような遊びを通してこのような学びを得る、
それらを保育者が知っていないと、
小学校の先取り教育か、
教育の意図のないお楽しみ会のような保育、になりがちです。
保育者が想定する遊びの幅が広いほど、子どもの活動は広がります。





保育者は、どんなに子どもへの愛情や思い(エンジン)を持っていても、
発達の理解や生活や遊びの具体的な知識(車輪)がないと、前へ進めません。

うた、踊り、リズム活動、体操、絵本など芸術的な文化の質や
伝承されるおにごっこ、わらべうた、手合わせ遊びなど遊びの質によって、
子どもの日々使う言葉が変わり、体が変わり、遊びが変わります。

何億年もの進化の過程を、遊びのなかで繰り返す子どもたちに
どの時期に、どんな環境をつくり、どんな文化を提供するのか。
それは、とても難しいけれども、創造的な仕事です。

実践の現場から、保育者の意図と技術を明らかにしたいと思います。

子ども連れの移動の工夫2016/12/29

日本中が移動の季節。

子連れの帰省は、本当に大変だと思います。

飛行機で泣いている赤ちゃんに何とかしたくても

立ち上がることもできませんね。

飛行機でメモを書きためました。

 

子どもってどうしてこんなに移動中にぐずるの?と

大人は思うかもしれません。

(どうしてぐずるの?!)と思う前に、

こんな風に考えてみてはどうでしょう。

 

赤ちゃんが30分、車に乗せられているのは、

大人が、3時間座っているのと同じ。

1、2歳の子どもが飛行機で1時間座っているのは、

大人が、4時間座ったままなのと同じ。

そう思うと、ぐずる子どもに腹も立たないし、

ドライブでは、30分ごとに休憩をとろうという気になると思います。

 

「ひだまり通信」チャイルド社の元のお便りより。

脳を発達させる時期の乳幼児の脳は、

大人よりも運動と酸素を必要としています。

じっとさせていれば、脳に刺激も酸素も届きません。

乳幼児は起きている間中、手を使い、体を動かし

イキイキと心を動かしたいと思っています。

動くことは、乳幼児にとって生理的な欲求。

動けない状況は、食べられない、寝られないのと

同じぐらいつらいのです。 

そこで移動のときに大人にできることを

考えてみました。

 

【移動の前に大人にできること】

昼寝の時間が移動時間になるように移動する時間を工夫する。
・じっとする時間の前は、ぎりぎりまで子どもが動けるようにする。
間違っても待合室に座らせて絵本の読み聞かせなんかしてはいけない。
・乗る前に近くに公園や遊び場があれば、そこを活用。
・自由に歩き回ったり、階段を登るだけでも活動欲求は充足。
・迷惑にならない場所で、大騒ぎや大笑い、大声を出すのでもよい。
・寒い場所や暑い場所で遊ぶと、乗り物ではぐっすり。
・電車で我慢→待合室で我慢→新幹線で我慢ではぐずりたくもなる。
どこかで子どもの脳への酸素供給と発達保障を想定。
・じっとするとき用の「お出かけセット」をつくっておく。
(ふだんは出さない小さいおもちゃ、
音がしない座って遊べるおもちゃ、
シール貼りやクイズ系の薄手のワークブック、
開きやすい小さな図鑑類、折り紙など)をつくっておく。
・持参する絵本は、読み聞かせ系の物語絵本よりも、
その子の大好きな物の図鑑的な閲覧するタイプの軽い本を選ぶとよい。
(お出かけ用絵本は普段は出さないこと)
・赤ちゃんの場合、投げても大丈夫なように
音のしないガラガラを服にクリップ等でつけて
乗り物のなかで手を使えるようにする。
・想像力がある幼児(2歳以降)は、
手でもって動かせる小さな人形を両手に持てば、
お話をつくって30分は遊べる。

