ビルの谷間の子育て空間2014/10/01

久しぶりに、福岡市の城南区子どもプラザへ寄ってきました。「ただいま~」って感じです。
城南区子どもプラザは城南区の保健福祉センターの中にあります。利用者が帰った後に写真を撮りました。


あたたかな空間はそのままで、ほっとします。窓の向こうはマンション群。



ここは保健センターの会議室。真っ白な壁に金属の防火扉ですが、畳と布と緑で、あたたかな空間を演出しています。色彩が抑え目で、人がいないと物寂しく感じるぐらいの空間の方が、人が入ることでちょうどいい刺激の空間になします。ちょうど、「子育て支援と心理臨床」に、引き算の空間について、コラムを書いたところでした。不思議なことに同じ号に、福島で頑張っている永野美代子さんの実践が紹介されていました。少しずつ子育て支援の現場から去っているなかで(私もその一人です)、現場でふんばり続ける人がいます。ほんとうにすごいことです。



HIDEKIさんがつくった台所はたくさんの子どもたちに使い込まれていました。ドレッサーもすっかりあめ色です。



ダイエーで買った両手鍋も大切に使われています。遊び込んでいる場所では、鍋もボコボコになりません。

城南区こどもプラザのスタッフは、広場の時間中、ずっと親子のそばにいます。公園への出張ひろばや外遊びの推進にも熱心に取り組んでいらっしゃいます。保健師さんたちとも連携が進んでいると聞きました。

マンションに囲まれたビルの谷間の子育て空間。いつまでも残っていてほしいと願いました。

「素材」に関する本2冊2014/10/10

今日は、遊びの素材に関する本を、2冊ご紹介します。

子どもたちが遊びを作りだすことができる遊びの素材には、砂や草等の自然物、自然物から作られた紙やひも、廃材、素材的な玩具があります。これまで、幼稚園や保育園で使われる造形の素材として、ペットボトルなどの廃材や、紙皿・紙コップなどがよく紹介されてきましたが、今月、積み木の本が出版されました。


素材の本二冊

右の本。吉本和子、脇淵爾良(わきぶちじろう)「積木と保育」エイデル研究所、2014

積み木には、「室内の砂場」という呼び方がありますが、元々積み木は、子どもが遊びながら自然の摂理を知ることを意図して考案されたものです。シンプルな形は、砂や水のように子どもたちを魅了します。
この本の前半は、0歳児から年長児までが、積木でどんな遊びを繰り広げているか、写真で紹介されています。それぞれの写真から、子どもは大人よりもずっと創造力があることを感じさせられます。後半は、積み木の基本的な積み方が紹介されています。レンガ積み、円を積む、三角を積む、屋根を積むなど。私は積木のワークショップで球形をつくってみたときに、陶芸を思い出しました。積木はそっとさわらないと、いとも簡単に崩れてしまいます。

左の本。子ども美術文化研究会「子どもが生み出す絵と造形ー子ども文化は美術文化」エイデル研究所、2012
こちらは、自然素材のみで遊ぶ園の様子が豊富な写真で紹介されています。水、砂、土、木切れ、竹ずつ、石ころ、わら、草、花、木の実、貝殻など。写真を見ているだけで、思わず笑みがこぼれます。

2冊を合わせて読むと、素材の質と量が、子どもの遊びの空間的な広がり、時間的な広がり、友達とのつながりなどに影響を与えることを感じます。ダイナミックな作品は、持ち帰ることや壁に貼ることが難しいので、園庭や保育室にカメラをぶら下げておくことがとても大切ですね。

ちなみに、来月号の「げ・ん・き」の私の連載テーマは、「遊びの素材」です。自然か玩具かの二項対立の思考から脱し、子どもと園の状況に合わせて選んでみるのはどうでしょう、という提案を書いてみました。

大学の保育実習室には、学生たちが素材を比較研究できるように、和久積み木(4.5センチ、3センチ)、保育積木、形の不揃いな積み木、カプラ、井形ブロック、ラキュー等を集めてみました。今は市販の素材的な玩具だけですが、これから廃材と道具を充実させ土も収集できればと野望を抱いています。

「保育の友」に書評2014/10/16

聖隷クリストファー大学の細田直哉先生が、雑誌「保育の友」(全国社会福祉協議会編、2014年9月号)「環境構成の理論と実践」の書評を書いて下さいました。アップするのが遅くなってしまいましたが、9月号に掲載されています。もしも定期購読をされている方がいらっしゃいましたら、お目通しをいただければと思います。


8月、9月は、保育実習の訪問と、保育実習室の備品・消耗品選びに夢中でした。改めて研究室で読み返し、(こんなに素敵な書評を書いていただけて、ありがたいなあ、うれしいなあ、私は幸せだなあ)、とニコニコしながら大学の廊下を歩いていて不審な顔をされました。。。