【移動中にできること】

・水分はこまめに補給。

子どもは暑がり。起きている時間は着せすぎではないか確認。

乗り物のなかでボッーとすることは脳を発達させる乳幼児には無理。

10分以上乗るときには何かを手に持たせる。

・子どもには、見通しや状況を話すこと。
赤ちゃんや幼児にも「今から新幹線に乗るよ」「今からお耳が痛くなるからね」と
今からどうするのか、今何が起きているのか、説明をすること。
「大人の留学生」を案内しているなら必ず説明するはず。
大人の留学生に説明が必要なことは、初めて社会を体験するわが子にも必要。
小さな子どもでも言葉がまだわからなくても、話した方がよい。

大人が大きな声を出してあやしたり子どもを興奮させないように配慮する。

公共の乗り物では「ここでは小さな声でお話しようね」と、くり返し教える。

幼児の場合には、新幹線や飛行機では、内部にさまざまな物を見つけたり

外の景色をいっしょにながめたり「あれは何だろうね」と問いかけて

子どもの好奇心を満足させることができる。

・新幹線であればレジャーシートを敷いて、
床で遊ぶ方が幼児は体が自由で集中して遊べる場合もある。

・どんなに配慮しても子どもが泣いたり騒ぐことはあるので、

周囲の人に「すみません。子どもが小さくてご迷惑をおかけします」と

一言声をかけたり、ぐずったときに、声をかけることもできる。

自家用車の場合は、子ども、ママ、パパなどそれぞれが好きな歌を流して

みんなで歌うなど、体はじっとさせても、声を出して活動欲求を発散。


普段から大切にしておくといいこと】

・日頃から気持ちのいい体を育てる。

食事・睡眠・遊びを十分にとれるように配慮し情緒が安定するようにする。

・子どもが小さいうちは、大人も子どもも疲れすぎないようにする。

日頃からよく遊ぶ子どもに育てる。

赤ちゃんのときからテレビに子守をしてもらうと、

テレビがないと遊べない子どもになりがち。

自分で遊びをつくり出せる子どもに育てておくとよい。

と、いろいろと保育の知恵を使って書いてみました。

それにしても、じっくり考えてみると

羽田空港のキッズコーナーは、本当に貴重な場所です。

あの窓側に、赤ちゃんを降ろせる場所もあるといいですね。

今、福岡空港が改装中ですが、最新のキッズコーナーがとても楽しみです。

今から東京駅ですが東京駅ではどこで赤ちゃんを降ろせるのか、

探してみようと思います。

緊急のブログ更新でした。

今年もブログをお読みいただきありがとうございました。

皆様良いお年をお迎えください。

脳に関するあれこれ2016/12/28

先日伺った園で、園長先生より「面白いですよ」と教えていただいた新書を、図書館に借りに行きました。
鈴木大介「脳が壊れた」新潮新書、2016

ついでに脳に関する本を借りてきました。
池谷裕二「進化しすぎた脳ー中高生と語る大脳生理学の最前線」講談社ブルーバックス、2007
宮本省三「脳のなかの身体ー認知運動療法の挑戦」講談社現代新書、2008


おもしろかった。

「脳が壊れた」は、ルポライターの著者による脳梗塞の闘病体験。
リハビリで脳と身体のつながりが回復していく姿は
脳が発達していく乳幼児の姿と重なる部分もあり、
赤ちゃんや幼児の世界を内側から見ているような気持ちになります。
目の前の物に手を出したいけれども出せないときの体の動きや気持ちの描写は、
2、3か月の赤ちゃんと同じなのではないだろうか。
物事に優先順位がつけられず、周囲にあるものに振り回される姿は
「1歳半の壁」を乗り越える以前の子どもたちを内側から追いかけているよう。
外に出ると、矢印マークを追いかけたくなり、
クワガタの死体をポケットに入れる筆者の姿に、
あの子はこんな見え方、感じ方かも、と感じる場面も多々ありました。
ずっしりとくるのは妻との生活。
家族に苦しんでいる人にも、この本はお薦めかも。
保育者には、「愛しすぎる女たち」を薦めることがありますが、
愛しすぎる男たちに、「脳が壊れた」を薦めたい。

さて「脳のなかの身体」は、認知運動療法をわかりやすく紹介した新書。
手足が麻痺したとき、従来のリハビリでは、
手足の骨や関節や筋肉など、物理的な身体に働きかけていましたが、
認知運動療法は、脳機能の改変による運動機能回復を目指すのだそうです!
一方向からのリハビリから双方向のリハビリへの転換です。
「感覚と運動は分離できない」-「知覚するために動く」。
「自己の身体を知り、身体を介して外部世界を知る」と
身体に関する本質的な言葉が次々と目に飛び込んできます。

「進化しすぎた脳」は、対話形式で幅広く脳に関する基礎知識を扱います。
「動物相手に実験しているとわかるんだけど、
下等な動物ほど記憶が正確でね、つまり融通が効かない。
しかも一回覚えた記憶はなかなか消えない」。
人間の脳では記憶はほかの動物に例を見ないほど
あいまいでいい加減
なんだけれど、
それこそが人間の臨機応変な適応力の源にもなっているわけだ」。
「(脳は)汎化をするために、脳はゆっくりと、そしてあいまいに情報を蓄えていく」。
のように、話し言葉での説明なのでわかりやすい。

012歳児クラスはなぜ子どもの手の届くところに玩具を置き
いつも手が使える状態にしているのか、
保育ではなぜ運動や動き、食事や睡眠を重視するのか、
適切な保育を理解するには、脳や身体の生理学的な理解が必要だと常々思います。
心理学による「子ども理解」だけでは、実践の根拠として足りない。
保育では、心理×生理×生態の総合的な「子ども理解」が必要ですが、
学問領域を超えた科目は、教える教員がいないから設置自体が難しい。
保育は、前提とする学問領域が幅広すぎです。


幼児の根気強さ2016/12/02

乳幼児をどんな存在と捉えるか、それが保育の要(かなめ)。

乳幼児は、幼稚で未熟で大人より感受性が鈍く、
大人が指導しないと何もできないと捉えていると
その環境には、お菓子のような玩具が並び、
子どもを楽しませる保育か、指導する保育に偏りがちです。

反対に乳幼児の独自性を知り、子どもを信じる保育では、
子どもが創造性を発揮する環境が準備され、
子どもたちは自律的に行動し、生活の主役になります。

乳幼児の子どもは、大人とは異なるステージにいて、
その時期その時期に、特有の姿を見せます。

たとえば、年長児が見せる根気強さもその一つです。
その集中力と粘り強さには、大人はとてもついていけません。

表現活動にもそれは現れます。
あおぞら第2保育園さんの年長さんの絵。物語の想像画です。
「森は生きている」のラストシーン。女王と女の子が一緒に帰る場面です。
女王様に「急いで!」と言われ、急ぎ過ぎてそりが宙に浮いてしまっているのだそうです。


こちらはある園で、発表会の後に見せていただいた絵です。
なんとも細かい。

「保育内容演習環境」の授業では、
1歳、3歳、5歳の絵を、予想して描いた後、
実際に子どもが描いた絵の模写を行い、
腕や手指の発達、環境認識の発達等を講義しますが、
5歳児の絵を模写する段になると、
学生から「えーっ」と悲鳴のような声が上がります。


あさひがおか保育園の子どもたちが作った自分たちの園。
集中力と根気強さを感じますね。

かつて日本では、地域での遊びや家庭の生活で、
集中力や粘り強さを発揮できました。
今地域や家庭では、子どもは「お客様」として遇され、
地域での遊びも、家庭の手伝いも、経験しにくくなっています。
時間泥棒の種類も増えました。(私も危ない)

幼児が粘り強さを発揮できる
時間と空間の工夫を集めてみたいものです。

這う、立つ、歩く2015/07/07

0歳児の保育や、0歳児の子育て支援では、人への信頼、注意を向ける力、腰を中心とした動き、この三つが要。

これらは、すべての発達の基礎となりますが、ふつーに子育てをしているとなかなか獲得が難しい。テレビベビーシッターさんや便利な育児用品を使いすぎると、人間よりもテレビ好き、人の声や動かないものには注意を向けることが難しい、腰が安定しないまま歩き始めてしまったなど、入園後に乳児期の発達の取戻しが課題となる場合も少なくありません。