「美しい本です」と、評していただきました。保育環境の美しさは、保育者の心根の美しさでもあります。保護者に対するあたたかな思い、子どもたちに対する真摯な思い、それらが現れているのが、保育環境。
だから、写真一枚で感動を呼ぶのだと思います。


運動の質と量を高める工夫2014/10/20

雨や雪が多い地域、夏の日差しが強い地域、車で登園する地域、その他子どもが外で遊びにくい地域では、運動の質と量を高める工夫をしている園が多くあります。

この夏、G3(保育環境委員会)で、園長先生方と一緒に園見学へ伺いました。
そこで大変におもしろい実践を発見。ホール全体を改装して回遊性を高め、運動の質と量が変わるように工夫されていました。他の幼稚園でもこのような設計は見たことがありましたが、(改装でもできるんだ!)と、目からうろこが落ちました。


ホールの元の壁の前に、木の壁が張り巡らされ、壁が二重になっています。


ホールの一部は坂が設けられています。この坂の角度と広さが、子どもたちが集団で登ったりすべったりするのにちょうどいい。幅が広いため、先生が「じゅんばん」「下から登ったらだめ、上から降りてきているでしょ」と言う必要がありません。


ホールの端には大きなマット、鉄棒など、さまざまな動きを経験できる環境が設けられています。


この広いホールでは、それはそれはにぎやかに子どもたちが遊んでいました。ホールといえば、巧技台や大型積み木などをよく見かけますが、こちらの園では、大小のボールなど可動の遊具を使って、子どもが自由に遊んでいました。


ビリボで遊ぶ子どもたち。ビリボは移動が少ないけれども運動量が多いため、子育て支援などでも使いやすいですね。

他にも、ロディ(柔らかい馬)にまたがって動いている子どもや、ソフトボールを投げあっている子どもなど、それぞれの発達欲求に合わせた遊具を、自分で選択し遊んでいました。

「体操教室よりも自由遊びの方が運動の質と量が高い」という研究がありましたが、この園の子どもたちの姿を見ながら、ドッジボールよりも自由遊びでのボール遊びの方が、子どもの運動量は大きいと直感的に感じました。またどのような遊具を選択し準備するかによって、子どもの運動量は大きく変わると感じました。

たばる愛児保育園の園長先生、先生方、大変に勉強させていただきました。ありがとうございました。


保育実習室閲覧用写真2014/10/28

乳幼児期の保育(養護と教育)は、「環境を通して」行います。環境を通して行う保育は、子どもが体を通して学ぶことを助け、個別的で違いを尊重した学びを保障し、子ども自身の環境に働きかける力や継続する力を育む、実に学習心理学の研究成果に則った教育方法です。

この夏、学習心理学の本を読んでいると、ついつい学生の体験を通した学び→保育実習室の充実が頭に浮かび、消耗品や備品を選んだり保育園の写真フォルダからテーマ別に写真をコツコツと移動をしたりと、研究をそっちのけで時間を大量に使ってしまいました。造形表現に関する写真を集めたら140枚も!担当する授業で、学生に見せることができる写真はごくごくわずか。どうすれば学生が自然に多様な環境を学べるのだろうと悩み・・・、その結果完成したのがこれ。保育園でよく見かける写真のラミネートを真似してみました。








造形表現、ごっこ遊び、絵本、運動遊び、机上遊び、積木遊び、乳児クラス、人的環境などの写真を並べてみました。(一部は、A5の印刷を頼んだつもりがA6に、忙しいとこういうことをやります。とほほ)

今各大学では、主体的な学習を促進するラーニング・コモンズの設置が盛んです。その多くは図書館に設置されます。しかし机と椅子、パソコンとプロジェクターが置かれたスペースで、調べ表現し交流できる知は、言葉や図式などで表現できる知が中心です。

マルチ能力理論では、人間には、運動、絵画や造形、歌や音楽など、多様な能力があると考えられています。
保育者は、マルチな能力発揮が必要な職業ですから、保育者の能力はパソコンや言語では十分に発揮と交流ができません。そのため、実践型ラーニング・コモンズとか、マルチプルラーニング・コモンズとでも呼ぶべき空間が必要になると考えています。とくに今私が所属する学部には環境デザインや介護、スポーツなどを学ぶ学生たちがいます。多様な能力をもった学生たちが交流するクリエイティブな空間ができればと、妄想が止まりません。

保育者養成では、まだ保育実習室は必置ではありません。遊びを中心的な教育方法とする幼児教育では、保育者は意図をもって環境を構成しなければならないことが「保育所保育指針」にも「幼稚園教育要領」にも示されています。環境を構成する技術を机上で獲得することは困難です。主体的な遊びのなかで子どもたちが気づき考え学びを得る質の高い幼児教育を支えるためには、養成課程には保育実習室の設置が必要であると考えています。





園庭と保育室の環境に関連するカタログも、保育実習室に置いてみました。素敵な表紙を台無しにしてしまってすみません。(心を亡くしている証拠です・・・再び反省)