今回はこのうち、脳の成熟と腰を中心とした動きの成果として現れる「ハイハイ」について書きたいと思います。
発達の道筋を細かく理解していると、子どもの姿もよく見えるし、援助もしやすいですね。

高山静子「ひだまり通信」チャイルド本社、2009より。イラストレーターさんが絵を描いて下さいました。
ハイハイから立ち上がるまで


私が書いた子育て支援の元の通信はこちら。このイラストはかなり頑張って書いた方です。
ハイハイから立ち上がるまで2


赤ちゃんは、べったりとしたうつ伏せの姿勢から、重心が胸から腰へと下がり、後ろずさり⇒回転⇒ずりばいで前進⇒四つ這い⇒高這い⇒床からの立ち上がりへと発達します。そのため、うつぶせで目の前のおもちゃに手を伸ばす段階の赤ちゃんには、おもちゃを前に置くよりも体の斜め横に置く方が、発達の足場かけになります。

広い場所で十分にハイハイできるようにすることや、つかまり立ちの段階の子どもには広い場所で床からの立ち上がりが経験できるようにすることは、子育て支援センターや保育所のような広いところでは考慮しやすいですね。手のひらが十分に開いて、親指を床をけるようにして這う頃には、スピードも増し、這うたびにバタバタと大きな音がします。床からの立ち上がりを何度も繰り返し、自分でバランスをとって立つことを獲得した子どもは、立った姿勢からバタンと倒れてしまうことがありません。

(足の親指が立ち始めた子ども。ここから高這いに入ります)

まだ体の準備が整っていない段階で歩く練習をさせられると歩行が安定するまでに長い時間がかかります。ずりばいから、あるいは四つ這いでも、手のひらが丸まっていて足の親指も使っていない段階で、大人に歩く練習をさせられて歩いてしまう場合、なかなか安定した歩行にならないので、2歳をすぎてもすぐに疲れて抱っこを求めることがあります。転んだときに手が出ない場合は、顔のけがをする可能性も高くなります。

1歳をすぎて入園してきた子どもさんは、パラシュート反射で頭を守るように手が出るか、遊びのなかで確かめてみましょう。手が出ない場合には、ハイハイ遊びや、斜面や階段を登る機会を増やして、手の開きや足の親指のけりを促すことができます。1歳児クラスだから1,2歳児の環境、と決めてしまわず目の前の子どもをよ~く見ると、0歳児の環境が必要な場合があります。腰が安定していない子どもがいる場合には、1歳児クラスでも斜面板や階段、トンネル、ごろごろと転げ回ることができる広いマットなど、腰を中心とした動きが経験できるようにしてみましょう

運動の根幹は様々な運動能力の基礎を培う0歳児の保育では、
〇新生児期~4か月の間に、仰向けで手足をバタバタと動かして遊ぶこと。
〇2か月~5か月の間に、機嫌のよい時間にうつぶせで遊ぶこと。
〇保育者が発達の先取りをして、赤ちゃんをお座りさせたり、立たせたり、歩く練習をさせないこと。
〇床からの立ち上がりが経験できるようにすること。
これらを意識してみましょう。

ハイハイのほうが歩行よりも難しい協調運動のため、脳の機能が影響します。低体重や早期産の場合には発達はゆっくりになるので、そこを加味して考えることも専門家としては大事なポイントですね。
また、先生方はよく聞くお話だと思いますが、乳児期の夜更かしや昼間外へ出ない(光を浴びない)生活の場合にも、協調運動の発達に影響が出ると言われています。(詳しくは早起きサイトをご覧ください)

2歳児はぶらぶら期2015/02/12

細田直哉先生から、「2歳児はブラブラ期」という話を伺いました。
先進国では、2歳児は大変な時期だと認識されているが、どこの国のお話だったか、自由に動き回れる環境がある国では、2歳児は「ブラブラ期」と呼ばれ、大変な時期という認識がないそうです。
「なるほどぉ~」と思わず声が出ました。

2歳児が機嫌が良いときは決まっています。
体の状態がすっきりしているとき。
広~い場所で、自由に好きな場所で遊んでいるとき。
好奇心が満足しているとき。
異年齢で、大きな子どもたちの集団に交じって周辺で遊んでいるとき。

逆に、情緒が不安定なのは、
おなかがすいているとき。眠いとき。体調が悪いとき。体がすっきりしないとき。
狭い空間で、活動欲求が充足できないとき。
人数に合わない量の玩具を取り合わないといけないとき。
順番や集団活動、待つことなど、発達に合わない活動を求められるとき。
同じ年齢あるいは自分より年下の子ども集団で、能力を持て余しているとき。

ぐずぐず、かんしゃくなどは、流れる日課にして、ブラブラ期の保障をすることで減らすことができるということですね。先日、1、2歳児を縦割りにしたら、かみつきがなくなったという話を伺いましたが、これもなんだか関係ありそうです。


ブラブラ環境が保障されている園の例。 保育室のドアは0歳児クラスでも開いています。(ながかみ保育園)


園庭も、ブラブラ環境がたっぷり。(ながかみ保育園)



両足ジャンプができるということ2014/04/07

ある団体より、昨年度行われた研究大会の報告書を送っていただきました。ありがとうございます。

実践のための研究」として行われた各保育園の研究報告は、他の保育者に役立つ内容として、わかりやすく(論理的に)まとまっていました。また、研究の目的と方法、研究(実践)の内容、その考察が一貫してまとめられ、「おお、目的・方法・結果・考察が串団子になっているよ! この研究も、この研究も、素晴らしい!」と夜中にひとり興奮しながら読んでいました。その研究成果や考察には、私自身、「なるほど」と気づきを得られる報告が数多くありました。

そのなかでふと目に留まったのが、2歳10か月で両足跳びができない子どもに対する実践でした。
その子は、歩行の確立が1歳1か月。男児にしてはかなり早いほうです。しかし、その子どもは「歩くときも走るときも、膝が伸びたままだった」という記述がありました。歩行開始後も段差が苦手で、スロープを降りることができなかったそうです。子どもの姿を細やかに捉えています。

私は読みながら、「そうか、膝が伸びているとジャンプができないのか」と大発見。ハイハイは、膝を曲げないとできないので、四つ這いの経験と、歩行前に床からの立ち上がりを繰り返す経験はできていたのかと気になりました。上半身と下半身のなめらかなつながりができていない姿勢からは、腰を中心にした運動も、まだまだ経験が必要ではないかとも思いました。

この研究では、考察に「意図的にいろいろな動きを経験する機会が必要」とありました。本当に、その通りですね。
運動に何か課題があるとき、動きを分けて経験できるようにします。それに加えて、その動きの前の発達段階に戻って、これまで獲得していない動きを遊びのなかで経験することも良いかもしれません。
たとえば、2歳でも5歳でも、リズム遊びや、表現遊びとして、動物になってハイハイしたり、動物になって鬼ごっこをするなどで、這う、転がるなどの動きを、経験することができます。また、歩行前に行う床から立つーしゃがむを繰り返す経験は、体操の動きに入れて毎日行うこともできます。
「転んでも手をつかない子どもが多くて、何をしたらいいですか」という相談もよくありますが、手をつくのも0歳の後半で自然に練習する動きですから、顔から転ばないための動きを考えて、体操やダンスでやってみてはどうでしょうか。細やかに子どもの姿を捉えている保育者は、体操や踊りの動きを目の前の子どもの姿に合わせて作ることができると思います。


 
高山静子「ひだまり通信」チャイルド本社より


母子手帳(父子手帳)や、保健センターなどで配布や掲示するものは、上とは違い、ハイハイの前に「お座り」が入っています。そうすると、親であれば当然座らせます。腰が据わっていない子どもを無理やり座らせたら、赤ちゃんはビクとも動けません。

保育は、総合的に捉えることが大切ですが、ときに細やかに部分に焦点をあててみてみると、それまで見えなかったことが見えるようになるものですね。報告書、大変勉強になりました。お送りいただきありがとうございました。